風呂から上がって髪を乾かすべくドライヤーのスイッチを入れる。
洗面台の鏡に映る自分の顔をあらためて見ると、まるで自分ではないみたいに酷く疲労の色が出ていた。
思えば最後に休みを取ったのはいつだろうか。
毎日そんなに大きな事件が起きるわけではないのだからたまにはサイドキックに任せて休みでもとればいいのだが、生憎育成に力を入れていないもので安心して任せられるほどの者もいないのが現実だ。
しかし休みを取っていないということはしばらく名前との時間をあまり過ごしていないということで。
温風を髪に当てながら明日の予定を頭に思い浮かべる。
しばらくメディアの取材は入っていなかったはずだし、協会の上の人間との打ち合わせも昨日したばかりだ。
明日は要請がかからない限りオフにしようと心に決めて、電源を落としたドライヤーを定位置に収めて名前が待つであろう寝室に向かうべく洗面所をあとにした。
---------------
「あ、早かったね」
寝室のドアをあけると名前はベッドのヘッドボードに身体を預けて雑誌に目を通していた。
「珍しいな。何か欲しいものでもあった?」
「ううん、そういうんじゃないよ」
病院の待ち時間に暇だったから買っただけだと言うその雑誌は、なんだかテレビで見た事があるような気がするモデルが少し気が早い冬服を身につけて表紙を飾っている。
「へぇ…あ、これなんて名前によく似合いそうだ」
「そうかなぁ」
「うん、名前には白が似合う」
名前の横に腰掛けてちょうど開いていたページを覗き込めば、膝より少し上の丈の白いニットのワンピースが目に付いた。
流行なんて正直よくわからないけれど、きっと男なら皆こういう類の格好は嫌いな奴はいないだろうというその服を指差せば、なるほど、ページの横には冬のデート服と大々的に企画が銘打たれている。
「これ着て俺とデートしてよ、名前」
「えぇー…」
「イヤ?俺の趣味だから、着てくれるならプレゼントするよ」
私にはちょっと可愛すぎる気がするけど、と呟いて俯く名前は、大きく否定しないところを見ると満更でもないようである。
生活の全てを俺が面倒見ている今、遠慮しないで甘えればいいと何度伝えても名前から何か欲しいと強請られたことは一度もない。
そんな控えめな彼女が好きなのだけれど、しかし男としてそれはそれで少し寂しいものも感じるわけで。
「でも、ホークス忙しいでしょ。私はいいよ」
開いていた雑誌をぱたんと閉じて、小さく笑う姿はどこまでもいじらしい。
「いや、明日休むから、俺」
「えっ!」
ただでさえ大きな目をさらに大きく見開いた名前は心底驚いている様子で、手にしていた雑誌がベッドの上に投げ出される。
「もしかして、どこか具合悪い…?」
瞳がこぼれ落ちそうなほどに開かれた名前の目が不安げに揺れて見つめてくる。
くるくると変わる表情が愛しくてたまらない。
俺の顔を下から覗き込む名前の上目遣いの瞳に胸の奥が灼けるように熱くなって、白くて形の良い額に口付けを1つ落とす。
「そうだね、ちょっと疲れてるかもしれない」
「大変、熱とか…」
熱を測る真似事だろうか。
小さくて少しひんやりとした手が俺の顔に添えられて、風呂上がりの熱を持った身体にはその感触が気持ちいい。
小さなその手に自分の手を重ねて、もう片方の手で隣に座っている名前の体を抱き寄せる。
「名前欠乏症みたいなんだ、今すごく」
そう告げると、俺の腕の中に引き寄せられた彼女の白い肌が耳までじんわり赤く染まった。
back