03



【資料@】

ある一族の連続怪死事件の記録。

苗字家――いわゆる華麗なる一族というもので、国内外で広く活躍する大企業、苗字グループ創始者の子孫たちだ。
始まりは商人だが、莫大な資産を得たおかげで今や各方面に多大な影響力を持っている。
――否、いた・・

一昨年の3月に苗字 名前の両親が亡くなったのを皮切りに、次々とその親族が死んでいった。
自らが華麗なる一族の血族であると知らないような縁の遠い人間は何も知らずに生きているが、それ以外は苗字 名前ただ一人を残して死んでいる。

この一連の連続死には、事故死や病死もいるにはいるが少数派だ。
実に7割ほどが不審死。次点で事件性のある死、つまり他殺。

そして不可解なことに、最後の死亡者の遺体発見現場周辺には苗字 名前の学生証が落ちていたそうだ。

そしてそれに対する呪術師の見解は単純だ。
死亡者は十中八九、全員が全員呪殺された。
犯人は学生証を媒体とした苗字 名前の式神である可能性がある。


【資料A】

資料@のいくつかの現場について、呪術師へ調査の依頼があったため、現場にて残穢の検証を行った記録と、それに関するとみられる過去の事件記録。

呪術師による現場検証の結果、過去に起きた呪霊による未解決事件――つまり加害者である呪霊を祓えていない事件のいくつかと当該事件で検出された残穢が一致した。

当該事件の残穢は苗字 名前の学生証から最も多く検出された。
また、全ての未解決事件現場に苗字 名前は居合わせており、事情聴取された履歴がある。

呪術師による見解はまたしても単純だ。
過去の未解決事件を含めた一連の事件が苗字 名前によるものである可能性がある。


【資料B】

苗字 名前の略歴などの記録。

小学校高学年から中学校卒業までのほとんどを、いわゆる保健室登校ですませ、高校については中途退学し、高卒認定を経て大学受験。

現在は某一流大学の2年生である。

表向きの性質は穏やかで接しやすいが、自分の意見をはっきりと明示できる強かさがある。
一方で冷静沈着――「というより、冷酷無慈悲無感動みたいな非人間って思ってる人がいるらしいよ」


五条 悟と名乗った怪しい男は事もなげにそう告げた。
多分この人は性格が悪いか無神経な人間なんだろう。普通そういうのは本人に言わないものだ。

男は読み上げるために捲っていた資料を閉じる。


「と、まあこんな感じでね。君が怪しいってんで僕が調査しにきたってワケ」

「………」

「それにしてもあの場面で拒否されるとは思わなかった。お昼時に聞く話じゃなかっただろ?ご飯、不味くならない?」

「………」


そう、私はあの時間で課題を進めると決めていたので、この男の『ちょっとお兄さんに付き合ってくれない?』を丁重に断った。
私は自分のペースを侵されるのが大嫌いだ。元々その可能性を組み込んでいたならまだしも、突然に長話となることが明らかな『お付き合い』を受け入れることは有り得ない。

しかしあまりにもしつこかったので妥協案としてお昼を食べながらなら聞いてもいいと提案したら了承されたため、こうして大学構内のベンチに座って寒空の下パンをかじるはめになっている。
こちらに半身を向けた状態の男に対し、私は見向きもせずにパンをかじっているので傍から見れば一方的に絡まれているように見えるだろう。まあ、こんな寒い中わざわざ購買から一番遠い上に木陰にあるベンチになど寄ってくる人間はいないのでそんな思考は無意味だが。というか誰にも見られたくなくてここを選んでいるので無事目的は達成しているわけだが。


「清々しいほど無視するじゃん〜寂しいんですけど〜」


余計な口を開くと話が長引きそうなので、黙々と咀嚼しながら話を聞いているだけである。が、口にはパンが入っているし、わざわざ訂正するのも面倒くさいのでそのまま応答はしなかった。


「あ、これがその学生証。もうとっくに再発行してると思うけど、いる?」


パンをかじるのを一時中断し、男が指先で摘まんで差し出してきた学生証をひったくる。学生証は所々擦れて文字が霞んでいた。

相当探したのに見つからなかった学生証。確かペットが帰ってこなくなったのと同時期に失くしたと記憶している。
再発行は済んでいるが、この学生証には中々思い入れもあるので戻ってきたこと自体は僥倖だ。
男の話が本当なら拾われた場所・・・・・・・・・・が、嘘ならば拾われた相手・・・・・・・・・・が最悪だが。


「一応話は聞いてるってことね、ハイハイ」


男は唇を尖らせ、組んだ長い足を土台に片手で頬杖をつく。


「じゃ、呪霊とか呪術とか呪いとかについてとりあえず今までの説明で理解してくれたってことでいい?ちなみに返事がない場合はまた一から説明するから」

「理解しました。信じるかは別として」


また一から説明されては堪らないと、応答する。ちょうど昼食も終わったところだし、いい加減話を終わらせたい。


「え?さっき襲われたばっかなのに?」

「…信じないのは、あなたのこと・・・・・・ですよ」

「………」


男は私が信じないなどとは思ってもみなかったのだろう、今までの騒がしさが嘘のように押し黙った。目隠しのせいで表情は窺えないが、私の言葉がよほど予想外だったということは伝わってくる。
男が内心で、私がすんなり話を受け入れるだろうと思っていたことは想像に難くない。人間は普通、理解できないことに理由を求める。非日常な出来事が起きてあたふたとしているときに、さもそれを知っているかのように振る舞う人間が現れたなら何の根拠もなくとも信じてしまうからだ。私も例に漏れないと思うのはごく自然なこと。

時間もない。さっさと突き放して話を終わらせるべきだろう。


「正直まだ半信半疑ですが、呪霊というのはいるのかもしれませんね。今まで幻覚だと思っていましたが、今日初めて“同じものが視えて”その上“自ら干渉している”人間を目の当たりにしたわけですから」


食べ終わった惣菜パンの外装を小さく丸めながら続けた。


「でもそれ以外は信じるに値しません。…というか、信じるかどうか以前の問題ですね。証明が不足している状態で呪術だ式神だ未解決事件だなどと言われても、所詮は妄想としか思えませんし。何より――」


膝の上のパンくずを払って、立ち上がり、男を振り返る。


「あなたが“悪い人間”ではなく、“私を騙そう”ともしていないという証拠がない」


間違いなく男の気分を害するであろうことを言ったにも関わらず、男は楽しそう口角を上げた。


「“信じない”、ねえ…。はは、…すっかり忘れてた、非呪術師にとってはそりゃ妄想だ。中々抉ってくるじゃん」


男は声を荒げるでも諭すでもなく、ただ笑ってそのまま続ける。


「まっ、どうしても僕と関わりたくないなら、それでもいいよ。…けどさ、もうなんとなく察してるんじゃない?」


男が口を開く前に、何と言おうとしているのか察した。この男は、知っている・・・・・んだ。


「トモダチ、また死んじゃう・・・・・・・よ?」


多分じゃない。
この人絶対性格悪いし無神経すぎる。



210215
  

 back
 site top