GWの遠征も終わり学校に戻ってきてから数日。
別に気まずさとかはなかったけど、お互いに何かを飲み込んで接していた。
自分から声をかけようかとも思ったけど なんとなく躊躇した。
颯颯音と彼が俺を呼ぶ。
静かなその声は嫌いじゃない。

「白河さん」
「…鳴から聞いた」

いつもの彼らしくない。
どこか自信なさげ俯く。
その、らしくない姿に少しもやもやした。
貴方にそんな顔をさせたかったわけじゃないって。

「白河さん。江崎どうでした?」
「は?」
「…任せられそうですか?」

ぱちぱち、と瞬きをしてから 彼はふっと笑う。

「お前に比べたら全然だな」
「手厳しいなぁ」
「…けど、夏には間に合う」

真っ直ぐな言葉だった。
そして、視線が絡み 彼は真剣な目を俺に向けた。

「間に合わせる」
「…よかった」

座るか、と白河さんが近くの椅子を指差す。
腰掛けた彼の隣に座って、彼の横顔を見つめた。

「……悪かったな、」
「謝らないでくださいよ。…俺も、すいませんでした」
「お前も謝らなくていい」

ずっと、と彼は口を開く。

「思えば、最初から。お前が投手と野手を兼任する頃から…お前の負担は多いんじゃないかって思ってた。…お前の打力が俺たちには必要だったけど、そうだとしても…お前を休ませてやれない不甲斐なさは感じてた」
「…そう、だったんですね…」
「繰り返す俺たちのミスで、投手としてのお前に迷惑かけてることも申し訳なくて。そこから、お前が内野まで兼任するってなって…」

正直、情けなかったと俯く。
青道との試合で見せた、彼の熱を思い出した。
クールに見えて、彼はチームを愛してるし、勝利に執着していた。
頭にデッドボールを受けて、痛みより先にガッツポーズを見せれた彼の熱量。
あの時からか、俺はこの人が好きだった。
それまでは干渉してこない安全地帯って気持ちで傍にいたのは否めないけど。

「俺、白河さんのこと好きですよ」
「…は?」
「白河さんと二遊間守るの楽しかったです。神谷さん白河さん俺って打順を繋ぐのも楽しいし好きですよ」

は?と固まってる彼に俺は笑う。

「負担なんて思ったことないんです。寧ろ楽しんでました。だから、気にしないでほしいし、これからもそうありたいって思ってます。セカンドは江崎に譲りますけどね」
「…お前は…」

何か言おうとしたが彼は目を伏せて笑った。

「俺も好きだよ」
「え、」
「お前と野球するのが楽しい」

柄じゃないな、と彼は呟いた。
確かに彼らしくはないかもしれないけど。
嬉しいな、と自分の表情が緩むのがわかる。

「…ニヤけてるぞ」
「そんなこと言って貰えると思ってなかったので」
「俺だけじゃないさ。皆、お前と野球するのは好きだと思う」

彼は穏やかに笑って、俺の頭を撫でた。
前よりも少しだけ、慣れてる気がした。

「お前が、チームの一員になったって…伝わってくるから。尚更」
「……すいません、」
「なんで謝ってんの」

悪かったのはこっちもだろ、と彼は言った。

「…先輩って立場になって分かったんですよね。去年の鳴さんの気持ち」

後輩を持ち、初めて感じた感情。
味方か敵か。
信じるに値するのか。
そんな葛藤を吐き出せば 白河さんはお前そんなこと考えてんの?と首を傾げた。

「え、」
「鳴はそんなこと考えてなかったと思うよ」

あれはただ素直じゃないだけ。
そんなあれこれ考えてないと彼は言った。

「初めに、みんなの前で認めないなんて言ったから。後に引けなくなっただけだよ」
「そんな理由なんですか?えぇ…」
「子供なんだよ」

それは知ってるけど。

「嫌いだ認めないって言った手前後にも引けなくて。けど倉持とお前が仲良いのは気に入らないし。御幸にもお前が欲しいとか言われて焦って……まぁ、暴走した感じだろ」
「そうなんですね…」
「それに、倉持の前だとお前肩の力抜けてたから。…俺たちといるより幸せなんじゃないかって…思ってた」

確かに倉持さんの前では肩の力が抜ける。
Joker’sを知っているから、そしてチームが公表している情報はちゃんと知っているから。

「居心地はもしかしたら良かったかもしれないですね、倉持さんの隣の方が。けど、俺は稲実を選んだことは後悔してないですよ?…ここに来たから、俺のエースに出会えた」





微笑んだ。
颯音のその表情は今まで見てきたものとは少しだけ違う気がした。

「彼はチームメイトを チームメイトは彼を信頼して信用してる。揺るぎないその関係。彼がマウンドに立つと誰もが 疑いもなく 勝利を確信する」

素晴らしいと思いませんか、と彼は首を傾げた。

「そんな人の傍にいられる。そのチームの一員でいられる。…こんな幸せ、俺は稲実だから感じられてるって思ってるんです。エースが成宮鳴で、チームを支える白河さん達がいるから」
「…お前もたいがい、鳴が好きだな…」

