次の日。
ずらりと並んだ新しい顔ぶれ。
それぞれ出身校とポジションを言っていくのを聞きながら、見たこのある人を見つけた。
確か、樹の後輩の…
「南沢シニア出身、赤松晋二です。ポジションは投手です。宜しくお願いします!」
あぁ、そうだ 赤松。
俺と鳴さんの仲が良いと勘違いしていた彼。
まぁ、以前に比べれば仲良くなった方なんじゃないかとも思うけど。
正直、何考えてるかわかんないんだよね。
怒るかもって思ったところで怒らないし、何に怒ってんの?ってことも多いし。
前のように全てに敵対してきているわけじゃないから、尚更。
距離感が測りにくいのだ。
「晋二のこと覚えてる?」
「覚えてるよ。樹のお気に入りの後輩だろ?」
「そう!仲良くしてやって。めっちゃ、いい奴なんだ」
隣に立つ彼に視線を向ければ表情は分かりやすく緩んでいた。
まぁ、嬉しいんだろうな。
自分が好きな奴が同じチームに入ってきてくれたってことは。
ポジションを争う相手でもないし。
挨拶が終わり一年生は体力測定のために別のグラウンドへ。
俺たちは通常の練習に向かう。
あのシニアのあいつが来てるとか、来てないとか そんな話題で盛り上がるチームメイト達を他所に 俺は足早にグラウンドに向かった。
「ちょっと、何先行ってんの!?」
せめて一声かけろよ、と鳴さんが隣に並ぶ。
「いつもかけてないですよ」
「あれ?…そういや、そうか?」
1年結構入ったよなー、と隣に並び話す彼にそうですねと返せば 機嫌悪い?と彼が首を傾げた。
「いえ、別に。いつも通りですよ」
「そー?なら、いいけど」
調子悪いならすぐ言えよ、と鳴さんは俺の顔を覗き込んだ。
「大丈夫ですって」
「お前の大丈夫はあんまり信用してねーの、俺」
そーですか、って返して別のグラウンドに移動していく一年生に視線を向ける。
別に、機嫌が悪いわけでも 調子が悪いわけでもない。
ただ、形容しがたい 居心地の悪さがあるだけ。
「春大始まるんだから、ほんとにやめてよね」
「大丈夫ですって」
あんな我儘を言いチームを離れた俺だったが、監督は14番をまた俺に託してくれた。
戻ってくるという信頼だったのかは、わからないけど 応えていかねばならない。
与えて貰えたものに見合うように。
「ま、どうせお前が先発だろうし」
「そうなんですか?」
「エース様は温存です!ちゃんと勝ってこいよ」
そりゃ当然、と答えれば彼は満足そうに笑った。
「ある程度俺とお前の二枚看板にはなると思うよ。打撃の面でも休ませては貰えないと思うから。覚悟しとけ」
「…もう、あんな失敗はしないので」
「怪我もね!」
鳴さんは俺の顔を見て わかってる?と首を傾げた。
「前みたいなことあったら、隠さず相談。俺を庇うとか 誰かを庇うとか本当にやめて」
「えー…」
「えーじゃないから!約束破んなよ!」
一方的な約束を取り付け、彼は満足したのか別の人たちの元に駆け寄る。
「…アンタを怒らせるってわかってても。体は勝手に動くと思いますよ」
なんて。
言ったら怒られるから言わないし、そうならないことを願っているけど。
もし、そうなったら。
俺は迷わず自分を犠牲にするんだろう。
▽
バッティング練習を行っていた時だった。
「そーいえばさ、颯音。試合は木製にするの?」
「あ、はい。そのつもりです」
ペアを組んでいた白河さんが ふぅんと俺の握るバットを見る。
「元々これに慣れてるっていうのもありますし」
「まぁ、打ってくれるなら文句はないけど」
こっちに帰ってきてから使い始めたJoker'sからの支給品の木製バット。
金属バットだから打てないとか言い訳をする気はないが、どちらかと言えばこっちの方が手に馴染む。
チームから離れてはいるが引き続き支給してくれるそうなので、その言葉に有り難く甘えた。
「青道の小湊と同じだな」
「戦線布告はしてきましたよ。同じ土俵で戦うって」
「…たまに、妙に好戦的だよね。颯音って」
まぁ、見るからに調子良さそうだし いいんじゃない、と白河さんは少しだけ表情を緩めた。
あの手紙の一件から、気まずくなるかとも思ったけど 気を遣わせているのかいつも通りのやりとりができてはいる。
元々優しい人だったけど、妙に甘やかされてる気がしてならないけど。
「颯音!次の試合なんだけど、」
「なに?」
「さっき監督から 俺と颯音がバッテリーって言われたから。調整兼ねて 投げて貰っていい?」
いいよ、と答えれば 初めてだねと彼は嬉しそうに笑う。
公式戦で確かに樹と組むのは初めてだ。
「信じてるよ、相棒」
ぽん、と肩を叩いて 空いたバッティングスペース入る。
改めて感じた。
新しい一年が、始まるのだ。
▽
夕食を食べ終えて、ふと周りを見渡せば 颯音の姿がなかった。
練習を見ている限り、調子が悪そうな印象もなかったけど 彼がこうやって何も言わずに消えるのはここ最近では珍しいことだった。
「樹!颯音は?」
「気づいたらいなくて…」
「だよねー」
別によくあることだったと言えばよくあることだったのだが。
部屋に籠るにしても最近は一声かけてからのことが多かったからなぁ。
まぁ気にしすぎだろうな、俺の。
「樹、颯音の代わりにマッサージ頼むわ」
「わかりました」
白河は部屋に戻る、と席を立つ。
「颯音にいなくなるなら声かけろって言っといて〜」
「お前、本当に過保護だな」
「アイツが手ェかかるからじゃん!」
何か言いたげな表情をしたが、白河はなにも言わず食堂を出て行った。
「樹も、春大前だし 投手のコンディションよく確認しとけよ」
「あ、はい!」
「特に颯音ね。アイツ、嘘つくの上手いから。大丈夫って言葉鵜呑みにすんなよ。樹騙されそうだし」
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