09
「そこのあなた達に一つ忠告よ!」
学校中のアイドル的存在である幸村の頬にキスをした事により女子達の厳しい視線や麗奈を罵倒する声がテニスコートに向かって放たれる。
しかし麗奈はそんな罵声や鋭い視線を物ともせず続けた。
「今後その耳にこびりつくような金切り声での声援はやめなさい」
「か、金切り声ですって!?」
「あの女、幸村君の頬を汚しておいて何様のつもりよ!」
「そもそもぽっと出のあなたがテニス部のマネージャーなんて私達は認めてないのよ!」
「そうよ、少し顔がいいからって調子に乗ってるのよ。あんな女の言うこと聞く必要なんてないわ!」
「ええそうね みんな、言いなりになっちゃだめよ!」
共通の敵ができた女子達が謎の団結力を築いている中、麗奈はそんな彼女達に更なる追い討ちを掛けた。
「あらいいのかしら。やめないなら、そうね…今度は唇にしちゃおうかしら」
そう言って幸村の唇を見つめた後、麗奈はコテンと甘えるような仕草で幸村の腕に頭をすり寄せた。
恐らく立海テニス部のファン達にとって一番耐え難いのは選手達の色恋沙汰に関する問題だ。
見たところ応援とは名ばかりでその殆どが選手達に恋心を抱いている者ばかり。麗奈はそれを分かった上でわざとこういった行動に出たのだ。
「な……っ!!」
「く、唇ですって!?」
「そんなの絶対駄目よ!!幸村君の唇は皆んなの物なんだから!」
「っていうかあなた、幸村君から離れなさいよ!」
幸村君の唇は皆んなの物というとんでも発言が聞こえた気がするがそれをも華麗にスルーして麗奈が力強い口調で言葉を発する。
「なら今この場で約束しなさい。今後一切彼らの邪魔になるような声援はしないと」
約束しなければ今この瞬間にも幸村の唇を奪ってしまいそうな麗奈に女子達が悔しそうな顔をしながら俯く。
後もう一押し。麗奈がそう思った時だった。
「分かりました その条件を飲みます」
「え…!栗原さん、本気ですか?」
「それじゃ、もうテニス部の応援はできないんですか!?」
「ええ 不本意ですが仕方ありません。この場で約束をしなければ本当に実行してしまいそうですからね」
"栗原"と呼ばれた女子達の中心的立ち位置にいる女子生徒はそう言いながら蛇のような目つきで麗奈を睨みつけた。
「話が早くて助かるわ じゃあこれで決まりね」
しかし麗奈は敵意のある視線を特に気にした様子もなくそう言ってパッと幸村から手を離した。
「ああ、それとキャーキャー喚き散らさないにしても今日の所は帰ってもらうわ。いいわね?」
「…っ!」
「…わかりました。行きますよ、皆さん」
栗原がそう言ってテニスコートに背を向ける。すると不貞腐れながらではあるが、その背中にゾロゾロと女子達が続いた。
「すげぇ、幸村部長達が何言っても駄目だった女子の大群が…」
「なんつーか、さすがあの跡部の幼馴染みなだけあるよな」
わらわらとその場からいなくなっていく女子達を眺める赤也と丸井の脳内にぽわんと跡部の顔が思い浮かんだ。
女版跡部とまではいかないがやはりどことなく纏う雰囲気と堂々としたその姿が氷帝のキングを連想させる。
「これでテニスに集中できる環境が整ったわね。 ーーああ、その前に幸村君 さっきはいきなりあんなことしてごめんなさい。あのうるさい雌猫共を蹴散らす為には仕方なかったの」
麗奈がそういって謝罪をすると幸村は少しばかり驚いたように目を見張った。
「どうしてキミが謝る必要があるんだい?むしろ礼をしなくちゃいけないのは俺の方だ」
長い間手を焼いてた問題を思いもよらぬ方法で一瞬にして解決してくれたのだ。感謝はせど謝られる理由がない。
幸村は麗奈の方にしっかり向き直ると真剣な眼差しで彼女を見つめた。