男Aの告白
早朝だった。長距離運転で少し疲れていて、うとうとしていた。ほとんど、居眠り運転だったといっていい。
人通りの少ない道を走っていた時だ。やってしまった。人をはねてしまったのだ。
ドン、と大きな音がして、はっと開いた目には放物線を描いて飛んでいく“何か”。
急停止したまま、俺はハンドルから手を離すことさえできずに震えながらその“何か”をみた。
白いコートを着た、少女
だった。
学生鞄に、学生服。マフラー。飛ばされて転がされた衝撃からか、全てが擦り切れてぼろと化していた。
特に白いコートは少女から流れ出る血液で濡れて、目も当てられない。
転がったまま動かない少女の手足は、投げ出され、本来向いていてはならない方向に向いているものもある。
すぐにでも車を降りて少女を救護せねばならない――それは、わかっていた。知っていた。
けれど、目を見開いたまま口から血液を垂れ流す
それを、もはや少女だとは思えなかった。
少女
だった死体だ。恐ろしくて、
悍ましくて、とてもじゃないが動けない。
呼吸が乱れ、頭が真っ白になっていく。その時。
――死体が立ち上がったのだ。
あらぬ方向を向いていた手は元の方向へと向いており、その手で学生鞄を拾い上げる。
そして唇から零れる血をもう片手で拭い、こちらをじろりと見た。
「化け物…」勝手に口がそう動く。
気付くと俺は車を急発進させ、現場を離れていた。
210302
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