「そうきたか」
颯音が話してくれたことを学校の昼休み、白河とカルロに伝えれば顔を見合わせてから溜息を吐く。
「それは、どうもできなくね?」
「颯音が信頼に値するって思うまで…俺たちにも赤松にも出来ることはない」
「そーだけどさぁ」
アイツ、何であんな生きにくそうなのかなぁ。
トラウマばっかり抱えて、傷だらけ。
癒えた傷なんて1つもないんじゃないかって、思う。
痛みに慣れて、見て見ぬ振りしてるだけ。
「俺らって何で信じてもらえたんだろうな、逆に」
「初めは今の赤松みたいな扱いというか、接し方だった」
「野球かな、やっぱ。ぶっちゃけ、一緒に試合するようになってからじゃね?颯音が歩み寄らせてくれるようになったの」
確かに。
修北との試合で樹と颯音の距離が近づいて。
そこからだった、気がする。
「それなら一緒に試合させる?まず赤松だけでも」
「先発 赤松。セカンドで颯音?」
「ありっちゃありだけど 近づく?それ。あの頃は全員0スタートだったから良かったけど。今回赤松だけでしょ?他の奴らにコミュニケーション任せて、プレーに専念する とかやりそうじゃない?」
ないとは言えないな、と白河が言った。
「あ、一個無謀なこと思いついちゃったんだけど」
「何?カルロ」
「颯音と赤松でバッテリー組めば?」
沈黙。
そして、無言で白河を視線を合わせる。
「いや、監督とかにも相談必要なのわかるぜ?ただでさえ、セカンドやるのもあんま快くお前らが受け入れられてないのもわかってるし。尚更怪我の可能性あるから 受け入れられねぇと思うけど。けど、1番 コミュニケーション必要じゃね…とか、思ったわけよ」
「なし、ではない…気もするけど。無謀だな」
「…けど今後のこと考えたら、そういうのも必要?けど逆に 颯音のこと追い詰めることにならない?平気?」
監督からの指示ならそつなくこなすかな。
けど上手くいかず怪我でもしたら?
アイツなら大丈夫そうだけど、リスクが…。
「監督は今の状況どう見てるんだろうな。気づいてない?」
「…それとなく話して、向こうの対応に任せるか。…鳴にそれを話したのは、お前だから…って可能性もある。俺やカルロには言いたくないって可能性もないとは言えない。それを俺たちが決めたとなればいい思いはしない」
「あー、確かに。鳴が聞きに行ったとはいえ、俺たちに同じこと話してくれた保証はないし。それこそ暴投のトラウマがあるから共感してもらえるかも?って希望を込めて相談してるかもしんねぇし」
確かに。
Joker'sのことも何だかんだ知ってるし、雪や桜の時のトラウマの事も俺しか聞いてない。
ある程度話がわかるだろうって思って話してくれた可能性は高いか。
「じゃあ、俺から監督にそれとなく話す。2人は何も知らないってことにしておいて…判断を仰ぐ」
「それが一番妥当」
「だな。俺らも気を遣ってやれるとこはあると思うけど、あからさまにやるのはやめとく」
また何かあれば話す、と言って 手元に残ってたパンの封を開けた。
「白河と颯音は平気なん?」
「え?」
「年明けくらいのころギスってたろ?二遊間で組んでるし平気そうではあるけど」
カルロの言葉に白河が珍しく俯いた。
確かに颯音、最近妙に白河に遠慮してるんだよなぁ。
昔より距離があるっていうか。
黙って見つめてることも多いし。
「俺たちは、大丈夫だ。特に何も、」
「ならいいけど。鳴の問題が解決したと思ったのに、続くなぁ」
「颯音が悪いわけじゃないけど」
辛い道のりを歩んできたからこそ、だろう。
アイツの進む道はまだ、茨の道。
▽
「颯音、これGWの予定表」
「ん?あぁ、ありがと」
渡された予定表にはきつきつに詰め込まれた試合が書かれていた。
このうち何回投げるのか、何回セカンドなのか。
外野もやんのかな。
「全部公開?」
「いや、この辺は非公開かな」
「1回 左投げで1試合回しておきたいんだけど、良い?監督には俺から言っておくけど」
いいの?と目を輝かせた樹に 嫌じゃなければと言えば嫌なわけない!と笑顔を見せる。
練習でやることは結構あったけど、なんだかんだ試合でやったことは一度もない。
試合の時と練習では俺の気持ちも変わるし、ボールも多少変わるだろう。
特に左の制球力不足は否めないし。
「樹も試しておきたいこと、他にあれば俺も付き合うけど。平気?」
「うん、今の所は」
「わかった」
左投げの件を部活の前に報告しに行けば 鳴さんが監督と話をしていた。
振り返った2人にぺこりの頭を下げれば、お疲れと鳴さんが笑う。
「用件は?」
「GWの非公開試合のどこかで左投げやらせてほしいです」
「わかった、組んでおく」
お願いします、と頭を下げて戻ろうとすれば名前を呼ばれ足を止める。
「捕手として 1試合回せるか?」
「え?」
刺さる2人の視線。
何故?が1番に浮かんだ。
もしもの時の為?
