08



「きゃー!幸村君ステキー!!」

「あーん私も幸村君に五感奪って欲しい〜」

「丸井せんぱぁ〜い!こっちに手振って下さ〜い!」

「やん!今の仁王君の手首の動きエロ〜い」


「………なんなの、この世紀末のような叫び声は」

無事人数分のドリンクとタオルを用意した麗奈は台車を引きながらテニスコートへ向かった。

しかしテニスコートに着いた麗奈は目の前で起こっている光景を目にして呆然とその場に立ち尽くした。

「あ!一条先輩っス!一条先輩〜!」

「おっ 来たか一条」

「………」

「随分早かったな もう少しかかると思っていたのだが」

「………」

「一条?」

赤也と丸井、そして柳に声を掛けられても反応出来ないほど麗奈は目の前の状況に自分の目と耳を疑っていた。

「柳 一体どうしたんだい?」

「突然一条が口を閉ざしてしまってな 恐らくだがーー」

「幸村君 部活の時っていつもこうなのかしら」

柳の台詞を遮って麗奈が未だキャーキャーと喚く女子達に目を向けながら幸村に問う。

「?こうって…」

「あのキャーキャーうるさい雌猫共の事よ まるで動物園のパンダになった気分だわ」

「動物園のパンダ…ははっ、なるほど彼女達の事か。うん キミの指摘はもっともだよ。実は俺も彼女達には手を焼いていたんだ」

「…手を焼いていた?」

「ああ 俺や真田がいくら注意をしてもダメなんだ。注意して数分は持つんだけどそれが10分も続かなくてね」

「そう 部活動に支障は?」

「今となっては一つのBGMだと思って気にしないようにしてるけど、まったく支障がないとは言えないな」

「そう よくわかったわ」

困ったようにそう言った幸村を見て女子達を見つめる麗奈の目つきが一層鋭くなった。

「もし何かをしようというのならやめておけ あの女子の集団の中には一人厄介な女がいる」

「厄介な女…?」

「ああ。色々と黒い噂の絶えない女だ 刺激して万が一お前に何かあってからでは遅い」

「それは困ったわ。変に刺激しない為にもその厄介な子が誰目当てでここに来ているのか私も知っておいた方がいいわね」

麗奈がそう言うと柳はコクンと頷いて口を開いた。

「奴の目当ては精市だ 喋るなとまでは言わないが目につく場所であまり親しそうな姿を見せる事はおすすめしない」

「わかったわ ありがとう柳君」

一言礼を述べると麗奈は何を思ったのかすぐそばにいた幸村の肩に両手を置いた。

「一条さん?」

「ごめんなさいね幸村君 ちょっと我慢してね」

「我慢?一体何のーーー」

幸村が突然の麗奈の行動に不思議そうな顔をしたがそれも一瞬だった。

チュッと可愛らしく鳴るリップ音と頬にあたる柔らかい感触。
普段滅多なことで動揺しない幸村が目を大きく見開いたまま固まっている。

それもそのはず、幸村の肩に体重を乗せた麗奈は背伸びをしながらその頬にキスを落としたのだ。

テニスコートを囲っているフェンスの外からその場面を目撃した女子達の割れんばかりの悲鳴が聞こえてくる。


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