春大会 一回戦目。
先発は颯音。
圧巻のピッチングで、ランナーを出すこともなくコールド勝ち。
木製バットも上手く作用したのか、3安打と文句なしの結果。
「ナイスピッチング!」
「ありがと」
樹とハイタッチして笑った彼。
試合中とはうって変わって、表情が柔らかい。
「颯音、」
「鳴さん?」
この冬 一番近くで見てきた。
彼にあって、俺にはない 強さ。
それが、精神的な強さ。
「ナイピ」
「あ、ありがとうございます」
マウンドの上。
彼が表情を変えることはない。
その目は一体、何を見ているのだろうか。
「ま、当然だけどな」
「…そうですね」
「そーいやさ、 左は投げないの?」
俺の言葉に鳴さんいるからなぁ、と彼は答える。
「左は鳴さんに任しておけばいいかなって、思うんですけど。どうでしょう?」
「…俺に勝てるとは思わないけどね!けど、俺とお前 同じ左でも 違うだろ」
そっちの準備もしとけよ、と言えば 鳴さんがそう言うならと彼は言う。
「どこかの試合、左で投げてみろよ」
「1試合丸々ですか?」
「そう。前見たとき怪我してたし、わかんねーじゃん。どの程度試合回せるのか」
下手に研究材料与えるのも嫌だし、公式戦でとは言わないが。
後ろを守るにしても、ちゃんと知っておきたい。
「紅白戦とかでもいいや」
「わかりました。監督と話しておきます」
「樹は?対応できんの?お前の左」
完璧ではないですけど、ある程度球を絞ればと どこから話を聞いていたのか樹が答えた。
「雅さん以上には対応しといてよ。2年は一緒に組むんでしょ」
「は、はい!」
「じゃ メニューに入れてもらうように頼んでおきます」
ベンチから撤収し、バスに乗る。
隣に座ったのは珍しく カルロだった。
「何、珍しいじゃん」
「どーよ。颯音は」
「いんじゃん、別に」
投球にも打撃にも文句はない。
「ふぅん?」
「なんだよ」
「いや、別にさ。仲良くなんのはいいことだし、鳴が颯音を嫌ってないのも結構早くから気づいてはいたんだけどさ」
だったら何?と首を傾げれば なんか違和感があってと彼は言う。
「なにそれ」
「いや、わかんねーけど。本当にただのチームメイト?」
「他になにがあんのさ。ちゃんと信頼してるし、じゃなきゃ初戦とはいえ1試合丸々任せたりなんかしないし」
それはわかってんだけどさ、と彼はまた煮えきらない返答。
はっきり言いなよって言うが、彼もちゃんとはわかっていないらしい。
「なんつーか、それだけじゃない瞳してんだよな。たまに」
「俺が?」
「そう」
じっと俺を見て、カルロはわかったらまた聞くわと笑う。
「てかさー、」
「今度はなにさ?」
「鳴と颯音でバッテリーって組まないの?」
ポジションどこでも出来るんだよな?とカルロは首を傾げる。
そういえば、そんなこと考えたこともなかった。
けど、そうか。
もし、樹が怪我をしたりしたら そういうことになる可能性もあるのか。
「受けてもらったことあんの?」
「ない」
「今後もねぇの?」
監督はどう考えているんだろう。
うちはどのポジションも控えのレベルは高い。
わざわざ慣れない颯音を穴埋めに回すだろうか。
んー、けどな あの打撃込みなら可能性あるのかな。
「どうだろうな」
「やってみないと思わねぇ?」
「まぁ…気にはなるけど」
▽
「て、話をしてたんだよ」
夕飯の時、ニコニコと神谷さんが話したのはそんな話だった。
「俺が鳴さんとバッテリー?ないんじゃないですかね?多分。樹が怪我しても、控えが出るだろうし」
「そーだけどさ。気になんじゃん。お前ら組んだらどーなんかなって」
鳴さんの方を見れば、気にはなるよと彼も答えていた。
「じゃあやってみます?この後。プロテクターとかなんもないから 樹貸してもらっていい?」
「いいよ」
「意外とあっさり」
意外そうな神谷さんに別に断る事でもないので、と返す。
試合でやろうと言われたら流石に断るけど。
夕飯後、室内練習場に集まった俺たち。
あの時話してたメンバー以外も 集まっていて 見世物みたいだ。
「人の使うの抵抗ない?大丈夫?」
「気にしないよ、別に。ありがと」
