宣戦布告
スタートから数秒の間。
「悪いな、血郷」
会場ごと凍らせるような大きな氷を出した。
少しよろけた体。
だが、これで終わりだ。
冷気が 消え 氷漬けにされた血郷の姿が視界に入る。
「毎回毎回、こればっかり」
「は?」
血郷の体の周りの氷がカタカタと揺れ始める。
「怪我をする気はないよ。怒られちゃうから。けど、これで終わるわけないでしょ?」
氷に亀裂が入り、そして 彼の体が動く。
「なんで…」
「最初の攻撃がわかってるなら、そりゃ仕込むでしょ」
服の隙間から出てきた赤黒い液体。
「体と氷の間に隙間があれば、あとは どうとでもなる」
「クソッ」
再度固めようと、氷を出して行くが それよりも早いスピードで血が 彼を覆う。
▽
出来レースだ、と血郷は言った。
だが、いつも通りの笑顔なのに すごく悔しそうに見えた。
大きな氷から逃れた血郷は轟の氷を血で防ぎながら彼を追い詰めていく。
「血郷、」
凄い量の血だ。
彼が操る血液はまるで、一匹の生き物のように 血郷を守っている。
半分が氷で埋まったフィールド。
大きな氷の柱を背に轟が足を止めた。
「邪魔じゃない?その氷。溶かしたら?ついでに、炎で攻撃する?」
「しない。何度も同じことを、言わせるな」
「頑なだね」
まぁ、なんだっていいけどと 血郷の血が 沢山のクナイに姿を変えて 轟の方へ向けられる。
「大丈夫?顔色悪いけど」
クスクスと、彼は笑った。
「寒いの?体も、震えてる」
「うるさい、黙れ」
「いつもの余裕はどうしたの。焦凍」
話していても、血のコントロールが乱れない。
すごい集中力だと思う。
「まぁ、こっからは。俺の番ってことで。防いでもいいよ?出せるならね」
クナイが一斉に轟の方へ飛ばされる。
氷の壁がそれを防ぐたびに、クナイが水のように飛び散っていく。
それを見つめる血郷の目は、今まで見たことのないような ものだった。
「はい、残念」
血郷がそう言って笑って、指をパチンと鳴らす。
その瞬間 どこからともなく現れた血が 手足を氷の柱に拘束し 攻撃を防ぐ為だろう。
血が彼の両腕を覆い隠した。
「どうやって!?」
『おっと!轟の動きを止めたぞ!血郷!!』
「誰もこれしか扱えないなんて、言ってないでしょ」
彼の手のひらの上でふわふわとしている血の塊。
それをぎゅっと握りしめれば、弾けた血が消えていく。
「目に見えないだけだよ。この会場中、焦凍の体内まで。微細な俺の血が充満してる」
「っ!?」
「苦しいでしょ?」
轟が苦しそうに顔をしかめた。
『何が起きてるんだ、こりゃぁ!!!』
スキップでもするように、血郷は 轟に歩み寄る。
▽
彼を追いかけ回しながら 目に見えないくらい小さくした血液を会場中に 充満させた。
そして、クナイの弾けた雫で 彼の周りに質量を増やした。
拘束しながらも、充満させた血液で少しずつ圧を加えながら彼に歩み寄る。
「息をするだけで 焦凍の体は俺に奪われていく。今、体内から血液を外へ 出そうとしたら 体は穴だらけ。きっと死んじゃうだろうね」
「っふ、ざける!な!」
彼の目の前で、足を止めて彼の首に触れるか触れないかの所で 手を止める。
『勝負あったかぁ!?!?』
そんな、俺を煽るような言葉が放送席から聞こえた。
「なんてね。ここで、降参します」
「「『…は?』」」
「だから、降参」
両手を上げてひらひらと振った。
拘束が解けた焦凍が地面に膝をついた。
『し、勝者 轟!!なんで、ここまで追い詰めたのに降参すんだ!?負けたのは 蛟ー!』
なんで、と俺を見上げる彼に 俺は笑って 彼の耳元に口を寄せる。
「勝つなって命令だよ。焦凍の憎っくきお父様からのね」
見開かれた彼の目。
負けたのは悔しいが、満足していた。
「ただで負けるのもなんか違うし、遊ばせてもらった」
「なんで!!?」
「なんで?そんなの、決まってるじゃん」
彼の火傷した方がの頬に手を添えて、笑顔の仮面を取り外す。
「テメェの言う通り動くと思うなよ っつー戦線布告だ」
拍手とブーイングを受けながら俺は控え室に向かう通路に入る。
「血郷、」
俺を待っていた人使が 何も言わずに俺の頭を撫でた。
「なぁに?」
「カッコよかった」
「負けたよ」
それでも。
カッコよかったと彼は答えた。
「あの試合、誰も。お前が負けたなんて思ってない。だからこそのブーイングだ」
「そうだといいね」
「血郷、」
じわりと手のひらに伝った血液が 地面に落ちて ふつふつと泡立って 消える。
「ちょっと、お説教されてくるよ」
「え?」
「待っててくれて、ありがとう。体育祭終わったら、会いにいくよ」
彼と別れて通路の奥。
階段を登ればやはり彼がいた。
怒っているのだろうか、炎は大きく揺らめく。
「どういうつもりだ、血郷」
「どういうもなにも。負けてあげたじゃないですか。こんな大舞台で」
キッと俺を睨みつけた彼に俺は微笑む。
「貴方に感謝はしてますよ。身寄りのない俺に衣食住を提供してくれて、学校にまで 通わせてくれて」
「だったら、なぜ!!」
「なぜって。エンデヴァーさん、わからないんですか?」
大嫌いな貴方に、わざわざ立ち向かおうとも思ったことがなかった。
焦凍みたいに反抗期拗らせてる方が関わりが多くなるし。
素直に従順でいれば 彼との会話はYesだけで 終わるのだ。
だが、それももうお終い。
欲しくなったんだ、自分を。
自分を全うする 人使を見たから。
「アンタなんかに 制御できると思っていたの?」
口に手を当てて、クスクスと笑う。
耳障りなのだろう、彼は眉を寄せた。
「支援を打ち切りたければどーぞ。アンタの願いの通り、焦凍のサイキックになるつもりもないし、アンタの駒になる気もない」
彼は なにが面白いのか、高笑いをして俺を見た。
「生意気な、クソガキだ。そんなことをして、ヒーローになれると思っているのか!?」
「別に、ヒーローになるのにあんたの許可はいらない。時代は移ろうんだよ」
オールマイトが終焉を迎えるように、貴方にも 終焉が近づいている。
「邪魔をしたいならしてもらっても大いに結構。まず根本として、ヒーローに、なりたいなんて1ミリも思ってない」
「なんだと?!」
「それが 世間一般の "人"だと 言うから それに習っているだけだ」
これだから、お前はと彼は言って背を向けた。
「アレもお前も、反抗期を拗らせておって」
「はっ反抗期なんて、可愛いものだと思うなよ」
彼の首に突きつけた赤いナイフ。
「恩を仇で返すか、」
「恩」
クスクスと笑って、血を瓶に戻す。
「何も知らない奴はお気楽でいいねぇ」
「どういう意味だ…!?」
「俺を救い出したと信じて疑わない。世に出しちゃいけない化け物を、解き放っただけかもよ?」
彼に微笑みながら、瓶をポーチに戻した。
「じゃあ、お疲れさまです。エンデヴァーさん」
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