「繋げられなくてすまない」

スティーブンの言葉に大丈夫だよ、と声をかける。

「またインコースをやられたね」
「日本の審判はインコースに甘すぎやしないか?」
「まぁ、アメリカと比べるとそうかもしれない。両方やってみて思ったけど、アメリカってストライクゾーンが外に広いんだよね」

それは聞いた事あるな、とチームメイトは顔を見合わせ頷く。

「日本の球場で、日本の球審。完全に相手の土俵での勝負になるから、この違いを頭に入れてプレーした方がいい」
「OK。颯音だったら、そういう人相手にどう戦う?」
「手っ取り早いのは…外のボールゾーンへのボールの後にインコースにずばっ、と…かな?」

御幸さんがどこまでセオリー通り攻めてくるかわからないけど。
情報のない打者相手に、最初からリスキーなことはしないだろう。

「初回はインコースのストライクゾーンを見るのを優先していいよ。向こうの投手は運が良いことにコントロールに関してはピカイチだから」
「あれを基準にしろ、と」
「YES。初回で体感で覚えて。2巡目の代わったばかりの投手を狙おう」

まぁ、こちらが備えられるのと同じく向こうも備えてくる。
初回を終えて白河さんや神谷さんは先発のウィードの球筋をある程度インプットしているだろうし。
味方でいる分には頼りになるけど、敵にすると厄介なんだよな。

「それから、ウィード。球威球速は申し分ないけど、変化球の時腕が緩む」
「え、」
「向こうに分析に長けた選手がいるから、ある程度変化球は読まれていると思った方がいい」

OK、と頷いたウィードの背を軽く叩きベンチを出た。





楊は3回までほぼ完璧なピッチング。

「この投球はチームに勇気と勢いを与えてくれる。君を先輩に選んで良かった」

ベンチに戻ってきた楊に微かに笑みを浮かべて監督がそう声をかける。
そして監督から差し出されたバットとメット。

いや、待って?
俺今何を見せられた?
驚いて固まる俺にどうした?と梅宮が声を掛けてきた。

どうした?じゃないよね!?

「つか俺!!あんな優しい言葉かけてもらったことないんだけど!?」
「そうなん?」
「どういうこと!?ねぇ、どういうこと!?」

落ち着け、とカルロに背中を叩かれる。

「酷くない?普段頑張ってる俺への労りは?」
「まぁまぁ」

まぁ、いいや。全然 良くないけど。

楊のピッチングは確かに文句なし。
颯音は上手く打ってきたけど、あれは向こうを褒めるべきだな。
流石颯音だよね、そういうとこは。

2回の打席を終えて、ベンチに戻ってからみんなを集めて何か話してるようだった。

1打席目が終わると大体白河とカルロと一緒に投手の分析してるから今回もそれだとは思うけど。
颯音がみんなを集めるって姿が見慣れない。

「颯音のこと見すぎじゃない?」

いつの間にか隣にいた白河が同じように向こうのベンチを見る。

「颯音がみんなのこと集めてるなぁって、思って」
「…元々いたチームじゃエースでキャプテンだったんでしょ?別におかしなことないだろ」
「まぁそうだけど。今回のチームメイトは昨日初めて会ったような人達でしょ?それの中心にいるの、やばくね?」

