今日から GWが始まる。
地方の強豪との試合に向けて、朝早くからバスで移動をすることになっていた。
準備も早々に終えて 日記をめくっていれば、携帯が鳴る。
早すぎる時間だし、向井ではないだろうなと画面を見ればLeoから1枚の写真が送られてきていた。
ユニフォームに身を包み、穏やかな笑みを浮かべ写真に収まったKevin。
その姿を見て 今年も試合復帰したのだとほっと息を吐く。
今年もこの日を迎えることができたのだから、よかった。
Kevinの側で笑うチームメイトたち。
彼らが笑って野球をしてくれているのなら、それでいい。
「颯音、そろそろ時間だぞ」
白河さんの言葉にすぐに行きます、と返事をした時 もう一通メッセージが届いた。
Leoからだと思ってみた画面には来ないと思っていた人の名前。
いつも長文のメッセージを送る向井から楽しもうぜ。とたった一言。
らしくないと思いつつもそれが彼の伝えたい全てなのだと思った。
何て返事を返そうかと考えながら、日記を閉じる。
荷物の中に日記をしまって、扉の外で待つ白河さんを追いかけた。
「ありがとうございます」
「忘れ物は?」
「大丈夫です」
2人への返信はバスの中で送ろう。
「赤松とはどうだ?すぐに試合だろ?」
「試合は大丈夫ですよ。良い球投げるし、公式戦でもすぐに使われるんじゃないですかね」
「そうか…」
身長もあるし、球筋も悪くはない。
鳴さんにも気に入られているし、スタメンでやっていくのもそう難しいことではないだろう。
「逆に江崎どうです?最近よく組むと思うんですけど」
「昔に比べれば全然やりやすくなってる。反応も合わせてこれるようになったし。ただ、そうだな…咄嗟の判断や反応には迷いがあるかもな。お前は基本迷わないだろ」
「まぁ、確かに。…なるほどなぁ」
咄嗟の行動なんて、体に染み込ませてなんぼってところはあるからな。
今すぐどうこうできる問題ではないなぁ。
引き続き自主練はしていくにしても、少しは変えた方がいいか。
というよりは白河さんの練習に混ぜてもらう感じにした方がいいのかな。
「おっはよー!」
「あ、おはようございます」
朝からテンション高めな鳴さんに「うるさ」と白河さんが小さな声で呟いた。
鳴さんの後ろから顔を出した樹は俺と目が合うと表情を綻ばせた。
「おはよ、颯音」
「あぁ、おはよう。明日の初戦左みたいだけど大丈夫?」
「…多分。今日の夜もう1回、合わせて貰っていい?」
時間作っておく、と伝えて前を向けば、別の人達と歩く江崎を見つけた。
「ごめん、ちょっと行ってくる」
「あ、うん」
▽
「今日の颯音はどんな?」
「天気予報みたいに毎日聞いてくるな」
「最初に話せるの白河じゃん」
江崎に駆け寄っていった彼は恐らく先程のことを話しているんだろう。
いつからか知らないが江崎に色々教えて一緒に練習をしているらしい。
その事も江崎から聞いて、颯音からは未だに何も聞かされてはいなかった。
「特に変わったとこはなし。例の本、見てたくらい」
「そっかそっか。それならいーや」
颯音は、セカンドを辞めたいんだろうな。
俺のせいで矢面に立たされて、ポジションも増やされて。
普通に考えて、アイツの負担が大きすぎる。
「どしたの?白河。顔怖い」
「うるさい」
去年は何も感じなかったのは、きっと俺もアイツと表面的にしか関わっていなかったからなんだと思う。
鳴がやきもきしてるのを笑っていたけど、今になればわかる。
彼はあの頃から変わらず 独りで立っている。
「鳴は凄いね」
「ん゛!?!何が?!」
鳴みたいに俺は踏み込めない。
踏み込まない人だから、と心を許された自覚があるから。
「真正面から颯音にぶつかっていくところ」
「………なんかあった?颯音と」
「どうだろう」
心配そうに、鳴が眉を寄せた。
そんな顔をさせたかったわけじゃない。
けど気にしなくていいよなんて、無理な話か。
「セカンド、やるの…アイツにとって相当負担なんだろうなって」
「え?そうかな?」
そんなことないと思うけど、と鳴は言った。
