4-3で迎えた6回の表を0点に抑えられるも、コンラッドが圧巻のピッチングを見せ こちらも3人で抑える。
そして迎えた7回の表。

「真打ち登場ってね」

マウンドに向かう彼をこちらのベンチから見る日が来るとは思わなかった。
寂しいような、けどあの鋭い眼光が自分に向くと思えばどこか胸が踊る。

「また投手交代?」
「次はサウスポーか」
「随分小さいのが出てきたな」

そんなチームメイトの言葉を聞きながらも、口元が緩みそうになるのをなんとか抑える。
それに気づいたのかReynoldsはふっと笑みを零した。

「Heyボス。日本チームはジュニアハイスクールの選手も参加してるのか?」
「いや、高校生だけも聞いていたがあれは1年生じゃないか?」
「HAHAHA早くも弾切れかよ。先頭投手をあんなに早く下げるから」

思わず笑ってしまって、視線がこちらに集まるのがわかる。
中学生は、さすがに。
確かに鳴さんは小柄だけど、そんなこと言った怒られるだろうな。
だが、そんなの彼がマウンドに上がってしまえば関係ない。
圧倒的な存在感。
そして、エースとしての素質。

「颯音、1人で笑ってないで否定してあげなくていいのかい?」

Reynoldsの言葉にすみません、と呟き咳払いをする。

「彼はMei Narumiya。去年の夏の甲子園準優勝投手にして、今年の春の優勝投手……そして、」
「え、」
「俺のエースだよ」

彼らは顔を見合わせた。

「ちなみに俺より先輩。ジュニアハイスクールなんて、言ったら死ぬほど怒られるから気をつけて」
「…………okay…なるほど。油断は、しない方が良さそうだな」
「うん、そうした方がいい。1球見ればわかるよ、きっと。高校野球において、彼を超える投手はいない」

俺はそう思ってる、と付け加え マウンドに立つ彼を見た。
乾さんとどんな話をしているんだろう。
どんな作戦を立てるんだろう。

「颯音、顔に出すぎだ」

バッターボックスにハイマンが向かうのを見ていれば Reynoldsがそう言って笑った。

「すみません、思わず」
「ポーカーフェイスの颯音の見る影もない」
「嬉しいんですよ。鳴さんが、こっちの人たちの目に留まるのが」

君が夢中になるくらいだ、と彼は言ってマウンドに立つ鳴さんを見た。

「きっと、魅了していくんじゃないかな。彼らを」
「はい」

2人をきっちりと抑えた鳴さんの目に気迫が宿る。
コンラッドを見てあてられたのだろう。
そして、あてられるのはこちらも同じこと。
自然と浮かぶチームメイトの笑顔。
強い相手を前にするとワクワクするのは、皆変わらない。
次は何をしてくる?
どんなボールを投げてくる?
彼をどうやって打ち取る?
そんなことを考える瞬間が、楽しいのだろう。

4番のカーライルも、初回では打てないだろう。
勿論彼を甘く見ているわけではないが、相手が相手だ。
となれば俺に打席が回るのは次の回。
俺には何を投げてくるだろうか。
乾さんは何を、選択してくるだろうか。

そんなことを考えていれば、鈍い嫌な音が耳に届いた。
カーライルが振り抜いたバット。
そして、前屈みに両手を付く乾さん。
状況が理解出来ていないのか、心配そうに乾さんに声をかけるカーライルの胸に 立ち上がった乾さんはボールを当てた。
自分の足で立ち、歩き出す彼に鳴さんが駆け寄る。
そして、彼は1度こちらを振り返った。

「…颯音、」

心配そうにReynoldsが俺の名を呼んだ。

「平気ですよ」

Reynoldsにそう答えて、片手を軽く上げる。
鳴さんはこくりと頷いて 乾さんの方に視線を戻した。

「…無理は、させたくない。君は、借りてきた選手だ」
「大丈夫です」

頭に当たった。
それでも立ち上がった。
どこか、白河さんのあれを思い出す。
震えそうになる手を、握り締めて 1度大きく息を吐いた。

「あの人の前に立つために、来たのに。目の前で易々と投げ出す訳には行かないでしょう?」
「…相変わらず、言うことを聞かない子だ」
「今に始まったことじゃないですよ」