樹のから借りたプロテクターをつけて、マスクを被る。
樹のキャッチャーミットだからちょっと手に馴染まないけど。
柔らかくなってるし、樹が大切にしていることはよく伝わる。
樹のこういうところ、俺は凄く気に入っていたりする。
「球種どうします?」
「とりあえず 軽めにストレートから」
「はい」
久しぶりだな、捕手やるの。
しゃがんで構えればパンッといい音をさせてミットに包まれたボール。
「どー?」
「大丈夫そうなんで。体温めながら徐々にギア上げ お願いします」
「はーい」
鳴さんのボールこっちから見るの初めてだな。
バッターボックスから見たこともないし。
外から見てるのとじゃ、全然体感が違う。
「よしよし。体温まってきたー」
くるくると肩を回して 彼は楽しそうに笑う。
「本気でいっていい?」
「大丈夫です」
投げ込まれたボール。
一気に重さが腕に伝わる。
「ナイスボール」
ボールを投げ返してやれば、彼はにへらと顔を緩める。
「なんですか、」
「いい音させんじゃん。いいねいいね、気分乗ってきた」
Joker'sを作った時。
投手だった俺が捕手を引き受けたのは、捕手として迎え入れたかったKevinがまだいなかったからという理由と 捕手が一番怪我をさせられやすいからという理由だった。
ホームへ帰るタイミングほど狙いやすいタイミングはない。
守りたい。
俺が、犠牲になってでも。
もう、誰も…傷つけたくない。
最初は、そんな思いでここに座っていたな。
「次 スライダーね」
「はい」
けど、嫌いじゃなかった。
チームメイト全員の顔を見ていられるから。
一番、ワクワクするポジションだったんだよね。
投手をどう生かそう、相手をどう騙そう そんな思考が楽しかった。
仲間たちとのアイコンタクト、サイン そんなやりとりゲームを支配してるみたいで。
Leoと組むのが一番楽しいんだよね、捕手としてなら。
言ってやらないけど。
「ちょっと集中してるー?」
「あ、すいません」
試合じゃないからかな。
俺が自分の道具を使っていないから手加減してくれているのかな。
理由はわからないけど、とりあえず物足りなかった。
「手加減しないでくださいよ」
「は?」
彼に投げ返したボール。
「俺が見たいの、こんなんじゃないです」
「うわ。腹立つー!気ィ遣って投げてやってんのに!」
「いりません。そんな気遣い」
そこまで言ったんだ、逸らすなよと彼は言って チェンジアップ投げるから!とムキになってた。
なるほど、ここまで表情が出るのは良くないなと 冷静な頭が考える。
投げられたボールはやはりスクリュー気味の変化をする。
それをミットに収めて、確かにあのストレートにこれは嫌だなとミットの中のボールを見つめた。
「若干高いですけどね」
「はぁ!?」
「けど、いい球です。こっちから見ても」
俺なら、彼をどうリードするだろうか。
どう、彼を生かすだろうか。
この高くなってしまうチェンジアップは、どう直させる?
「なんか、すごいむっかつくー!」
「すいません。もう一回お願いします」
構えたミット。
イライラしてるのが 彼の表情から手に取るようにわかる。
Leoも俺と組むとすぐにこんな顔し始めるんだよね。
それでもボールに影響を出さないとこは、流石だったけど。
「鳴さん」
「なんだよ!」
「イケメンが台無しですよ」
ピタリ、と彼が動きを止めた。
「は?」
「イライラしてんの丸分かりなんですって。折角の顔が勿体ない」
「馬鹿にしてんの?ねぇ、馬鹿にしてるよね!?イケメンって言葉がこんなにイラつくの初めてなんだけど!?」
馬鹿になんてしてないのに、って笑う。
「感情コントロールしましょ」
「うるさいな!わかってるよ!!」
あの感情の起伏の激しさは勿体無い。
けど、これがあるからこその強さな気もする。
良くも悪くも 感情がボールに乗るタイプの人だから。
「うん、ナイスボール。今の高さ、良いですよ」
「褒められてんのにムカつくのなんで!?」
「素直に褒められてくださいって」
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