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「し、不死川様、困ります!しのぶ様はお客様と大切なお話を…」


襖が勝手に開かれた矢先に後ろからアオイの制止の声が聞こえて、彼が彼女の静止を振り切って勝手にここまで踏み入れてきたことは考えるより明らかであった。


「お客様ァ?」
「あらあら、不死川さんが蝶屋敷にいらっしゃるなんて珍しいですね」
「おい胡蝶、傷薬を…」


ここが主に怪我人を慰安する屋敷であることなんてまるで構いもしない様子で粗暴な口調で言葉を続けようとする彼を、直接お目にかかるのは一体いつぶりのことであろうか。


「お師匠様、」


久しぶりに対面するかつての師の姿に、思わず当時の彼の呼び名が口をついていた。


「…どうしてお前がここにいるんだァ」
「私が声を掛けたんです。ね、苗字名前さん」
「…はい、ご無沙汰しております。お師匠様におかれましては、「やめろォ」


ぴしゃり、冷たく低い声が座敷に響けば、全員がしんと静かに静まり返る。


(あぁ、不味い、間違えた)


風柱である彼の実力は、ほかの隊士とは比べ物にならないほど、強い。
その強さは柱の中でも上から数えた方が早いだろう。


私がまだ隊士だった頃、当時継子として彼の元で任務に当たっていた際に、彼が自ら蝶屋敷に足を向けたことなどほんの1、2回、数えるほどしかなかったと記憶している。
だから彼がこうして自ら胡蝶様を訪ねてくるなんて、それはよほど此度の任務で負った傷が堪えるものであるという何よりの証拠だ。
そんな手負いの際の彼はいつにも増して虫の居所が悪いことは、私は良く知っていたはずなのに。


「俺に弟子はいねェ」


不死川様は、とても手厳しい方だった。
でも、彼はいつだって正しかった。
彼のその厳しさは隊士として生きていくことの厳しさを現実に代わって言葉と態度で示してくださる優しさで、本来弱いものは生き残ることなどできず鬼との戦いで落としていたであろう命を、本当にそれが現実になる前に気付かせてくれる情けであった。


「…大変失礼致しました、此度の無礼をどうかお許しください、不死川様」


屋敷を出ようと歩んでいた足を止めて座敷の上で跪く。
此度の無礼と、どれだけ謝罪しても命ある限り決して償いきれる日など訪れないであろうこれまでの不義理に座敷に着くほど深く頭を下げる。


「…やめろォ」
「申し訳ございません」
「やめろって言ったのが聞こえなかったのかァ?」


頭上から降ってくる物々しい低い声の指示に従い垂れた首を正面に向けると、鋭い三白眼に視線を捕らえられる。


「もう一度聞く、なんでお前がここにいるんだァ」


「隊士でもないお前が」
不死川様の血走った瞳は、無言でそう訴えているように感じられた。







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