あんなに衝突してきた彼らからは、想像できない。
彼らにしかない信頼関係が目に見えた気がした。

「…妬けるな」
「え?」

初めは俺の方が近かったはずなのに。なんて。
安全地帯に身を置いて、わかったフリして距離をつめる努力をしなかった報いか。

「…いや、こっちの話だ」

鳴しかわからない颯音が実際に増えてきた。
迷ったり、距離を置く彼に 踏み込めるのは今は鳴だけだ。
今回のことだって、鳴がいなければ拗れたままだった。

「あ!こんなとこいたのかよお前ら!!」

カルロスと鳴が俺たちを見つけて 飯に行こうと騒ぐ。
隣に座っていた彼は行きますか、と首を傾げた。

「…颯音」
「はい?」

歩きだそうとした彼は足を止めてこちらを振り返った。

「俺はお前と野球が出来て楽しいよ。お前が、颯音が…このチームの一員として戦ってくれることが」
「…ありがとうございます。俺も、そうですよ」
「これからも、俺の後ろを頼む。…お前の後ろも、俺に任せろ」

目を瞬かせた彼は次第に表情を綻ばせる。

「はい、よろしくお願いします」

彼の頭をポンポンと撫でて 騒ぐ彼らの元へ向かう。
足を止めたままだった彼がパタパタと軽い足音をさせ隣に並んだ。

「なんだよ、お前ら機嫌良くね?」

カルロスが俺たちを交互に見て首を傾げる。

「何してたのさ、2人で」
「内緒」
「「は?」」

そうだよな、と隣を見れば そうですねと彼も笑いながら答える。

「ちょっと。なにそれ、仲良しアピールですかー?」
「そうだよ」





少しだけ白河の表情が緩くなった。
どうやら2人でちゃんと話し合えたらしい。
鳴は2人にムカつくと噛み付いているが、2人で話す姿を見てほっと息を吐いたのは見逃していなかった。
どいつもこいつも、素直じゃない。

「仲直りできたか?」

白河に絡んでいる鳴を見ながら 声を潜めて尋ねれば颯音ははいと素直に頷いた。

「すいません、気を遣わせて」
「…すいません、じゃねぇだろ」
「え?」

心配されるのは悪。
気を遣わせるのも悪。
そんな考え方なんだろうな。

「そーいう時は、ありがとうございます。な?お前が悪いことをしてる訳じゃねぇじゃん」
「…ありがとうございます」
「よくできました」

少しずつでいい。
彼が、チームメイトになれたように。
時間をかけて、少しずつでいいから。
頼ることを悪だと思わず、弱さを見せることを怖がらなくなってくれたらいい。

「鳴さん」
「なんだよ!」
「ありがとうございます」

颯音が微笑めば、彼はピタリと動きを止めた。
ふんっ、とそっぽを向くが少しだけ口元は緩んでいる。

「手がかかるよ、お前はさ」
「鳴が言うか?」
「ちょっと、どういう意味さ!?」

鳴ももう少し素直になりゃいいのに。
好きなら好きなりの態度を出さなきゃ、愛想つかされるだろうに。

「あ、すいません。電話だ…」

着信音が鳴って、颯音は画面に視線を落とす。
少し出てきます、と電話を耳に当てながら彼は俺達に背を向けた。

そーいや、倉庫裏で話した時。
誰かから届いていた通知を隠すように携帯をひっくり返していたな。

「例のチームメイト?」

俺が声をかけると友達です、と彼は笑った。

「友達、ね」
「…ここんとこよーく電話してるよ。あの 友達ってやつと」

不服そうに鳴は颯音の背を目で追った。

「え?いや、お前が友達になろうって言ったんじゃん」

電話の向こうにそう言いながら笑う彼はただの高校生のようだった。
いや、高校生であることには間違いないんだけど。
彼のああいう気の抜けた笑みは見たことなかったから。

「……そろそろまじで取られるかもよ?」

白河の言葉に鳴は何も言わなかった。
歩き出す2人を見送り、彼に視線を向ける。

「関東大会?うん、多分投げるけど」

会話的にはどっかの野球部って感じか。
話す内容は野球のことばかりだ。

「わかった、じゃあまた。毎回心配しすぎだって。向井も、怪我は気をつけて」

向井。
なるほど、向井太陽か。
となれば、春大の試合した時だな?

「ふぅん?」

あぁいう俺様が好きなのかね。
鳴にどこか似てるとは思ってたし。

「あれ、神谷さん?待っててくれたんですか?」
「おー。仲良さそうだな、お友達」
「え?あぁ、そうですね。意外と」

鳴には言わないでおこう、面白そうだから。
彼が肩の荷を降ろせる場所なら、奪いたくはないしな。

「友達は、大事にな」
「…はい、そうですね」




戻る