05
「それでマネージャーの件だけど もちろん引き受けてくれるよね?一条さん」
「え…?あの、あなた達って本当に運動部の集まりだったの?」
跡部が去っていった後、一連の騒動に巻き込んでしまった事をテニス部のメンバー達に謝っていた麗奈は幸村のその言葉に目を見開く。
"彼らのマネージャー"という発言はたまたま適当な男子の集団がいたからその場限りの嘘をと思って放った言葉だった。まさか本当に部活動の集まりだったなんて。
だが今日転校してきたばかりなのだから知らないのも無理はない。
「ははっ!キミは俺達が運動部だって知らないでマネージャーなんて言ってたんだ?」
「ええ 利用する形になってしまってごめんなさいね。さっきはああするしかなくて」
「いいんだ 謝らないで」
話がわかる人で良かったと麗奈が安心したのも束の間、幸村は哀愁漂う表情で再び口を開いた。
「でも困ったなあ ちょうどマネージャーが辞めてどうしようかと悩んでいたときに君が俺達のマネージャーだって言うからそれを信じて喜んでた所だったんだけど」
「うっ…」
綺麗な顔してサラッと良心にくるような事を言う人だなと思いながら麗奈が申し訳なさそうに目を伏せる。
「それに跡部に"うちのマネージャーだ"って言った手前次会った時実はマネージャーの話は嘘だったなんて言いにくいし…俺はどうしたらいいかな一条さん」
まるで「どうすればいいか、わかるよね?」とでも言いたげな幸村の視線が麗奈を見つめる。
幸村だけでなく後ろに控えていたテニス部達からの視線も相まって麗奈はいたたまれず口を開いた。
「わ、分かったわ!やるわよ、マネージャー」
「ふふっ 本当かい?助かるよ一条さん」
幸村のふふっというスカした笑い声に麗奈は何笑ってんだよと心の中で悪態を吐きながら若干睨みがちに幸村を見上げた。
「ただし条件があるわ」
「条件?」
「ええ 私は中途半端な事が嫌いなの。2週間マネージャーをしてあなた達がサポートするに値する人物なのか見定めさせてもらうわ」
そう、跡部に連れて行かれそうなところを助けてもらったのには感謝している。だがいくらさっき助けられたからと言って突然運動部のマネージャーになれだなんていうのは流石に労働力の観点から見ても割が合わない。
だが特段マネージャーという業務が嫌というわけではなく寧ろ今までの経験上そういったサポートに回る役は初めてなので興味があると言えばあるのだ。
幸村はビシッと自分を指差す麗奈を見つめて優雅に微笑んだ。
「わかったよ 俺達のことを知るのにも良い機会だ。じっくり見定めてから2週間後答えを聞きかせてくれるかい?」
「もちろんよ!とりあえずこれから2週間よろしくね えっと…」
「ふふ よろしく一条さん。俺の名前は幸村精市 一条さんと同じ2年で立海テニス部の部長を努めてる」
「幸村君ね…って2年なのに部長なの?」
「ああ 有難いことに先輩を含めた部員全員が推薦してくれてね」
「へぇ…部員全員に推薦されるなんて幸村君には人望があるのね!部を纏めるのも大変なのにそれ以前に部員達から支持されてる訳でしょう?それって凄いことよ」
「…!ふふっ 改まってそう言われると照れるな。ありがとう一条さん」
幸村は透き通った瞳で真っ直ぐ自分を見つめてそう言う麗奈に一瞬驚いたが、直ぐに笑みを浮かべて礼を述べた。
常勝立海テニス部の部長という肩書きは生半可な人間では耐えられない程の重圧がある。
部長に部を統率する力がなければいくら強豪校と言えどすぐに力を失くしてしまうだろう。
部長の統率力があってこその強豪校だ。
幸村はそんな面にすぐに気づいた麗奈を見つめて笑みを深めるのだった。