12月23日
合宿3日目

俺の携帯にはチームメイトからHappy birthdayとメールが届いていた。
律儀なもんだな、と彼らのメッセージを読みながら彼らは彼らで、トレーニング期間で追い込んでいることを知る。
毎年この日の夜から次の日の朝にかけて 誕生日兼クリスマスパーティーをしていたのを思い出して 少しだけ寂しさを感じた。
俺が誕生日なのに自分でケーキを作って、パーティー料理を作って。

「まぁけど 今年は、そう考えると平和だな」

起床時刻よりも少し早く起きてしまった俺は1人グラウンドに向かう。
マウンドに上がって大きく深呼吸をして空を仰ぐ。
そこから見上げた空は真っ青で、空気は冬特有の冷たさを含んでいた。

「なーにしてんの?」
「あれ…?おはようございます」
「おはよ」


眠たそうに目をこする鳴さんは、大きな欠伸をこぼす。

「早いですね、起きるの」
「疲れてんのに目、覚めちゃってさ〜。散歩しよーって思ったらお前がいたから」
「昨日あんなに眠そうだったのに」

疲れは全然抜けてねーよって 彼は肩をぐるぐる回しながら言った。

「まぁ、得した気分だよね。早起きってさ」
「そーですね」

今日は気持ちよく投げれそうな気がすると 彼は笑う。

「ねぇ、キャッチボールしようよ」
「今ですか?」
「そう!なんかねー、そんな気分」

彼がやり始めたのは本当に穏やかなキャッチボールだった。
肩を作るためでもなく、ただボールに触れてる。
そんな感じ。

「で?お前は?なんでこんな時間に起きてんの」
「今日は特別な日なので」
「ふーん」

自分で聞いといて、興味なさそうな返事。

「いい日になりそー?」
「なると、いいですね」
「朝から俺と話せてるんだし、いい日だろ」

自信満々に彼は笑う。
その笑顔に、どこか救われた気がした。
中身のない会話なのに、凄く心地良い。

「俺さー」
「なんですか?」
「お前と野球すんの、結構楽しいよ」

急にどうしたんですかって言えば、気分いいからねって彼が自らの手の中にあるボールに視線を落とす。
深呼吸を一つして、顔を上げた彼は今まで見たことないような穏やかな笑みを浮かべてボールを投げた。

「お前のこと、好きだよ。俺」
「え?」

グローブにボールが当たって、地面に落ちる。

「何落としてんの。素人じゃないんだからさ!」
「すいません。いや、けど」
「なーに?」

拾いあげたボールを彼に投げれば こちらの気も知らずに彼は楽しそうに笑っていた。

「お前でもそんな顔すんだね〜」
「どんな顔ですか」
「目まんまるにさせてんの。初めて見た」

今の顔はもう忘れないね、って彼は悪戯が成功した子供みたいで。
ずっと 嫌い嫌いって言っていたのに どういう風の吹き回しなんだろうか。
どういう意味で言ってるんだろうか。

「さーて、と。そろそろみんな起きてくるよね?」
「そう、ですね。」
「お前といるの見られるとうるさいから部屋もーどろ」

二度寝しないでくださいね、と言えば大丈夫大丈夫と、彼はグラウンドから出て行く。

「おかしなこともあるな…」

残された俺と手のひらの真っ白なボール。
今日は特別な日。
良い日に、なればよかったのにね。

「…大丈夫。俺は、忘れてないよ」

握りしめたボールをドックタグの揺れる胸に押し当てて目を瞑る。

「大丈夫。忘れるはずない。」

たとえ どんなに幸せな場所でも。
たとえ どんなにここでの野球が楽しくても。

「忘れないよ」

俺が壊してしまった沢山の過去を。
俺が犯した罪を。

ゆっくり目を開いて、息を吐き出す。

「俺は、一生…許されない」





「颯音は、大丈夫かな」

俺とkevinしかいない部屋。
ポツリと彼は呟いた。

「どーだろうな」
「Leoは心配じゃないの?」
「心配っちゃ、心配だけど」

誕生日はどうにもできねぇだろって言えば彼は俯いた。

「そーだね。誕生日だけは、助けられない」
「まぁ、仕方ねぇんだよ。あいつにとっては。誕生日を迎えられたってことは 一年生き延びたってこと。一年生き延びたってことは それだけ 誰かを蹴落として、傷つけてきたってこと」
「うん」

今はもう、そうでないとしても。

「あいつにとっては 誕生日が懺悔の日なんだよ」
「いつになったら、忘れられるのかな。あの頃のこと」
「あいつは無理なんじゃねぇか?」

Kevinだってわかってる。

「あいつの罪は 重い」

言葉にすればまた 重くのしかかる。
自分のことではないのに、重く 重く のしかかる彼の過去。

「あいつがすべての原因でなくても。一因であることは間違いない」
「そうだね」
「あいつは、一生背負ってくんだよ。あの日のことを、沢山の過去を」

Joker'sを作ったメンバーである俺とKevinと颯音だけが知る過去。
それは 彼が笑っている間も野球をしている間も ずっとずっとずっとあいつに付き纏う。

「成宮鳴なら 颯音を救えるかな?」
「あいつのエースか?」
「うん」

俺は立ち上がって、彼の机に飾られた 幼少期3人の写真に手を伸ばす。

「無理だろ」

写真の中の彼はそっぽを向いて、その目に光はない。

「平和な国で生きてきたやつに 颯音は救えない」








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