第2回戦は監督に言われた通りセカンドして出場。
目立つミスもなく、チームも危なげなく第3回戦に駒を進めた。
そして、迎えた第3回戦も 自分の名前はセカンドで読み上げられた。
「颯音、遠慮なく入ってくればいいから」
「はい。今日も宜しくお願いします」
「宜しく」
対戦相手は薬師。
向こうの先発は真田さん。
映像でもわかっていたけど、キレのあるシュートを投げる。
球速は140くらいあるだろうか
「詰まらされたー。悪ぃ」
先頭打者の神谷さんがありゃえぐいぞ、と俺の耳元で囁く。
一塁側のプレート使ってより角度つけてきてるし。
「予想以上だよ」
神谷さんと同じく詰まらされた白河さんの言葉に頷いた。
とりあえず、全ての球種は見ておきたい。
狙い球を定めず、とりあえず来たボールにバットを当てていく。
積み重なるファールにマウンドの真田さんが 少しだけ表情を変えた。
このヤロォ、みたいな そんな感じだろうな。
シュートは言わずもがな、アウトコースのボールも効果的に使ってくるし。
何より、大きく沈むツーシームが 厄介だな。
7個のファールの後、ゴロで3アウト。
「すいません、」
「いいよ。おかげで、球筋は結構見れたから」
珍しく沈黙を保ってきた鳴さんが帽子を被り直す。
今日は随分と集中しているらしい。
あんな雰囲気の彼はあまり目にしない。
マウンドの上でも、彼は相手の全てを捩じ伏せる投球を見せた。
「こうでなくちゃ、成宮鳴って男は」
前よりも近くで見える1という数字。
よく似合っているその数字に頬が緩みそうになる。
3番の三島のボールは運悪く守備の穴に。
マウンドに向かった樹が鳴さんに怒鳴られているのを眺めながら 最近こういうの多いなと 考えていた。
あの2人の間に何があったのかは知らない。
それでも、樹は変わり始めているし 鳴さんもそれを受け入れていた。
4番の轟をレフトフライに抑え、ナインはベンチへ。
「颯音!」
「はい?」
「どう見るよ、真田」
駆け寄ってきた神谷さんにそうですね、と相手ベンチに視線を向けた。
「当たらないボールじゃないんで。自分のスイングするしかないですよね。力負けしてますし、こっち3人」
「だよな。この調子じゃ、鳴から点は取れねぇだろうし」
「…こっち次第ですね」
▽
鳴さんはそれ以降、塁に出すことなくパーフェクトピッチ。
こちらは塁には出れても、繋がらず5回まで0が並んだ。
そこ沈黙を破ったのは神谷さんのホームラン。
塁に戻ってきた神谷さんが颯音に続けよ、と声をかければ彼はこくりと頷いた。
前のバッターの白河さんが塁に出て、打席に入った颯音。
深く被っていたメットを浅く被り直して、投手を見る。
「打つな、」
ポツリと隣で鳴さんが呟いた。
その言葉通り、颯音の打った打球は観客席へ。
「ホームラン!!」
塁上の白河さんがホームに戻り、そして颯音を迎え入れた。
「ナイス颯音!」
「ありがとうございます」
白河さんや神谷さんとハイタッチを交わして、ベンチに戻ってきた彼を鳴さんがわざわざ立ち上がり 迎え入れる。
「いい仕事してんじゃん」
片手を上げた彼に颯音は目を瞬かせてから、その手に自分の手を重ねた。
「ありがとうございます」
「ナイス、颯音」
「サンキュ」
打てるって思ってたの、と尋ねれば彼は目を瞬かせてよくわかったねと少しだけ笑った。
「俺じゃなくて、鳴さんが…」
「え?あぁ、そうなんだ。何でわかったんだろ」
「何かクセとかあるのかもね」
俺たちの得点後も鳴さんは圧巻のピッチングを見せ、8回には山岡さんのタイムリーの間に颯音がホームに戻り。
鳴さんの四球ののち、俺のタイムリーで1点を追加。
最終回、秋葉がセンター前ヒットをだしたが、続く増田を空振り三振で抑え ゲームセット。
鳴さんへの歓声に 彼はドヤ顔で応え、同じように歓声の向けられた颯音はぺこりと一礼しただけでベンチに戻った。
▽
「「あ、」」
