07
「この作り方に沿ってドリンクを作ればいいのね?」
「ああ 人数分作り終えたらそこにある籠に入れてタオルと一緒にテニスコートの方まで持って来てくれ」
「わかったわ!」
時刻はあっという間に放課後を迎え、早速マネージャー業務の内容を柳に教えてもらっていた麗奈はスポーツドリンクの作り方やタオル、救急箱などの在り処その他諸々が記されている紙を受け取ってそれに目を落とした。
「簡単にだが大まかなマネージャー業務は以上だ。他に何か分からないことはあるか?」
「柳君が丁寧に教えてくれたもの 大丈夫よ」
「ふむ 転校初日だというのに物事への順応能力が高いな」
柳が腕を組みながら口元に手を添えて感心したようにそう言うと麗奈の顔に笑みが浮かぶ。
「ふふ 褒めたって何も出ないわよ?」
「それは違うな」
「?」
「笑顔が出てきただろう。褒めても何も出てこないと言うにはお前の笑顔は少々眩しすぎる」
柳のその返しに麗奈は少しの間キョトンとした顔をして見せたがすぐにまた笑みを浮かべた。
「こっちの男の子はシャイだって聞いてたけど、噂ってやっぱり当てにならないわね」
「ほう。それは俺への褒め言葉として受け取ってもいいのか?」
「もちろん、そのつもりよ」
麗奈が頷くと柳もまた口元に笑みを浮かべた。
ガチャッ
「…スマンの 邪魔したか?」
部室の扉が開き仁王が顔を覗かせる。
仁王は部室の中にいた麗奈と柳の二人を交互に見ながら悪戯っぽく笑った。
「仁王か いや、ちょうどいいデータが取れた所だ」
「それはよかったのう」
「データ…?っていうか仁王君、邪魔ってなんの話?」
「いや 分からないならええんじゃ」
「そう言われると余計気になるんだけどね 忘れ物でもとりに来たの?」
「まぁそんなとこじゃ」
仁王は自分のロッカーを開けると鞄の中をゴソゴソと漁り始めた。
「ではそろそろ俺は行く 初めてで慣れないとは思うが頼んだぞ一条」
「ええ 頼まれたわ!いってらっしゃい」
フリフリと小さく手を振る麗奈に柳も軽く手をあげて部室を後にした。
さて、頼まれたからには期待に応えなければ。
麗奈は早速ドリンク作りに取り掛かろうと動き出した。
「のう一条」
「ん、何かしら」
「氷帝に行かなかったのは跡部といると目立つからじゃったな」
「?ええそうだけど…それがどうかした?」
「……いや、どうもしないぜよ。ただ確認しときたかっただけじゃ」
仁王の唐突な質問に麗奈は不思議そうな顔をして答えた。一体それがどうしたというのだろうか。
「ま、頑張りんしゃい」
そう言って用が済んだらしい仁王は謎を残して部室を後にした。
「頑張れって、マネージャーのことかしら」
妙に含みのある言い方に麗奈が首を傾げる。言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに。
「でもきっとマネージャーの話よね」
一人勝手な解釈で納得した麗奈。
しかし数分後、麗奈は仁王の質問の意図と頑張れという言葉の真意を知る事となるのであった。