上手くやるよ

「失礼します」

放課後 先生に言われた通り職員室に行けば 朝の猫ボーイ来たぞとツンツン頭の人が相澤先生に声をかけた。

「よく忘れずに来たな」
「あ、はい」

先生についてこい、と言われ連れて行かれた先は校長室。
中には 見たことのない動物が洋服を着ていた。

「面倒見ていただいて、ありがとうございます」
「いやいや。いい子にしてたよ」

その動物は相澤先生と普通に会話を交わして 朝俺が抱えていたダンボールを彼に渡した。
ダンボールの中からは朝よりも力強い猫の鳴き声が聞こえる。

「元気になってる…」
「ただ腹が減ってただけだ」

お腹が空いていたのか。

「どうする?」
「え?どうする、とは…?」
「お前の家で飼うか?」

先生の言葉に俺は首を傾げた。

「俺がですか?」
「お前が拾ってきたんだから、そうだろ」
「へぇ…そうなんですね」

箱の中 ひょこひょこと動く小さな毛玉。
飼う…って どうやるんだろう。
猫は 何を食べて、何をしてあげるものなのか。

「…無理そうなら 里親になりたいってやついるから そいつに譲るけど」
「あ、はい。じゃあ、それで」
「いいのか?」

先生は少し驚いているような気がした。

「俺が持ってても 壊しちゃうと思うので」
「は?」
「あ、違うな。俺が 飼ってても 殺しちゃう と思うので」

にこりと笑って、彼によろしくお願いしますと頭を下げた。

「…わかった」
「ありがとうございます。それじゃあ、先生。さようなら」

廊下を歩きながら首を傾げる。

「生き物を拾うと 飼う って選択肢が生まれるんだ」

なるほどね。
じゃあ、飼えないなら 拾わない方がいいのかな?
けど、弱い者は守らなくちゃ。
ヒーローに、なるには。

「難しい、、」





「相澤先生」
「はい」
「彼は?」

校長先生が俺の横から廊下を覗き込む。

「1-Aの蛟 血郷です。救助P一位タイで入試を突破した」
「ふむ、、。彼が 蛟くんか…」

校長は部屋に入りながら、そうかそうかと一人頷いた。

「彼がどうかしましたか?」
「いやいや、ありがとう。ただの常識知らずなら、いいんだけどね」
「そう、ですね」

持つと飼う。
壊すと殺す。
物に対して使う言葉と生き物に対して使う言葉。
その区別が出来ないほど、彼の成績は悪くなかった気がするが…

猫はここに置いておいていいよ、という校長の言葉に甘えて ダンボールを部屋に置き 職員室に戻った。
クラス名簿を捲っていき、蛟のページで手を止める。

「お?朝の猫ボーイじゃん。どーかしたのか?」
「いや、、少しな」

蛟 血郷。
個性は血を操る 操血。
生まれは…?

「なんじゃこりゃ。空欄だらけじゃねぇか」
「そうだな」

生まれ年は書かれているが日付は不明。
生まれた土地も不明。

「……孤児院の生まれか」

彼のプロフィールの備考に書かれたのは孤児院の名前。
どうやらそこで幼少期を過ごしたようだ。

「アテネ育児院…」
「あれ、なんかそれ聞いたことねぇか?」
「そうか?」

なんだっけ、とマイクが首を傾げる。

「現住所は学校からそう遠くないな」

養子になっているなら 親権者の名前を記入する必要があるが なぜかそれもない。
というか、よくこれで入学 出来たな。
校長のさっきの感じをみると、彼は何か知っているのかもしれない。

まぁ、今のところ問題を起こした訳でもないし。
注意はしておいて損はないが、そこまできにする必要もないだろう。





解散の声がかかりすぐに 血郷は教室を出たはずだったが、下駄箱に彼の姿があった。

「蛟」
「あれ、どうしたの?焦凍」

学校では関わらない、とは言いつつも 何だかんだ彼から目を離せないのは今に始まったことではない。

「もう帰るのか」
「うん。特に用もないしね」

靴を手にした彼は少しの間それを見つめて、靴の先を手で払った。

「どうかしたのか?」
「いや、なんでもない。一緒に帰るの?」

隣に並んだ俺に疑問を持ったのか彼はそう言って首を傾げた。

「電車だろ?ただ方向が同じだけだ」
「なるほど。わかりやすくていいね」

隣に並ぶ彼を横目に見ればベルトに着いた黒いポーチが目に着いた。

「それ、」
「これ?血 入れてるやつ」

ボタンを開けて中を見せてくれたが、たしかに中には赤黒い液体の入った瓶が何個か入っていた。

「まだ自分で血を抜いてるのか」
「まぁね。そうでもしなくちゃ 個性を使う度に貧血でぶっ倒れちゃう」

一度だけ見たことがある。
彼の右腕は幾度となく繰り返される採血のせいで沢山の注射痕が残り、青紫色に変色してしまっていた。
当の本人は痛くも痒くも無いのか それを気にしてはいないようだったけど。

「あまり、やり過ぎるなよ」

俺の言葉に彼は不思議そうに首を傾げたが、すぐに笑顔を見せた。

「大丈夫だって。上手くやるよ」

上手くやるよって、彼の言葉ほど不安なものはない。

「…喧嘩とか、するなよ。今日の爆豪みたいなことも ダメだ」
「人を傷つけちゃダメ。売られた喧嘩もやむを得ない場合を除き買っちゃダメ。でしょ?爆豪みたいに 怒鳴ったり 急に人に殴りかかるのもダメ。」

あとなんだっけ?と彼は指折り数えながら 禁止されていることを呟いていく。
そんな彼の横顔に 俺はため息をついた。

だからこいつは目が離せないんだよ。

「とりあえず 判断に困ったら 聞け」
「はーい。いつもありがとう。焦凍」


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