イヒリーベディッヒ


2.


それからレオナルドは、ちょこちょこ花屋に顔を出すようになった。


「あ、レオナルドさん!いらっしゃい」

「どうもっす」

顔馴染みとなった#主人公の名前#は、明るい笑顔でレオナルドを迎え入れる。

「今日は何をお探しに?また職場へのお花ですか?」

「はい。前にここで買ったお花を持っていったら評判よくて、今回は職場の人に頼まれてきました」

「嬉しい、気に入って頂いてなによりです!」

癒しの笑顔だ...そう感じていると、店の奥から杖をついた男性が現れた。


「またお前さんか、よく来るな。なんだ、#主人公の名前#のことでも狙っとるんか?」

「なっ!ち、ちがいますよ!」

「違いますよ、ロベルトさん。レオナルドさんにはガールフレンドがいるんですから」

「なんだ、そうなのか」

「普通の友達です!」

二人に対して、顔を赤くしながら必死に否定するレオナルド。

この初老は店の店長。レオナルドが聞いたのは、#主人公の名前#とは特に血縁関係はく、#主人公の名前#は日本人だということ。


「はい、こちらどうぞ」

レオナルドは#主人公の名前#から百合の花を一輪受け取り、「ありがとうございます」と言った。

ふと、壁に飾ってある花の絵が目に入った。

大きな一輪の薔薇のようだが、花の部分は鮮やかな虹色に反して、茎の部分は真っ黒に染まっている。

見たことのない花の絵を観て、「これ...すごいですね」と感嘆の声をあげるレオナルド。

「なんていうお花なんですか?」

「これはですね...名前は知らないんです」

彼女の言葉に「え?」と意味を問うつもりで聞き返した。

「ずっと探しているんです。この花を...」

#主人公の名前#はその絵を優しく撫で、多くは語らなかった。

「もし見かけたら教えて頂けますか?」と笑顔で言われると、レオナルドもそれ以上は何も言えなかった。


「あ。私、お花の宅配頼まれてるんでした!」

「おお、もうそんな時間か」

切り替えるように手をパンっと叩き、花の準備をものの数秒で終えると、慣れた手つきで原チャリに跨った。

「レオナルドさん、また」

「あ、はい」

#主人公の名前#は「いってきまーす」といって走ってってしまった。花屋には、店長ロベルトとレオナルドとソニックだけが残った。


「#主人公の名前#さん、いつも太陽みたいに明るいのに、絵の話の時なんだか少し寂しそうでした」

聞いちゃ不味かったかもしれない...と、少し後悔した。

「いや...あの絵はな、あの子の父親が描いたんだ」

「父親?」

「あの子の父親は花の研究家でな。ここへは新種を求めてきたんだが...3年前の崩落に巻き込まれて死んじまった。残されたのは、娘1人とこの絵だけ...それからあの子をわしが引き取ってこの店で働いてもらってるんだが、ずっとこの花を探してるんじゃ...父が遺した最期のつながりを」

あの明るい彼女にそんな過去があったのかと、レオナルドはなんとも言えない気持ちになった。




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