まぁたしかに、と白河は頷く。

「その信頼に足る存在ってことだよな?アメリカじゃ、どんな選手だったんだろうな」
「ほんと、それね」

知りたい、もっと。
玖城颯音を、Joker'sのエースのHayatoを。

3回の裏。
楊が出塁し、続くカルロがフォアボールを選ぶ。
3番手の白河が安全に送り、迎えた打者は一也。

「カルロに白河… 颯音や樹ならしっかり点取ってくる場面だよな…」

一也はどうする?
キャッチャーのスタメンは奪われ、4番も奪われ…
ここで打たなきゃ何しにきたのって感じだな。

ファーストにいる颯音が投手になにか声をかける。
それに投手は頷いた。

2球は見逃し。
そして、3球目 一也のバットが動く。
ボールは内野の頭上を超えて、左中間に落ちる。

「まぁ妥協点だな」

白河はどこか不満そうにそう言った。






3回。
投手の楊くんの出塁を活かして 神谷くんと白河くんが繋ぎ 御幸くんのヒットで得点に。

4回の表。
交代した今井くんからカーライルのホームランで2点を返す。
その後続きたいところだったか、神谷くんの好守備に阻まれてしまった。

「やっぱり、敵に回すと怖い2人だな…」

ネクストバッターボックスから戻りながら颯音はそう呟く。
2人、というのは神谷くんと白河くんのことだろう。

「颯音のチームメイトは面白いね」

そう声をかければ颯音は「そうでなくちゃ2年目なんて考えませんでしたよ」と答えて帽子を被る。

「鳴くんだけじゃ、なかったんだね」
「どれだけ強い投手がいても、野球はできませんから」

グローブをはめながら俯く颯音がどんな顔をしているか、見なくてもわかった気がした。
誰よりもチームというものに拘っているのは彼だ。
成宮鳴だけで心が動くとは私とて思ってはいなかったけれど。
彼らの口から聞くのは颯音のエースになった鳴くんのことばかりだった。
それだけ彼らにとって衝撃だったんだろうな…。

「白河くんは二遊間を組んでたね」
「はい。とてもやりやすいですよ」

颯音にとって、二遊間はバッテリーよりも組みにくいものらしい。
Joker'sを設立して練習していく中でも随分と苦労した記憶がある。

「気に入っているんだ?彼」
「そうですね。イメージ的にはRalphと組んでる感じですかね。言葉がなくてもテンポを合わせてくれて。頭の回転が早くて、こっちの考えを先回りしてくれる感じです」
「へぇ、」

Ralphに似てるのなら確かに颯音とは相性が良いだろう。
颯音もRalphも頭を使って野球をする。
思考を巡らせて、経験から予測をして、観察から判断をする。
どんな状況においても感情には流されない。
いや、颯音は感情に流されてしまうことが時々あるか…。

「2人とも投手の分析をよく一緒にしてるんですよ、試合中。今回もやられてたと思います」
「ウィードはパワーもあって見込みのある投手だけどね。変化球も良いものを持っているのに腕が緩んでしまうのが勿体ないね。あとはセットポジションの時かなぁ問題は」

自分も同じ判断です、と颯音は答える。

「伸び代はかなりあるから、これからが楽しみだね」
「はい」
「次は颯音の注目株だけど、どう?」

彼らの映像を見せた時、颯音が食いついた投手。
それが彼 コンラッドだった。

「羨ましいですよ、長身で手足は長いし。それでいてサイドスロー。上から振り下ろされても落差があっていいと思いますけどね。左投げのサイドスローって珍しさもあって尚更打ちにくいと思います」
「そうだね…」
「…左のサイドスロー……そういえば向井もか…」

向井。
今回のメンバーには入っていない名前だ。
聞いたのも初めてな気がするが、「昨日の夜連絡返せてないな…」と呟いている所をみると連絡をとる程には親しいのだろう。

「Hey 颯音!交代だ!」
「あ、OK!すぐ行く」

ベンチを飛び出していく颯音は、ゆっくりマウンドへ向かうコンラッドの背を叩き声をかける。
そして一言二言言葉を交わし、颯音は笑顔を見せて1塁に向かった。





「打ってきたなぁ、やっぱ」

5回の表。
先頭打者の颯音の打球は綺麗な弧を描きライトスタンドへ。

「今の球、別に甘くなかったろ」
「颯音にとっては、あんなん余裕」
「俺と試合した時速攻交代したのが勿体ねぇわ…」

喧嘩売ってる?と隣に立つ梅宮を睨めば違ぇわと彼はぎょっとした顔で俺を見た。

「率直な感想!!俺の球、打てんのかなって」
「2打席目にはいけんじゃね。颯音だし」
「…評価クソ高ぇな…」

見てわかんだろ、と言えば彼は口を閉ざす。

「…逆に、なんであの試合であんなだったんだよ…」
「……常に絶好調な奴なんていないだろ」
「そうだけど。…やっぱ、南朋が関係してんのか」

南朋って誰?と言えば ベンチにいた車椅子の奴と彼は答える。
そういえば確かにそんな人いたな、と記憶を辿る。

「一昨日、変だった。南朋の話した時」
「どんな風に?」
「どうって言われるとあれだけど…南朋はもう選手に戻れねぇんだよ。その話してたんだけどな…アイツは、なんか 戻れたことを後悔してるって感じだった」

3塁を蹴り、ゆっくりとホームに帰ってくる颯音に視線を向ける。

「……成宮?」

してんだろうな、後悔。
怪我をして戻ってきた事も、野球を続けている事も。

「お前の勘違いだよ」

それ以上に "あの日"死ねなかった事を。



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