「これと…これかな」
「えっと…」
「あ、あとこれも」
「ホークス、」
「ん?」


所狭しと淡い色が並ぶ女性向けのショップで棚の端から端まで次々と服を物色して、選んだ服を名前にどんどんと渡していけば呼びとめられる。
振り返れば、細い腕で重たそうに服を抱える名前の姿。


「あの、こんなにいらないんじゃないかなぁ…」
「そう?名前なら全部似合うと思うけど」
「そういうの恥ずかしいから、」


やめて、と小さく呟いて視線を落とす名前を、ショップの店員が得意の営業スマイルで持て囃す。


「お客様なら大層お似合いになられるかと」
「だってさ。そうだ名前、試着してみたら」
「さすが彼氏さん。お客様、是非あちらの試着室でお召しになってみてください」


お呼びでないのに横に立って接客してくるこの店員は、俺のことを素知らぬ顔で"彼氏さん"なんて呼ぶけれどきっと俺のことを知っているのだろう。
ここまで歩いてきたさっきまでだって、どこかしこからちらちらと向けられる視線にあまりいい心地はしなかった。
隣にいる名前の存在を気遣ってか、声をかけてこないあたりまだ俺のフォロワーはマナーが良いとは思うのだけど。


「え…」
「待ってるから着ておいで。気に入ったのを選べばいいよ」
「うん」


そう促せば、張り切った店員が名前の腕から抱えられた大量の服を受け取って試着室に運び入れて、名前も後に続くようにその室内に吸い込まれていく。
俺はその小さな箱型の空間の前に設置されたスツールに腰掛けた。


店員が一度その場を離れるのを見送って、すっかり有名人になってしまった自分に、こんなはずではなかったのだがと溜息が漏れる。
だからせいぜい中間位くらいの立ち位置に居たいのに。
そんなことを思いながら俺以上に野次の視線の被害を受ける名前に心の中で詫びを告げて、また溜息を溢せばカタリ、と音がして目の前の試着室の扉が開く。


「どうかな?」


そう言って出てきた名前がまず身につけて見せたのは、昨日雑誌でみたあの白いワンピースだった。


「…へぇ」
「…へ、変かな、?」
「いや、すごく似合ってる」


やはり俺の見立ては間違いではなかったようである。


かつて名前がヒーロー活動をしていた時、彼女は真っ白なヒーロースーツに身を包んでいた。
飛ぶのには少しでも軽い方が楽だといって薄手の生地でできたボディースーツにショートブーツを合わせて、真っ白な大きな羽を携える彼女は色素の薄い肌と髪の透明感も相まって俺にとって天使そのものだった。
その姿が大好きだった俺にとって彼女のイメージカラーは白一択だ。


「そのまま着ていてほしいけど…まだ少し暑いか」
「そうだね」


まだちょっと早いね、といって名前が笑う。
思っていたより仕立ての良いモヘアニットのそのワンピースと、それを身につけた名前を俺はとても気に入った。
今すぐにでもこのまま会計をして彼女を連れ回したい気持ちになったけれど、冬のデート服として取り上げられていたその服は秋晴れの今日には些か気が早い。


「他のも着てみせてよ」


そう告げると、こくりと頷いた名前は再び試着室の扉の中に消えていった。





*前次#

back