「え??まじ?」
「そうきたか」

結城さんのいる大学との練習試合を終えた翌日。
ついに親善試合当日を迎えていたのだが。
アメリカ代表の中にそれはそれは見覚えのある男がいるのだ。
以前俺に声をかけてきたAlfredと話をする横顔を見て叫んだ俺に 彼はこちらを振り返った。
丁寧に帽子まで外し頭を下げた彼がAlfredに声をかけてからこちらに歩いてくる。

「ねぇ、颯音?報連相って大事だと思わない?」
「お伝えしましたよね?」
「いや、内容は!?さすがにこれは言えよ!?!!」

思ったより大声が出て視線が集まるのがわかった。
けど、目の前の男は目を瞬かせてから微笑む。

「驚かせたくて」
「いやもう、めちゃくちゃ驚いてるよ?今ドッキリ大成功〜って看板持ってきてもいいくらいだよね!?めちゃくちゃ視聴率取れる驚き方してるよ俺!」

鳴、動揺しすぎと白河の声が聞こえる。

いや逆にお前ら冷静すぎない?なんで?
確かにそういう話、Alfredがしてた。
それを颯音は断ってたから、きっと急な欠員とかなんだろうけど。
だとしてもじゃない?
てか、颯音のプレーをこいつらに見せるの?
それ俺が遠ざけた意味無くない?

「言ったら止めましたよね、鳴さん」
「よく分かってんじゃん。今からでも止めるわ」
「それは困ります」

俺たちの努力の意味は!?と颯音に詰め寄る俺をカルロが「まぁまぁ」と止めた。

「流石に颯音も考えなしじゃないっしょ」
「安心していいよ、颯音は本気じゃ投げない」

俺たちの会話に割って入ったAlfredは「また会えたね」と微笑む。

「Alfredさん、颯音のこと相談無しに攫っていかないでよ。」
「すまないね。監督はすんなり許してくれたから」
「…監督そういうとこあるんだよなぁ……」

前に来た時も思った。
Alfredの隣に並ぶの颯音は普段と違う。
腹立つくらい様になるし、Alfredに向ける目は特別だ。

「まぁいいや。で?どこやんの?」
「投手と1塁ですよ」
「まぁ……それなら……ギリギリ…うん、いっか」

元々遊撃手の予定だったけどね、と付け加えたAlfredは悪戯が成功した子供のように笑った。

「は?」
「どこかの誰かと…怪我をしないって約束したから。二遊間したくないって言われてしまってね…まぁ、助っ人として借りてるし その意思は尊重したけどね」
「初めましての人とバッテリーは組めても、二遊間は組みたくないですよ」

二遊間は君にとっては特別だからね、と笑ったAlfredは今日はよろしくねと付け加え踵を返す。
視線だけ、白河に向ければ少し安心したように目尻の下げていた。

「…ちゃんと見てっから。無理はほんとにしないこと。いいな!?」
「はい」
「それから、」

俺とは全力勝負だ、と颯音を指差せは きょとんとした顔をする。
だが少し笑みを浮かべ、その目を細めた。

「Joker'sの代表として来てますから。恥ずかしい姿は、見せませんよ」
「言ったな」
「はい。お約束します」

それじゃあまた後で、と彼は頭を下げて向こうチームに戻っていった。

「あの外人さんなんなん?」
「颯音がいたチームの監督さん。前も1回稲実来てて、会ったことあんだよね」
「へぇ…思ったより若いんだな」

そうだな、と返して 彼に初めて会った日の夜を思い出す。

Alfred・Reynolds。
ドラフト1巡目指名確実と言われた 数年に1度の逸材と言われた 投手。
そして、今世紀球界最大の悲劇とも言われた 彼の事件。
ドラフト開始を目前としたある日の朝。
彼は、日課のランニングからいつまで経っても帰って来なかったそうだ。
そして数時間後、彼のランニングコースの河川敷から意識不明の彼が見つかった。
折れた利き腕。
血に塗れた手。
頭は十数針縫う程の傷。
極めつけとばかりに足は銃で撃たれていた。
そのニュースは瞬く間に、全米へ広がったそうだ。
もちろん、ドラフトは流れ それだけでなく選手復帰すらも不可能と言われた。
それでも彼は、犯人の名を口にすることはなかった。
今も、その犯人は捕まってはいない…らしい。

だがAlfredは俺に言った。
過去に、壊して野球を辞めてしまった人にやられたと。
それが地元では有名だったと。
それでも、犯人の名を告げなかったのは 同情か はたまた 復讐なのか。

