ヒーロー殺し
「焦凍、血郷!事件だ、ついてこい!」
大きな事件もなく、過ごせていたのに。
世の中、そんなに甘くはいかないのだな。
「ヒーローというものを見せてやる!!」
急に張り切りだすエンデヴァーを追いながら、ポケットの中の携帯が 焦凍と同時に鳴った。
「携帯じゃない!俺を見ろ!!」
エンデヴァーの言葉なんて無視して焦凍が足を止めこちらを見た。
「緑谷からだ。一斉送信で、位置情報…」
「位置情報?」
「間違い?な、わけはないな。アイツなら」
俺も足を止めて、笑う。
「火の手があがったんだ」
「え?」
「そこで、何か起きてる」
焦凍も疑惑が確信になったようだった。
「どこ行くんだ焦凍ォ!!」
「江向通り4-2-10の細道。そっちが済むか、手の空いたプロがいたら応援を頼む。お前ならすぐ解決出来んだろ。友だちがピンチかもしれねぇ。」
走り出した焦凍の後を追いかけようとしたが、横の道から現れた脳無とそれを追いかける戦闘服の老人。
「血郷!」
「わかってるよ!!」
巻き込まれそうな一般人を血で覆い、エンデヴァーの炎が脳無を燃やした。
「ヒーロー殺しを狙っていたんだが…タイミングの悪い奴だ。存じ上げませんがそこのご老人。俺に任せておけ」
なんでここに、という 一般人にヒーローだからさ とエンデヴァーが答えた。
「逃げ遅れた人を避難させろ」
「焦凍は?」
「その後に…追いかけろ」
エンデヴァーと視線が交わる。
「お前なら、できるだろ」
「俺をなんだと思ってんの?」
ありったけの血を戦闘区域にミスト状に広げる。
一般人は、全部で5人か。
避難が進んでいて、助かった。
血の繭に人を包み、避難指示をしているヒーローのところへ移動させる。
全員を、安全に避難させて 俺は走り出した。
「…焦凍のサポートを、任せた。すぐに、向かう!!」
「あぁ」
携帯の送られてきた位置情報を頼りに、建物の上を飛び移りながら 最短経路で向かう。
そして、着いた時に1番に見えた景色に 体は勝手に動いていた。
「血郷!?」
「気ィ抜いてんじゃねぇよ」
彼を庇い、脇腹を切り裂いた刀。
怪我はバレると面倒なことになる。
血が飛び散らないよう操って、脇腹を抑えた。
彼の頬にも、切り傷が見受けられる。
そして地面に倒れた 緑谷、飯田、そして 知らないヒーロー。
「今日は、邪魔ばっかりだ」
あれが恐らくヒーロー殺し。
「あいつは血を経口摂取して、体の自由を奪う個性だ」
「なるほどね。後ろの人たちの怪我は?」
「確認する余裕がない」
経口摂取するなら、咄嗟に傷口の血を操ったのは正解だった。
そうしなかったら、お荷物が1つ増えただけだった。
「怪我人の対応に入る」
「悪いが、1人でどうにかできるレベルじゃない」
「戦闘のフォローはする。突っ込め」
お前に全て合わせる、と言えば 焦凍が笑った。
「信じるぞ」
「あぁ」
▽
轟くんが戦闘を続ける中、蛟くんがこちらに駆け寄ってくる。
「緑谷、怪我は?」
「僕は、大丈夫。それよりも、2人が」
僕と会話をしながらも、彼の血は轟くんを攻撃から守っていた。
怪我が酷いのは飯田だな、と呟き 飯田くんのそばにしゃがみこむ。
「出血は、右腕と左の肩か」
コスチュームを破いた蛟くんが飯田くんの傷口を確認する触れて、そして 指を舐めた。
「僕は…大丈夫だから、」
「黙れ。恨みや憎しみで燃やした炎は、お前を飲み込むぞ」
そして、傷口に手を当てればみるみるうちに、傷口が瘡蓋になっていく。
蛟くんに、そんな個性があったなんて。
しかも、それをしながらも 轟くんを守る血は動きを緩めることはない。
「お前みたいなタイプは、惨劇を生き残れない」
「喋ってないで!早くしろ血郷!」
「わがまま言うな」
せめて僕が動けるようになれば、2人が楽になるのに。
無理矢理でも体を動かそうと力を振り絞った時わずかに動いた手。
そのタイミングで、蛟くんもこちらを見た。
僕が動いたのに、気づいた?
「己より素早い相手に対し自ら視界を遮る……愚策だ」
割られた氷壁。
「そりゃどうかな」
そして、轟くんの腕に刺さった二本のナイフ。
「上だ!!」
「お前も良い…」
動いた!!