それならまぁ、わかるけどこのタイミングでやるか?
ほぼ練習なしで?
「…無理なら無理で構わない。強制するつもりはない」
捕手。
全員が見える、唯一の位置。
ある意味チャンスか?
「できます。ただ、1つ我儘を言ってもいいですか?」
「言ってみろ」
「江崎をセカンドに置いて欲しいです。その試合前に ダメだと判断されていたなら別の人でも構わないんですけど。もし、まだ江崎にチャンスがある状態なら アイツを使って欲しいです」
コキ、と首を鳴らした監督は 考えておくとだけ答えた。
「外野の練習時間を削って今日からブルペンに入れ」
「わかりました。誰と組みますか?」
「1年の赤松と」
赤松?
…なるほど、そういうこと。
鳴さんが一緒にいたのも そういうことか。
「わかりました。失礼します」
鳴さんのことだ。
気を使って、やってくれたことなんだろう。
ありがた迷惑だと言えば機嫌を損ねるだろうから言わないけど。
「やってくれたな…」
捕手の道具は送ってもらってあるし、手入れも欠かしていないから問題なくプレーはできるだろうな。
あんまり赤松の投球とか意識して見てなかったけど、どんなんだっけ。
樹から少し聞いておいた方がいいか。
「颯音!あのさ!」
「大丈夫ですよ」
「え、」
追いかけてきた鳴さんの方を振り返り笑う。
「監督の命令には従いますよ。貴方の意図もわかってます」
「いや、えっと…」
「俺、誰とだってバッテリーは組めるので安心してください」
彼の言葉が続く前に樹を呼び止めて事情を伝えれば驚きを見せながらも赤松の投球のことを教えてくれた。
「あと。左投げの件は了承貰ってるから、よろしく」
「おっけー。けどまさか颯音が晋二と組むことになるとは…」
「練習試合だから、って感じだろうし。樹と赤松の調子狂わせないようにやるから安心して」
そんなの気にしなくていいよ、と彼は笑う。
晋二には声かけた?と首を傾げた彼に まだと言えば呼んでこようか?と樹が言った。
「俺、道具取ってこないといけないから 伝えといてもらっていい?」
「え、あ…全然いいけど」
「悪い、任せた」
自分の部屋に戻って、過去の練習試合のノートを開く。
「確かこの辺に…あった」
▽
「え、俺と玖城さんがバッテリーですか?」
「そう。今日から練習に組み込む事になってるから、よろしく」
「ちょ、え?待って下さい。玖城さんって投手なんじゃ…」
尤もな質問になんて返そうか、と苦笑を零す。
「颯音はどこでも出来る」
代わりにそう答えたのはちょうど通りかかった白河さんだった。
「どこでもって…」
「見ての通り。投手も外野もセカンドも。やれと言われれば遊撃手だって、捕手だってできる。アイツはそういう風に育ってきたから」
「おかしくないですか、それ」
俺たちは慣れてしまったことだけど、たしかにおかしなことではある。
ただ、それが紛れもなく玖城颯音で。
それに疑問を持てば彼とは上手くいかなくなる。
最初の鳴さんみたいに。
「おかしいか?」
「え、」
「試合に出る為にした努力の結果だろ。チャンスを広げる為にやったことがおかしいのか?」
いや、と口籠る晋二に白河さんは視線を外し、話を続けた。
「競争が厳しい所の出身なんだ、アイツは。チームメイトであっても、競う相手。そういう意識がアイツの中には変わらずにある。何故と思わずそういう奴なんだと受け入れて接した方が身のためだ」
嫌われたくはないだろ?と少しだけ白河さんは笑う。
颯音の事を庇うような言葉選びだ。
けど、間違いは何もない。
「そういうこと。晋二が色々思うことがあるのはわかるけどね。技術について申し分ないから安心して投げていいよ」
「…わかりました」
「信じていいよ。颯音は勝つ為なら、一切の手抜きはしないから」
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