「なんか、気にかかることあんの?」
「いや…」
「颯音もだけど、白河もさ。もっと口に出していいんじゃね?」
特に颯音相手なら尚更!と鳴は前を歩く颯音を見た。
「アイツ多分、結構ネガティブ?マイナス思考?…違うかな、被害妄想?っつーの?まぁ、わかんないけど。物事をマイナス捉えがちなんだよね。態度と行動でわかんだろ?ってこともわかんねぇでマイナスに考えるし。考えたら考えたで自己完結して、諦めるし」
そこからグチグチと颯音の文句を言う鳴を見ながら、相当苦労したんだろうなって他人事みたいに思ってた。
その苦労があるこらこそ、今は信頼しあっているんだろう。
「ま、要するに!口で言え!意外と、思ってたことと全然違うこと考えてたりするし。口にすればちゃんと聞いてくれっから」
「…そうだね」
「大丈夫だよ。颯音、白河のこと好きだもん」
彼はそう言って笑った。
▽
走り出したバスの中。
頑張るよ、と向井に返信をすれば、頑張って楽しむって矛盾してるだろとすぐに返信が返ってきた。
『自然と楽しくなんの!普通は!』
『それは俺には難しい』
『もー!めんどくせぇな!!とりあえず、楽しんでこい!怪我すんな!!!』
ポンポンといつもより早いペースで返事が来るのは向こうも移動中だからだろうか。
「誰とメッセしてるの?」
隣に座っていた樹が首を傾げる。
「…友達?」
「なんで疑問形?」
「友達になろうって言われて連絡先交換した…いや、させられた?」
けどちゃんと返してあげるんだねって樹は笑う。
あぁ、確かに。
無視することも出来たはずなんだよね。
そうしなかったのはきっと…鳴さんに似ていたからだろうな。
「意外と、嫌いじゃない」
「珍しいね、颯音がそう言うの」
「そう?」
この話題はキリがないと思ったのか、『今どこ向かってんの?』と話題が変わる。
『愛知。今回はその辺で組んでるって』
『最初に投げるのいつ?』
『明日』
お前のことも好きだよ、と返信をしながら言えば樹がピタリと固まった。
「どうした?」
「どストレートすぎて心臓に悪い」
「ごめん、何が?」
自覚ないのがもっとやばいよ、と樹は少しだけ赤くなった顔を手で仰ぐ。
『俺も明日が一発目。勝負しよ』
『なんの?』
『勝敗、失点、得点…あと、三振と球数とか?』
「樹、」
「今度はなに?」
「明日最初から飛ばしていい?」
彼はぱちぱち、と目を瞬かせたが笑った。
「勿論。お友達からなんか言われた?」
「まぁ、そう。ちょっと勝負?する感じ」
『負けたら?』
『相手のお願い1個聞く』
『のった』
そう言えば、Joker’sにいた頃もこんなことよくやってた。
多く得点した方のリクエストが夕飯になるとか。
ちょうど左投げの日だし、いいタイミングだ。
そういうモチベーションがあった方が、気持ちが乗りやすい。
『じゃ、また明日。こっち、もう着いた』
『また明日。頑張れよ』
『お前は楽しむの』
そこでメッセの返信は来なくなった。
こういうのは確かに、楽しいかもしれない。
▽
愛知。
vs西邦高校。
初回。
運良くボールはスタンドへ。
2塁にいた白河さんをホームに返し、自分をホームベースを踏む。
待っていた白河さんが「ナイスホームラン」と背中を叩く。
「ありがとうございます。2人が粘ってくれると、ボール見れていいですね」
「ナイスー」
「神谷さんも、あざます」
それに応えてくれるからありがてぇわ、と彼は言った。
「やるじゃん、颯音」
「ありがとうございます。うちのエース、楽に投げさせないといけないので?」
「最後、疑問形じゃなけりゃ100点」
幸先がいいというか。
気持ちがいつもよりのってる気がする。
向井とのLINEのお陰か、Kevinの復帰の報せのお陰か。
まぁどっちにしろ、このまま落とさずに行きたい。
春の屈辱を、晴らさねばならない。
夏の虚しさを、拭わねばならない。
折角貰えた2年間だ。
俺を送り出してくれた彼らに答えねば、ならない。
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