試合の振り返りやミーティングを終えて携帯を見れば鬼のような着信履歴。
何事だ、と思って電話をかけ直せば『玖城!?!』と慌てた声。

「お疲れ、どうした?」
『どうしたじゃねぇよ!ぜんっぜん!返事来ねぇからまた怪我したのかと思って…』
「あぁ…」

昼も樹と話し込んじゃって、携帯見てなかったしな。
夜も昨日に比べたら遅い。

「ごめん、普通にミーティングしてた。怪我とかなんもしてないよ」
『…なんだよ、よかった…』
「こんなに心配されると思ってなかったから…ちょっと、驚いた」

試合前から心配してただろ、と彼は言った。
まぁたしかにそうなんだけど。

「ごめんごめん。怪我もないし、勝ったし。本当に安心していいよ」
『無事ならいいよ。お前さぁ…捕手やってて、自分で投げた方がマシだとか思わねぇの?』
「え?あー、思ったことないな。うちの投手陣みんな上手いし。今日受けたのは1年だったけど。普通に一試合安心して任せてたよ」

ふぅん、と返ってきたのは不服そうな声だった。

「なに?」
『別にー。お前にはお前のプライドあんのはわかってんだけど。なんか、やだ』
「なにそれ」

投手のお前が1番面白いし、と小さな声で彼は言った。

「けど、俺とバッテリー組んだらそんなこと思わないと思うよ」
『は?なんで?』
「言わせねぇから、そんなこと」

沈黙。
そして、彼は笑い出す。

「なに?」
『いや、すげぇ自信じゃん。俺そういうのは好きなんだよなぁ』
「そりゃどうも。まぁ、ほんとに。どっちにしたって、ガッカリさせるプレーはしねぇから安心してどーぞ」

夏が楽しみだわ、と彼は言って、明日も早いからと電話を切った。
本当に心配して、その為だけに連絡くれてたのか。
少し、申し訳ないことをした。

「誰と電話してたの?颯音」
「え?あぁ、鳴さん。友達です」
「ふぅん?最近仲良いじゃん、そいつ」

なんだかんだ結構な頻度で連絡とってるし、確かにそうかもしれない。
けどそれよりも彼の不服そうな目。

「嫌ですか?」

ド直球にそう尋ねれば、は?と目を丸くさせた。

「俺が倉持さんと話してた時みたいな顔してます」
「…はぁ、それ言う?普通。気付いても気付かないふりするもんじゃないの?」
「それやったらまた拗れますよね?俺たち」

それは否めない、と彼は言って 俺の隣に座った。

「別に、いいよ。友達くらいは」
「それならいいんですけど」
「けど、俺らより優先すんのは普通にダメだから」

最優先は俺たち。Joker’sは同率。と彼は言って軽く俺の足を蹴った。

「返事」
「畏まりました」
「…よろしい。と、そんな話しに来たんじゃないんだよね。お前、白河とちゃんと話してる?」

急な事で反応に困った。
神谷さんが俺の異変に気付いているのは知ってたけど鳴さんも?

「今のお前ら、すれ違ってね?」
「と、言うと…?」
「颯音は白河の為に怒ったり、江崎育てたりしてんだろ?」

まぁそうですね、と言えば「白河はそうは思ってないよ」と言った。

「白河、俺のせいで 俺が不甲斐ないせいで お前に無理させてるって思ってる」
「は?いや、はい?なんでそうなるですか?俺は別に、」
「お前の言い分わかるよ。颯音はセカンド入ったら必ず白河と組めるし。元々ローテでやってた分、今の状況にも困ってないだろ」

まさにその通りだ。
向井にも散々言ってきたが、今の状況に不満は1つもない。
どのポジションでも任されればやりきるし。
練習量が増えることにも特に文句はないし、試合に多く出れる分得してるとも思っている。

「俺さ、ちゃんと相談しろよった言ったじゃん。セカンドの江崎育てるってこと、白河に相談した?育てる意図は伝えた?」
「いえ…」
「白河の負担になるとか、思ってんだろうけど。それ、昔の俺とお前なの分かってる?」

