個性把握テスト

教室に入ってきた寝袋に包まれた先生はさっき 猫を引き取ってくれた 消太と呼ばれていた人だった。
俺の担任だったから、クラスまで把握していたのか。

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

そんな簡単な自己紹介をして、寝袋から体操服を取り出した。

「早速だがこれを着てグラウンドに出ろ」

グラウンド?
入学式とか、ないのかな。
まぁ、長々と人の話を聞くのは好きじゃないし、いいや。

1人ずつ体操服を受け取っていき、列の最後の俺がそれを受け取る。

「帰り職員室に来い」

受け取りながら言われたその言葉に首を傾げつつ、わかりましたと答えれば彼は満足したのかスタスタと俺の前を歩いて行ってしまった。
他の人たちに遅れないよう更衣室で着替えてから、グラウンドへ出る。

「これから個性把握テストを行う」
「入学式は!?ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側も然り」

先生の言葉に生徒は少し困惑しているように見えた。

「中学の頃からやってるだろ?個性禁止の体力テスト。国は未だに画一的な記録を取って平均を作り続けている。合理的じゃない。まぁ、文部科学省の怠慢だよ」

そう言われると 確かにそうだな。
個性を使っていない記録の平均なんて、意味があるのか?
個性があることが大前提とされているこの世間で。

「爆豪。中学の時ソフトボール投げ何mだった?」
「67m」
「じゃあ個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。思いっ切りな」

爆豪と呼ばれた人は「死ねぇ!!!」と物騒な言葉を叫びながらボールを投げた。

「まず、自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段だ」

ピピッと音がして先生がこちらに向けた端末には705.2mと表示された。

「なんだこれ!すげー面白そう!」
「705mってマジかよ」
「個性を思いっきり使えるんだ!さすがヒーロー科!」

わいわいと騒ぎ出した生徒たちに先生の顔色が変わる。

「面白そうか…。ヒーローになる為の三年間。そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

一瞬でその場の空気が変わった気かした。

「よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」

悲鳴にも似た声がグラウンドに広がる。

「生徒の如何は先生の自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」

かきあげた髪の隙間から見えた彼の目は 紅く染まっていた。
理不尽すぎる、と言う声にそういうピンチを覆していくのがヒーローだと彼は言った。

ピンチを覆していくのが ヒーロー か。

「Plus Ultra さ。全力で乗り越えて来い。さて、デモンストレーションは終わり。こっからが 本番だ」

この個性把握テストでは各種目ごとにそれぞれ向き不向きがある。
先生もそこはわかっているだろうから、成績の評価は各種目のトータル点か平均点から出すだろうな。

反復横飛び、上体起こし、長座体前屈あたりは俺の個性ではどうにも対応しきれないな。
他はある程度 思いつくけど。

「次、最後の3人。蛟 峰田 八百万」

八百万と呼ばれた女の子はスタートラインで何やら物を創り出していた。
なるほどな、そういうのもありなのか。
確かに個性の範囲内であれば、なんでも許されるみたいだし。

俺はポケットの中の瓶の蓋を開けた。
もっとたくさん持ってきておくべきだったけど、仕方ないな。
ポケットからふわふわと出てきた赤黒いもの。
それを見て なんだあれ、と生徒たちがざわついた。

「な、なんですの?それ」

八百万さんが目を瞬かせながら、宙に浮く赤黒いものを指差した。

「これ?血液だよ」
「血液!?」
「俺の個性。血液を操れるって、やつなんだよね」

瓶の中から出てきた血液をくるくると巻いて靴の裏にスプリングのようなものを作り、その場で確かめるように数回ジャンプをした。

初めてにしては、まぁまぁな出来かな。
血そのものにバネとしての能力を持たせることは出来ないけど、反発するタイミングに合わせて 血を操ればそれ相応の反発力が生まれた。
スタートの合図と共にバネの勢いで、半分近くまで進み そのままもう一度地面を蹴って ゴールラインを切った。

「4秒34」

ゴールに着いて聞こえた数字はまずまず、といったところだ。
その後の種目も順調にこなしていき 第五種目のボール投げ。
緑谷と呼ばれた生徒がボールを投げようとした時 先生の髪が逆立ち、目が赤く染まった。

あの緑谷って子。
今、間違いなく個性を使おうとしているように見えたけど。

「な…今確かに使おうって…」
「個性を消した」

先生はそう言って彼を睨んだ。

「つくづくあの入試は…合理性に欠くよ。お前のような奴も入学出来てしまう」
「消した…!!あのゴーグル…そうか…!視ただけで人の個性を抹消する個性。抹消ヒーロー イレイザーヘッド!」

イレイザーヘッド…?
知らないな。
まぁ、ヒーローの名前なんて 俺が知っているのはオールマイトくらいなものだけど。

「見たとこ…個性を制御できないんだろ?また行動不能になって誰かに救けてもらうつもりだったか?」
「そっそんなつもりじゃ…」
「どういうつもりでも周りはそうせざるをえなくなるって話だ。昔暑苦しいヒーローが大災害から一人で千人以上を救い出すという伝説を作った」

オールマイト がやったやつか。
あの災害で彼は脚光を浴びた。

「同じ蛮勇でも…お前は一人を救けて木偶の坊になるだけ。緑谷出久 お前の力じゃヒーローにはなれないよ」

先生の髪が元に戻り、彼が円の中に入る。
ブツブツと何かを呟く彼に俺は首を傾げる。
そして、投げたボールは今までの彼の記録を大きく覆すものだった。

「あの痛み…ほどじゃない!!先生……まだ…動けます」

彼が握りしめた指は赤黒く腫れている。
パワーが体のキャパを超えたのだろうか。
ほんのわずかに香る 他人の血の匂いに唇を舐める。

「どういうことだ!こは ワケを言え デク てめぇ!!」
「うわああ!!」

急に殴りかかろうとした爆豪を布が止めた。

「んだ この布 固っ…!」
「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ捕縛武器だ。ったく何度も個性を使わすなよ…俺はドライアイなんだ」

彼の個性で爆豪は大人しくなって何やら不思議な空気が流れる。

「時間がもったいない。次、準備しろ」

爆豪はここまで結構いい成績を残しているのに、彼の目は 苛立ちと どこか焦りを含んでいるような気がした。
その後は何事もなく全種目が終わり 結果発表の時間。

「んじゃパパッと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する」

自分の個性が生かせる範囲でしっかりとした記録は出せていたし。
うまくいけば真ん中くらいの成績にはなるはずだ。

「ちなみに除籍はウソな」
「え!?」
「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

そうだったんだ。
先生の目が嘘をついてるようには見えなかったし、本気で落とすつもりだったと 思っていた。

「これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類あるから目ぇ通しとけ」

結局 順位は11位。
順位としてはまずまずってところだな。


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