タクシーに乗るのは久しぶりだ。
空には障害物がないからどこへでも直線距離で行くことができるし、日頃公共交通機関を利用することはほとんどない。
マンションのフロントでコンシェルジュにタクシーを1台呼んでほしい旨を伝えて、エントランスのふかふかのソファにかけてタクシーの到着を待つ。


「どこ行こうか」
「うーん…」


悩んじゃうね、と言ってはにかむ名前はつやつやの髪をふわふわに巻いて、オフホワイトのワンピースがよく似合っている。マットなブラックレザーにゴールドの金具が光るローヒールのパンプスは、以前出先で靴が壊れた彼女にフェラガモでプレゼントしたものだ。


「名前はなにが食べたい?和食、洋食、…それとも中華とか」
「今日はパスタの気分かな」
「じゃあイタリアンか」


名前は空腹を確認するようにおなかに手を当ててそう答えた。
何を食べるか決まれば早速手元のスマートフォンで店を探す。
イタリアンなんて名前と出かけるときくらいしか行くことはないものだから行きつけなんてものはないけれど、とりあえず近頃人気だという店をおさえれば間違いないだろう。幸い平日ということもありすんなり手配できそうだった。


「お待たせいたしました、タクシーが到着しております」
「お、タイミングいいね。ありがとう」


30分後の予約枠をアプリで手配して、隣に座る名前とスマホの画面をのぞき込んでさてどれを食べようかとメニューを物色していればコンシェルジュからタクシーの到着を告げられる。
コンシェルジュに礼を告げて、ソファに沈んでいる名前の手を取りエントランスを抜けて車寄せに停まる黒いタクシーに乗り込んだ。



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「ごちそうさまでした」
「いーえ。お口に合いましたか?」
「うん、とっても」


手配した店はハワイから出店してきたのだというイタリアンレストランで、オススメされた名物だというウニクリームのパスタはなかなか美味くてぺろりと平らげた。
いつも自宅で食事をするばかりの名前は久々の外食にご満悦のようで、食後のコーヒーを飲みながらいつかハワイにも行ってみたいな、なんて珍しく希望的観測を漏らす。


「ねえ名前。昨日の雑誌で見たワンピース、どこで買える?」
「本当に買うんだね」


それならたしかこの近くの百貨店にショップがあったはずだけど、といってくすりと笑う名前もそれなりに乗り気なようだ。


「じゃあ、行こうか」
「うん」


近くを歩く店員に会計を告げてカードを渡す。もちろん領収書を頼むことも忘れずに。
すぐに席に届けられたカードと領収書を仕舞って、日当たりの良い窓際の席をあとにした。





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