トイレで偶然会ってしまった彼に お疲れ様です、と頭を下げれば 彼もお疲れと笑顔を見せる。
「まさか、二本も打たれるとは思わなかったわ」
「…すいません」
「いや、謝らせたいわけじゃねぇんだけど」
真田さんは頭にかけたタオルを外して、玖城っつったけ?と首を傾げた。
「はい、玖城颯音です」
「颯音な。前まで投手兼外野手じゃなかったか?内野手まで兼任?」
「まぁ、そうですね」
器用だな、と彼は笑った。
「俺は投手でいっぱいいっぱいだわ。それでも、打たれちまってるし」
「絶対に打たれない投手はいないと思いますよ」
「…よく言うぜ」
最初の打席のファール、わざとだろと彼は疑問形ですらなく言い放った。
「まさか」
「木製バットだ。うまく当てなきゃ折れる。そんな柔なモン俺は投げてねぇし。あんなに弄ばれたのは初めてだ」
「弄んでなんか、ないんですけどね。まぁけど…結局必要なのは生の情報なので。そう言う戦い方もありますよね」
それで対応してくるから怖ぇよな、と俺の肩をポンポンと叩いた。
「悪ぃが、次は負けねぇよ」
「次も負けません」
「これで雷市と同い年って思うと 驚きだよな〜」
彼は真剣な表情を緩めて、笑う。
マウンド上と違って、よく笑う人なんだな。
「じゃ、またな」
「あ、はい。お疲れ様です」
「お疲れ」
真田さんが出て行き、俺も後を追うようにトイレを出る。
集合時間までまだ時間はあるけど、多少文句は言われるだろうか。
「あ、玖城さん!!お疲れ様です!」
出口でかち合ってしまった一年生。
薬師の一年生も一緒にいて、ぺこりと頭を下げた。
「颯音!早く来い!」
「あ、すいません」
鳴さんに呼ばれて俺は彼らに背を向ける。
何の返答もしなかったな、と頭の片隅で考えたが すぐにどこかへ消えた。
「お前一人でいなくなるのやめてよね」
「え、迷子にはなりませんよ?」
「下手に絡まれるでしょ!?」
あ、さっき真田さんと話したのは言わない方がいいなと内心思いながら すいませんと頭を下げた。
▽
「うぉ!カルロス!」
「これが先制か…」
「で、玖城のHR…」
画面の中。
颯音はセカンドにいた。
まぁ、初めて見る姿ではなかったが、意外だった。
「玖城って投手兼任外野手だったろ。内野上手くね?」
「そこは、仲良しの倉持くんに聞くしかねぇな」
な?とニヤつく御幸に舌打ちをする。
「アイツはどこでも出来る。内野だろうが外野だろうが投手だろうが捕手だろうが。しかも、レベルはクソほど高ぇ」
「なんでそんな全ポジションやってるんや?」
「…そういう方針のチームにいたからだな」
ローテーションとはいえ、颯音が内野をやることは滅多になかった。
それだけJoker'sの内野手はレベルが高かった。
それでも、その中でも颯音は群を抜く存在だから 脅威だな。
「次の得点シーンにも絡むし。打撃も右肩上がりって感じだな」
「一度調子を崩してるけど、木製に変えてからは上手くいってるみたい。この薬師戦でも4打席3安打。塁に出れなかった第一打席もファールを重ねてるから 恐らく球筋をそこで確認してるのかもね」
「…化け物だなぁ」
木製バットのセカンド。
春市みたいだな、と振り返れば その眼光は鋭い。
「戦線布告されましたからね」
「颯音に?」
「はい」
ヒャハッ、とつい溢れた笑い。
「なんで笑ってるんですか?」
「相変わらず、好戦的だな…アイツ」
「洋さんって、なんで玖城と仲良いんですか」
春市の問いかけに視線が集まるのがわかった。
まぁ、そりゃ敵と仲良くしてりゃそうなるだろう。
「…なんつーか。あれだな、ファンなんだよ。俺」
「は?」
「玖城颯音のファン」
窮屈そうだとは、思うが。
彼はやはり変わらない。
成宮鳴の信頼を勝ち得た彼の姿は俺の知る姿に戻りつつある。
Joker'sのエースは伊達じゃねぇな。
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