職場体験

職場体験当日。

「コスチューム持ったな?本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」
「はーい!」
「はいを伸ばすな、芦戸。くれぐれも失礼のないように!じゃあ行け!」

楽しみだなぁ、とか会話が聞こえる中、先生が俺を呼んだ。
交わった視線。
彼が何を考えているのか、わからない。

「…先生?」
「何か、見つかるといいな」

言葉に 色々と飲み込んだ気がする。

「はい」
「それから、最近顔色が良くないから。くれぐれも、無理はするなよ」

包帯の取れた彼の手が俺の頭をぽんぽんと撫でた。

「変なの。」
「さっさと行け。轟もう行ったぞ」
「止めたのは、先生ですよ。」

焦凍の後を追いかければ、「本当にどうしようもなくなったら言ってね。友達だろ」と緑谷の声。
「ああ」と答えた飯田に俺は足を止めた。

体育祭の後。
ニュースで流れたヒーロー殺しの事件。
過去17名ものヒーローが亡くなり、23名ものヒーローが再起不能になった。
飯田の兄も それの被害者だ。

「血郷。電車出るぞ」
「あぁ、ごめん」

あの顔は、ダメだな。
焦凍の隣に並べば どうかしたのかと首を傾げる。

「良くないものが、見えただけ」
「…おばけとか?」
「そんなん、信じてんの?」

何をバカなことを。

「もっと怖いものだよ」
「なんだ、それ」

あれは。
恨みや憎しみの類い。
そして、それらは積もれば積もるほど 些細な火種で大きく燃え上がる。
惨劇という、炎が。

「あーいうタイプだと、よく燃えそうだな」
「なんの話をしてるんだ、お前は」
「大きな火の手があがるよ、」

あの日みたいにね。





「本当に よかったのか?」

電車に乗り込んで、隣に座る彼にそう声をかける。

「なにが?」
「あいつのところで」
「別に、どこでもよかったし」

彼はそう言って、右腕を摩る。
時々見せる、彼の癖だ。
それをやるときは、彼はあまり調子が良くない。

イライラしていたり、体調が悪かったり。
思えば、ここのところ彼の顔色は良くない。

「…本当に大丈夫か?」
「なにをそんなに心配してるの」
「顔色も、良くないし」

それさっき相澤先生にも言われたよ、と彼は笑った。

「…じゃあ、着くまで寝ててもいい?」
「あぁ」

血郷は俺の肩にもたれかかって、目を閉じる。

「堅いなー」

右側に持たれた彼はそう言って笑った。
少ししてすぐに聞こえて寝息。
彼の顔を覗き込めば、目の下には薄っすらだが クマがあった。

寝不足か。
貧血か。

彼は、家を出てから どんな生活をしているんだろうか。
居候として家にいた間も、彼の部屋に 物が増えることはなかった。
この間行った彼の家も 必要最低限のものすら なかった。
ご飯もまともに食べているかどうか、定かではない。

目的の駅に着いて、彼の肩を叩く。

「起きろ、着いたぞ」
「あぁ…」

立ち上がった彼は少しよろけて、自分の額に手を当てる。

「本当に大丈夫か?」
「立ちくらみしただけ、」

事務所の前に着いて、彼は少し表情を曇らせた。
ドアを開け、挨拶をしようとすれば仁王立ちして立つ男。
顔を上げずとも、誰かなんてわかる。

「よく来たな」
「……1週間 お世話になります」
「よろしくお願いします」

血郷も同じように頭を下げ、顔を上げれだ 満足そうに彼は笑っていた。

「血郷、お前も来るとはな」
「…万年No.2の仕事ぶりを拝見させていただこうかと思いまして」

若干皮肉を含めて言って、血郷は笑った。

「っ…相変わらずだな、お前は」

クソ親父は一度大きく息を吐き出して、俺たちにすぐに着替えて来るように指示をだした。

「ここまで来てもらって悪いが、すぐに移動する」

お前、いつもあんななのか?と着替えながら血郷に問えば 強ち間違いはないと答える。

「移動って、どこにするんだろうな」
「捜査協力とかか?」

着替えて戻れば 指示を出す声が聞こえた。

「前例通りなら保須に再びヒーロー殺しが現れる。しばし保須に出張し、活動する!市に連絡しろぉ!!」

親父はこちらを振り返り お前らも同行しろと 一言。

どんだけクズでもNo.2と言われるだけの判断力と行動力がある。
事務所の中じゃ、慕われてもいるようだし。
たしかに今まで見てこなかった姿だ。
ヒーローとしての彼を見るのは 初めてな気がした。





職場体験を行う1週間の間。
俺たちは、事務所の近くで寝泊まりをすることになっていたが 保須への出張の結果 俺たちが寝泊まりするのも保須へと変更された。
もちろん、焦凍と同じ部屋に割り振られた俺は 一日目を終えてすぐにベッドに倒れこんだ。

なんというか。
体が、思うように動かない。
いつからか、と思い出すが 体育祭の後からな気がする。

「おい、寝るな。飯食って、風呂入れ」
「飯は、いいや」
「食べなきゃ、回復するものもしないぞ」

彼の言わんとすることはわかるが。
ポケットの中のタブレットを何個か口の中に放り込み、目を閉じる。

「お前まさか。そんなもんで、食事済ませてるのか!?」

奪い取られた手の中のタブレットが入ったケース。

「…中身は」
「鉄分サプリメント」
「どれだけ鉄分をとっても、他の栄養素を取らなきゃ 意味ないのわかってるよな?」

わかってるわかってる、と適当に答えて 体を起こす。

「ルームサービスで頼めって言ってたから、なんか頼むぞ」

差し出されたメニューをめくりながら、欠伸をこぼす。

「…ご飯とお味噌汁」
「おかずは」
「……ほうれん草のおひたし…あと、冷やしトマト…」

他は、というか彼に首を横に振る。
彼は冷たい蕎麦を頼んで、部屋に届いたご飯。

久々にお米食べた気がするな。

「なんか、他に思い当たる原因はないのか?」
「他。体育祭の後に 結構血 抜いたってくらいかなぁ…」
「今まで、ちゃんと考えて抜いてたよな?」

暇だったせいで、血液と毒素の調合をしてて。
それで いつも以上に使った。
なんて、言ったら怒るんだろうな。

「体育祭前に 抜いてなかったから いいかなって」
「やりすぎれば、死ぬんだ。ちゃんと、考えろ」

わかってるよ、と答えて 口の中にご飯を押し込む。

「あんまり無理をするなよ」
「大丈夫大丈夫。上手くやるよ」

あとはエンデヴァーの近くにいるから。
そして、今日の飯田の表情だ。
あの日の炎がチラつく。
それのせいか、体の中の血が沸騰してるみたいだ。
気を抜いたら 薄っぺらい皮膚を突き破って出て来そうだった。

「キツかったら休むんだぞ。無理に動いて、迷惑をかけるより ずっといい」
「わかってるよ」


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