すまない、と戻ってきたカーライルに大丈夫と声をかける。

「悪意はなかったはずだ。お互いに、真剣勝負だったから 起こったこと。…試合が終わったら、一応一緒に謝りに行こう」
「OK…」





大事をとって、乾はベンチに下がることになった。
勿論代わりは一也だ。

「仕方ないよね、他にキャッチャーいないから…」
「マジ?…颯音返して貰えば?」
「流石に無理でしょ」

まぁ、こうなることがないとは限らないって最初からわかってたし。
一応対策はしてきたけど、まさか本当にそうなるとはなぁ。

「…一也」
「ん?」
「こうなったからには隠しごと無しな…。バッテリー間で牽制しながら打ち取れる相手じゃないし。結構ヤバイ打者揃ってるよ」

次の回、確実に颯音にも回る。
颯音がわざわざ敵になることを選んだ。
真っ向から俺の挑発に乗った。
それに応えなければ、いけない。
彼のエースとして。

「じゃあ俺のサインに首振るなよ」
「振らなくて済むリードしてくれたらね」
「振らさねーよ」

さっきの事故。
颯音は大丈夫だと俺に伝えてきた。
心配はあるけど、Alfredさんも傍にいるし俺より知っているはずの彼が止めないのなら大丈夫なのだろう。

「さてさて…お前にウチの王様がコントロールできるかな?」
「打たれたら全部お前のせい。試合に負けてもお前のせい。全部、お前」
「得点は俺らが取る。お前はリードに専念しろ」

苦笑を浮かべる一也に声をかける。

「捕手だったらさ、投手を輝かせてよ」

一也がこんにゃろ、って顔をしたけど笑みを浮かべた。

眩い光でなくちゃいけない。
俺は、圧倒的な光でなくちゃいけない。

「お前の闇も、過去も、照らしてやれるように…お前が道に迷っても 見つけられるような…光でなくちゃいけない」

ネクストに彼の姿がある。
いつもの優しい目じゃない。
鋭い眼光は俺を居抜き、そして挑発するように笑みを浮かべた。
そんな彼を指差し、同じように笑ってやる。

「これだからうちのエースは」

隣にいたカルロがそう呟いた。

「うるさい」
「別に今に始まったことでも無い」
「大好きだからなぁ、颯音のこと」

うるさいな!とカルロ達を散らす。

知ってるよ、俺だって。
頭の中、野球かお前の事ばっかりなんだってことくらい。
けど、しゃーねぇじゃん。
自分でどうにもできないくらい、お前のことが知りたいんだ。
玖城颯音を、Joker'sのエース Hayatoを。





先頭打者をストレートだけで抑え、迎えた2番手。
鳴の顔に、微かに笑みが浮かぶ。

「玖城くん、どんな気分?俺と鳴のバッテリー」

いつもの軽口をたたけば 思ったより鋭い目が俺を見た。
普段も比較的嫌悪的な物を向けられているが、それとは色が違う。
直感的にやばい、と思った。

こんな奴だっけ、玖城くんって。
なんかこう、俺にイラついたり敵意を見せることはあったけど。
こう、なんて言うか…これは、違う。
バッターボックスに立つその姿さえも、別人のように見えてしまう。

何を投げればいい?
何を選べば、打ち取れる。
浮かべる笑みを隠しもしない鳴は 早くしろよと俺を急かした気がした。
向かい合った2人が、目だけで会話しているような気さえする。
去年はこうじゃなかったはずなのに。
いつからこの2人はこんな風に変わったんだろう。

出したサインに、鳴は首を振らなかった。
俺よりも鳴の球を知り尽くす彼を、小手先だけのリードで打ち取れるとは思えない。
意表をつけるかと思ったのに、初球のチェンジアップを彼は軽々とすくい上げた。
一歩間違えたらホームランって打球はギリギリ、ファールグラウンドに吸い込まれる。

「鳴さんでも、御幸さんでも 最初はチェンジアップだと思ってましたよ」

1度バッターボックスから出て、玖城は軽く肩を回した。

「何で?」
「俺と戦ってるから」

俺を見下ろす男は、笑みを浮かべた。
それだけで背筋が震えた。

「鳴さんのチームメイト。貴方より、鳴さんのボールを知ってる。ストレートの投げ分けだけで、打ち取れるとは思えない」
「ははっ、お前そんなキャラだっけ?」

知りませんでした?と彼は首を傾げる。

「ねぇ、次はどうします?また変化球?それとも、俺のその読みの裏をかいてストレート?」
「さぁ、どうかな?」

彼は俺から視線を外し、バッターボックスに入る。

「アンタのせいだよ、御幸さん」
「え?」
「樹がリードしてれば、いや 俺がリードしてても。俺なんかに打たせはしなかった」

出したサインに鳴はやはり首を振りはしなかった。
けど、なんだか嫌な予感がする。
コース、球速 共に文句ない球だった。
だったはずなのに、そのボールは青空に吸い込まれていく。

「この失点はアンタのせいだよ」

白河みたいなことを言いやがる。
フェンスを越えたボールを見送った鳴は悔しそうにこちらを見た。
玖城は悠々とベースを回る。

2球目も読まれてた。
しかも2打席連続HR。
上手い選手だとは思ってた。
けど、これはあまりにも俺の予想を超えてる。

「…あんなに厄介な奴だなんて…聞いてねぇぞ…」




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