彼は俺の胸のあたりを引っ張り、無理矢理目線を合わせてきた。
交わる視線は痛いほど、真っ直ぐだ。

「言葉にしなきゃ伝わんねぇし、拗れんの。お前もさっき、自分で言ったろ。後輩の件は仕方ないって思うよ。そこはお前に急くことじゃねぇし。…けど、白河は違ぇじゃん。ちゃんと仲良かったし、信頼関係作ってきたじゃん?頼むから、そこまで拗れんのはやめよう」
「…すいません、」
「ま、お前だけ責めるつもりもないけどさぁ。アイツもなんか勝手に心閉ざしちゃってるし。…それだけ、責任感じてんのかもしんねぇけど」

去年散々迷惑かけたからかっこいいこと言えないけど、と前置きをしてから鳴さんは笑う。

「やっぱね、俺は お前が稲実に来てよかったって思ってほしいんだよね。だから、その為に変なすれ違いはなくしたいし。いつか、後輩のこともちゃんと好きになってほしいし」
「…はい、」
「今日のやつ、俺結構嬉しかったんだよね」

立ち上がった鳴さんが俺を見下ろして、普段とは違う表情を見せる。
見たことない柔らかい表情だった。

「俺は稲実の14番ですってのも。ちゃんと強いって知ってますから、稲実はってやつも」
「…思ったこと、言っただけですよ」
「そう思ってくれてんのが嬉しいの。だから、そう思ってくれた分ちゃんと応えたいわけよ」

彼の手が俺の頭を好き勝手撫で回す。
あまり慣れない感覚だけど、振り払おうとは思わなかった。

「だからお節介やきにきた。って、感じです」
「……照れてます?」
「うるさい。とりあえず、白河ともそれとなく話すつもりではいるけど。お前も、白河がそう思っちゃってるって前提で動いてほしい」

分かりました、と答えれば彼は満足したのか頭から手を離し、ひらひらと振った。

「じゃ、おやすみ。体冷える前に寝ろよ」
「はい、おやすみなさい」

鳴さんの背中が見えなくなって、壁に背を当て空を仰ぐ。

「…なるほど、そういうことか…」

あの時の険しい表情は、自責の念だった…てことだよな?
それなら最初から俺は相当な思い違いをしてる訳か。

「やっぱ難しいな、人の感情って…」





「あ、白河?」

宿舎に入ったら白河が俯いて立っていた。
まさか、と思って聞いちゃった?と尋ねれば「あぁ、」と短い返事が返ってきた。

「…勝手なことしたのはごめん。けど、お前らの拗れんのは勿体なすぎ」

今思えば、羨ましかった。
俺は颯音と上手くいかなくて。
勿論俺も悪かったわけなんだけど。
そんな中で、白河だけは最初から颯音に受け入れられてた。
同室だったからなのか、理由はわからないけど。
対等な目線で彼らだけは野球をしていた。

「…悪い」
「謝んないでよ、らしくない」

俯いたままの彼に俺は溜息をつく。

「今すぐどうこうしろとは言わないよ。自分で気持ちの整理もしたいだろうし。けど、颯音はさ…お前の為に頑張ってるから それだけは見てやって」
「…羨ましいよ、やっぱり」

お前は颯音のことよくわかってるんだな、と彼は言った。

そんな事ないよ。
沢山ぶつかって、沢山怒らせてきただけ。
その衝突の分、知るチャンスを貰っただけ。
その衝突の度に沢山迷惑かけてきたから、それをお前らが支えてくれたから。
だから今、俺たちはこうなれたし アイツは稲実に対してああやって思ってくれてる。

「…わかんないよ、全然。意味不明だもん、あいつの思考。けど、わかりたいとは思ってる。やっと、心開いてくれるようになったんだしさ」
「………そうだな」

本当は白河の異変、いや二遊間のことは俺達が気づいてやるべきだった。
監督が動き出し、颯音が入れられる前に。
叱咤激励するでもよし、ミーティングするでも やりようはあった。
颯音が自分で背負い込むのなんて、今に始まったことじゃないし。
白河が人を頼れないのも今更だ。
夏前に気付けたのはよかったけど。

「無理させてごめんね、白河」
「…今日の鳴、気持ち悪い」
「うわっ!?酷くない!?なにそれ!!!?」

彼はふっと笑ってありがとう、と言った。

「え?」
「お前はいつも通り堂々とエース様やってればいいよ。もう、大丈夫」
「……ならいいよ。エース様はみんなのことも考えられるんだからな」

成長したね、と馬鹿にするように笑った白河は踵を返して階段を上っていく。

「……まぁ、これで大丈夫でしょ。それにしても、友達って誰なんだろ…」






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