「颯音は、そうならなきゃいいな…」
「何が?」
「なんでもない」

そういえば、ちゃんと颯音と戦うのは初めてか。
練習試合とかは部内でやっているけど、真っ向勝負かと言われると 少し違う気がする。
彼は俺と戦うことを避けるし、俺を上にしたがる。

「とりあえず、颯音は絶対負かす」
「珍しく勝負に乗ってきたもんな」
「それな」

エースとしてのプライドも、投手としてのプライドもない。
それでも、Joker'sとしてのプライドはあるのだろう。
昔は気に入らなかったそういう所も、今はアイツらしいとさえ思うんだから俺も少しはあいつを知れているんだろう。

「鳴、どういうこと?なんで玖城くん向こうにいんの?」
「一也には関係ない」

皆の疑問を代弁した一也を一蹴して監督に歩み寄る。

「監督は知ってたんですね」
「あぁ、」
「言ってくださいよ」

コキ、と首を鳴らした監督は静かに俺を見下ろす。

「アメリカ代表がどんな選手か。聞いてこなかっただろ」
「………確かに」

うん。
監督らしくて何も言えない。
監督はアップをする彼らに視線を向けた。

「…MLBが都市部の野球振興を図るため創設したウィンドユースアカデミー。経済的な理由など野球を続ける環境を失った者に無料で育成プログラムを提供し、元メジャーリーガー達もボランティアで指導に参加しているそうだ」

都市部ってことはJoker'sとも面識があるのだろうか。
Alfredがコーチを務めている所をみても、その可能性は高いだろうな。

「その中でも選りすぐりの選手が今回来日したらしい。野球というスポーツがあったからこそ彼らは日本に来ることができたし今日の試合も実現することができた。そんな彼らに対し、我々はどのような野球を見せることができるか」

こちらを振り返った監督に空気が締まる。
だが、その空気を壊したのは一也だった。

「すいません。玖城くんがあちらにいるのは?何かあるんですか?」
「… 玖城はあちらのコーチと顔見知りでな。急な欠員補填の為に貸し出す運びとなった」

一也がこちらに視線を向ける。
探るようなその視線に、自然と舌打ちが出たのは仕方ないだろう。

「玖城があちらにいることに、何か不都合があるか?」

監督は静かにそう、一也に問うた。
その目は静かに、とても静かに一也を それ以外の人たちを牽制した気がした。

「……ないなら、我々はやるべきことをやるだけだ」

カルロが俺を小突き笑う。
監督があんな風に助けてくれるとは思わなかった。





「彼に伝えてなかったのかい?」
「えぇ。言ったらきっと止められましたし」
「颯音は、望んでなかったのでは?」

確かに、鳴さんとはJoker'sの皆と一緒に戦いたいと思っていた。
その気持ちに嘘なんてない。

「思えば…真っ向から向き合ったことがないんですよね、野球で。稲実の玖城颯音として、俺は多分鳴さんに本気でぶつかれない。だからこそ、Joker'sとして戦いたいと思ったんですけど」
「玖城は身内には甘いからねぇ。野球でも私生活でも」

よく言われますよ、と答えて歩みを止め 振り返る。

「だから、あの人が卒業してしまう前に見せたいって思ったんですよね。Joker'sとして」
「俺は強いぞって?」
「はい。貴方の繋いでくれる未来を、繋いでいけますよって」

妬けるね、とAlfredは笑った。

「きっとそんな姿を見たら皆怒るだろうね」
「言わないでくださいよ。アイツらと鳴さんは、感情の種類が違うんです」
「颯音」

大きな、傷だらけな手が頭を撫でた。

Joker's ace颯音、時間だよ」

少し声色が重くなり呟かれたその一言で、頭の中が切り替わる音がした気がする。
1つ息を吐き 彼らに背を向けて、自分のベンチを見た。

「君を待っているよ、」
「えぇ、わかってます」

Alfredのことを追い抜き、ベンチで待っていた彼らの前に立つ。
刺さる視線を感じながら、一人一人の顔を見た。

「いい気分はしないだろ?」

返事は何も無かった。

「この一席を得られず、臍を噛んだチームメイトがいたはずだしな」

ピリついた空気が、自分の肌を指す。
どこか あの頃を思い出す敵意のようのそれに ぞわりと背筋が震えた気がした。
だがあの頃のような恐れは、ない。

「快く受け入れてくれとは言わないよ。君らのことも、彼らのことも 実力で黙らせる」

Alfredが隣に並び笑った気がした。

「以上だ」





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