話は颯音が帰ってきた日まで、遡る。
あいつがお土産です、と俺たちに配ったお土産。
海外のお菓子は甘すぎるイメージがあったけど、そのお菓子は日本人の口に合う甘さで。
結構な量があったのに、すぐになくなった。

「鳴さん」

お土産がなくなり、選手はそれぞれトレーニングにいったり スカウティングをしたり いつもの自由時間を過ごしていた。
俺は軽く外を走ってこようか、と思っていたのだが それを引き止めたのは颯音だった。

「なに?」
「これ、Kevinからです。鳴さんに渡しておいてって言われました」

彼が差し出していたのは小さな紙袋。
Kevinって言えば、俺に颯音を返せと言っていた彼。

「…ありがとう」
「仲良かったでしたっけ?あいつと」
「別に。ちょっと話したくらいだね」

その袋はご丁寧に口がテープで閉じられていて 中身は見えない。

「中は見てないです、俺も」
「わかった」
「なんか、変なもの入ってたら言ってください。怒っておくので」

それじゃあ、と彼は食堂から出て行く。
彼の背中を見送ってから、俺も自室に戻り 紙袋のテープを開いた。
中に入っていたのは 紙袋の大きさに似合わない封筒。

「手紙?」

その封筒にはDear Hayato's ace と書かれていた。

「親愛なる颯音のエースへ、ね。皮肉ってんなー」

封筒の裏面。
書かれていたのはKevinの名前ではない。

「Leonard…レオナルドって、」

いつもの電話の相手。
颯音の多分一番信頼してる相手。

封筒の中には2枚の便箋。
決して上手ではない日本語がそこに並んでいた。

『親愛なる颯音のエースへ
Kevinと違って、日本語は得意じゃない。間違いがあっても、そこは許してくれ。
この手紙を書いたのには理由がある。
別に、俺たちのエースを奪ったお前を責めるためじゃない。
俺たちはエースの為なら どんなことでもする。
エースが決めたことなら尊重する。
たとえそれが、俺たちから離れてしまう選択であっても 俺たちを裏切る選択であっても。
俺たちは 受け入れる。俺たちを救ってくれた颯音の決めたことなら なんだって。
それに俺たちは信じている。
たとえ、俺たちから離れた場所にいても颯音はjoker'sである。
知ってるか、知らないか わからないけど 颯音は高校を卒業するまで日本にいる。
それも、俺たちが認めた。
それが、颯音の望みだったから。
貴方が そのきっかけだ。
どうか 颯音を裏切らないでくれ。貴方は颯音のたった一人のエースなのだから。』

手紙から伝わってくるのは颯音を信頼して 信用して。
そして、彼を大切に思っているということだった。

『彼をどうか 傷つけないで。
颯音は これ以上傷つかなくていい。
もう、背負わなくていい。何も。
これ以上は 彼が壊れてしまうから。
彼の傷は貴方が思うよりもずっと深く ずっと多い。
俺ですら 知り得ない沢山の傷を隠している。
どうか、彼を支えてほしい。
そばにいられない俺の代わりに。
貴方ならきっと大丈夫だと思う。
颯音が初めて認めたエースだから。
どうか、お願いします。

Joker's No.2 Leonard』

2枚の手紙が俺に伝えていたのは、どれだけ颯音が彼らにとって大切な存在であるかということと俺が思っているより俺に責任があるってことだった。

まぁ、そりゃそうだよな。
自分たちのエースでありキャプテンである存在を俺たちに預けるんだ。

手紙を封筒にしまおうとして、気づく。
封筒の中の写真。
日付はあいつがアメリカに戻っていた期間のものだった。
チームメイトと映る彼の姿。
大きなテディベアを抱いた彼は ここで見せる笑顔とはやはり違う笑顔を見せていた。
何の気なしに裏返せばP.S.とシャーペンで薄く書かれた 英語。

「英語わかんないんだけど、俺。」

携帯の翻訳アプリを使って、それを調べて 俺は首を傾げた。

「なに?これ」

意味がわからない。

貴方に気をつけてほしいこと。
雪。誕生日。桜の花。海。

翻訳した言葉は そう書かれていた。

気をつけてほしいことって、なに?

「どーいうことだよ、これ」

誕生日って颯音の誕生日?
あいつって 誕生日いつなんだろ。
雪って 東京はあまり降らないけど。
たまにドカ雪が降る。
あとは、桜?海?

「てか!ここが一番重要なとこじゃん!なんで、P.S.にしたわけ!?」

なんて、手紙に怒ったところで意味はない。
とりあえず気をつければいいんだろう。
颯音の誕生日は樹にでも聞こう。


「いつか…」

こんな風に笑ってくれる日が来るだろうか。
俺たちと共に。





「じゃあメニューはこれで決定ね」
「はい」

何度か再提出したメニューがやっと決定した。
このメニューで動き始めるまであと数日。

「そーいやさ」
「はい?」
「お前の誕生日っていつなの?」

樹も知らなかった彼の誕生日。
樹が知らないなら、誰も知るはずなく。
俺は彼に直接聞くことにしたのだ。

「あ、ちなみに俺は1月5日ね!ケーキとか作ってくれていいよ?」
「時間があれば作りますね。ケーキとか、最近作ってなしい 上手に作れるかわからないですけど」

彼はそう言って、視線をメニューに落とした。

「で?お前の誕生日は?」
「んー…」
「なに?」

俺の誕生日はいいです、って彼は困った顔して笑った。

「鳴さんの誕生日はちゃんとお祝いしますね」

どういうことだろうか。
誕生日は言いたくないっぽいし。
日にちがわからなければ気をつけようもない。

じっと彼を見つめれば彼は居心地悪そうに目をそらす。

「…いいよ、もう聞かない」
「すいません」

何かがあるのは間違いない。
ただその何か、は今の俺には触れられない場所にある。
ここで踏み込むと喧嘩になることはもう嫌という程学んだ。
いつか、話してくれる日を待てばいい。



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