蛟くんの声で咄嗟に動いた体。
ヒーロー殺しを掴み壁にぶつける。
「緑谷!」
「なんか普通に動けるようになった!」
「時間制限か」
僕が1番最後だ、と伝えた瞬間脇腹に肘を入れられ、空中から落下する。
地面に落ちた僕を轟くんの氷が庇い、彼の隣まで戻る。
「血を摂り入れて動きを奪う。僕だけ先に解けたってことは、考えられるのは3パターン。人数が多くなるほど効果が薄くなるか摂取量か…血液型によって効果に差異が生じるか…」
「飯田はA このヒーローはB、緑谷はOだ」
後ろから蛟くんの声。
なんで、僕らの血液型を…?
「血液型…ハァ正解だ」
ヒーロー殺しがそう答えた。
「わかったところでどうにもなんないけど…」
「さっさと二人担いで撤退してぇとこだが…氷も炎も避けられる程の反応速度だ。血郷のこれがなきゃ、追いつかねぇし」
蛟くんの血で2人だけでも、と考えたが。
それをすれば確実に僕らが厳しくなり、全滅する可能性がある。
「プロが来るまで近接を避けつつ粘るのが最善だと思う」
「轟くんは血を流しすぎてる。僕が奴の気を引きつけるから後方支援を!」
「相当危ねぇ橋だが…そだな。…守るぞ」
轟くんが少しだけ、視線を蛟くんに向けた。
今はヒーローの手当てに回ってるところを見ると、戦闘に戻るまではあと少し。
「血郷!わかってんだろうな!」
「うるさい。今日は一段と あいつに似てんじゃん」
ゆらりと、蛟くんの血が動く。
この2人、なんだか一緒に戦い慣れてる気する。
轟くんの炎を避けながらヒーロー殺しに接近すれば、姿勢を低くした彼の攻撃で 足首が切れる。
「止めてくれ…もう……僕は…」
「やめて欲しけりゃ立て!!」
「ごめんっ轟くん…!」
体が傾く。
そして、轟くんに迫るヒーロー殺し。
「なりてぇもんちゃんと見ろ!!」
氷と血の壁が轟くんを守る。
そして、接近してきたところで炎へ切り替え。
だが、それも 避けられる。
「氷に炎。言われたことはないか?個性にかまけて挙動が大雑把だと」
「化けモンが…っ!」
轟くんの体に迫る刃。
瞬きの隙もない。
蛟くんの血が彼を庇い、轟くんを後ろへ吹き飛ばした。
「レシプロ…バースト!!」
そして、飯田くんの蹴りが 刀を折った。
「飯田くん!」
「解けたか。意外と大したことねぇ個性だな」
後ろに吹き飛んだ轟くんを 蛟くんが受け止める。
「ぼろぼろのくせに、よく言うよ」
「お前が遅いんだ」
「轟くんも緑谷くんも蛟くんも。関係ない事で…申し訳ない…」
また、そんな事を。
関係ないなんて、あまりにも 悲しすぎる。
「だからもう、みんなにはこれ以上血を流させるわけにはいかない」
▽
「傷、塞ぐぞ」
抱きとめた焦凍の傷に触れ、バレないように血を舐める。
ナイフを抜いたせいで、出血が酷い。
傷を塞いである間向けられる焦凍の視線に気づかぬふりをして、治すのに集中した。
隠してたが後で問い詰められるのは 確実だな。
「感化され取り繕おうとも無駄だ。人間の本質なそう易々と変わらない。お前は私欲を優先させる贋物にしかならない!ヒーローを歪ませる社会のガンだ。誰かが正さねば」
「時代錯誤の原理主義だ。飯田、人殺しの理屈に耳を貸すな」
「いや、言う通りさ。僕にヒーローを名乗る資格など…ない。それでも…折れるわけにはいかない…俺がれれば インゲニウムは死んでしまう」
論外、と彼は言った。
表情は見えないが、その目は 真っ直ぐだ。
炎と血で攻撃をすれば応戦するより逃げた方がいい、とヒーローが叫ぶ。
「そんな隙…与えられそうにもないですよ」
「さっきから明らかに様相が変わった。奴も焦ってる」
あの目は、怖いまでの 執着だ。
俺1人残って、全員を繭で外へ逃がすか?
そんなことをすれば、俺は丸腰になるが。
最悪、全員死ぬよりは…
「轟くん!温度の調整は可能なのか!?」
「左はまだ慣れねぇ!なんでだ!?」
「俺の脚を凍らせてくれ!排気筒は塞がずにな!」
邪魔だ、と投げられたナイフを血で庇う。
「喋ってる暇なんてないだろ!策があんなら、やれ!!」
俺が叫ぶように言えば、焦凍が飯田の脚の機械を凍らせ、緑谷が跳躍する。
「行け、」
「お前を倒そう!今度は犯罪者として!」
「たたみかけろ!」
もう一発入った、飯田の蹴り。
チャンスは、今しかない。
言葉はなくても、わかった、
血で彼を捕まえて、焦凍の氷が落ちてくる 2人を受け止めた。
「血郷!?」
「もう、大丈夫」
血で拘束したヒーロー殺しをゆっくり、地面に下ろす。
「意識はないよ」
「…じゃあ、拘束して通りに出よう」
←|→
戻る