過去と共に燃え散った

武器を全て外したヒーロー殺しを近くにあったロープで縛り路地を出る。

「さすがゴミ置場。あるもんだな」

拘束したヒーロー殺しを血で運びながら、視界が霞むのに気づく。

「悪かった…プロの俺が完全に足手まといだった…」
「いえ、1対1でヒーロー殺しの個性だともう仕方ないと思います…強すぎる」

ヒーローに緑谷は背負われて、ぐったりとしている。
緑谷は何かある度にいつも 怪我してるな。

「4対1の上にこいつ自身のミスもあってギリギリ勝てた。多分焦って緑谷の復活時間が頭から抜けてたんじゃねぇかな。ラスト飯田のレシプロはともかく…緑谷の動きに対応がなかった」

路地を出れば 脳無と戦っていた時にいた戦闘服のご老人がいた。

「何故お前がここに!」
「グラントリノ!」
「座ってろっつったろ」

ご老人の蹴りがまともに、緑谷の顔に入る。
どうやら、知り合いのようだ。

「まぁ…よぅわからんがとりあえず無事なら良かった」
「…ごめんなさい」

そこから続々と ヒーローが集まってくる。
おそらくエンデヴァーが寄越したんだろう。

「ひどい怪我だ!救急車呼べ!」
「おい、こいつ…ヒーロー殺し!!?」

ヒーロー殺しを地面に下ろして、血を瓶に戻しながら、額に手を当てた。
霞む視界と人の声が、どこか遠くに聞こえる。

「三人とも…僕のせいで傷を負わせた。本当に済まなかった…何も見えなく…なってしまっていた…」
「僕もごめんね。君があそこまで思いつめてたのに全然見えてなかったんだ。友達なのに…」
「しっかりしてくれよ。委員長だろ」

うん、と頷いた声。
それから、俺を呼んだ焦凍の声。
それに応えようとしたときだった。

「伏せろ!!」

グラントリノの声。
だが、それよりも 体が動いた。

緑谷を押した両腕。
そして、空を飛ぶ脳無に掴まれた背中。

「血郷!!?」

緑谷を救えて、よかった。
我ながら、よく視えていた。
だが、ここからどうしようか。
逃れようにも、なぜか体に 力が入らない。

「偽物が蔓延るこの社会も。徒に力を振りまく犯罪者も」

脳無の動きが止まり、落ちていく体。
それを支える手は、誰のもの?

「粛清対象だ…全ては正しき社会のために」

地面に降ろされた体は、力なく地面に倒れる。
力を振り絞り開いた目に映ったのは真っ直ぐな目をした ヒーロー殺しの姿だった。
エンデヴァーの声が 遠くで 聞こえる。

「贋物…正さねば…誰かが血に 染まらねば…ヒーローを取り戻さねば!」

なんでか、わからない。
伸ばした手は、赤黒い巻物の裾を掴み。
ぼろぼろのそれは びりっと音を立てて 破け 腕が 地面に 落ちる。

「来てみろ…贋物ども。俺を殺していいのは…オールマイトだけだ!!」





立ったまま気を失ったヒーロー殺し。
だが、その傍ら倒れる血郷も ピクリとも動かない。

「血郷!!」

あの瞬間。
血郷は緑谷を助けた。
誰よりも早く、脳無に気づいた。

駆け寄った彼の顔は蒼白で、呼びかけても意識はない。
そして、なぜか地面を濡らす血。

彼の操る血かと、思ったが止まることのないそれに 戦闘服を捲った。

「っ!!?」

脇腹にある深い傷。

「救急車!!早く!」

これは、最初に俺を庇った時のものだ。
血が出てないから、避けたと思っていたのに 隠したのか。
自分の怪我を治さずに、怪我人の対応をしたのか!?

「なんで自分の傷を…治さなかったんだ…」

緑谷も血郷の傷を見て目を見開く。
遠くから、救急車の音が聞こえてくる。

きっと表面の血を操り、出血を抑えていたが 気を失ったせいで 解かれたんだ。
痛みはなかったのか。
こんな傷を抱えて、他の人の手当てをしながら、俺を…守っていたのか。

「ふざけるな…」





目を開けたら 真っ白な天井が広がっていた。
幼い頃見上げていた天井によく似ていて、体を起こして 辺りを見渡す。
窓のあるここは、あの場所ではないな。

よくよく見てみれば左腕には点滴が繋がれ、脇腹には少しきつめに包帯が巻かれている。

「…何してたんだっけ、俺…」

枕元の化粧台に小さな袋に仕舞われた 赤黒い布が入っていた。

そうだ。
思い出してきた。
職場体験で、ヒーロー殺しと戦って。
脳無に攫われて…
この布切れがここにあるってことは夢ではなかったのだな。

「助け、られたのか…ヒーロー殺しに…」

あれからどれくらい経ったのだろうか。
みんなは、無事なのか。

点滴の針を抜いて、ベットを降りる。
重たい体を引きずるように歩いて、ドアを開ければ 目を丸くさせる焦凍がいた。

「血郷!!」
「焦凍?」
「何勝手に動いたんだ、お前!」

ベッドに押し戻され、点滴を外したことを彼に叱られる。
焦凍がナースコールを押せば、すぐに医者が病室に入ってきた。

「目が覚めたんだね。よかった。けど、点滴は勝手に、外しちゃダメだよ」

再び左腕に刺された点滴に首を傾げる。

「俺左利きなので、右に」
「そんな腕に、刺せるわけがないだろう。繰り返し刺し続けたせいで、変色してるし。血管はボロボロ。血管も浮き上がってこないし。個性のためとはいえ、これはダメだ」

色の変わってしまった右腕。
別に気にしたことも、なかったな。

「こんなになるまで、どうして放っておいたんだ」
「別に…」
「君の体も。運ばれてきたときは 栄養失調に出血多量。聞けば元から、貧血の症状も 出ていたんじゃないか?」

どうなんでしょう?と首を傾げて笑えば 医者は呆れたように溜息をついた。

「とりあえず数日は入院してもらうよ」
「別に、大丈夫です」
「君が大丈夫でも、僕らは大丈夫じゃないんだ」

先生はそれだけ言って 出て行ってしまった。

「血郷、」
「俺どれくらい寝てたの?みんなの怪我は?」
「事件の日から 2日経ってる」

2日。
そんなに寝ていたのか…。

ベッドの傍ら 焦凍はしゃがみこんで俺の手を握りしめた。

「よかった…目を、覚まして…」

彼の声が、震えている。

「焦凍?」
「もう目を覚まさないのかと…思った」
「なんで。別に大丈夫「大丈夫ってなんだ」え?」

突然、掴まれた胸倉。
なんで、怒ってるの。
いや、悲しんでるの?
彼の表情に、2つの感情。

「お前が調子悪いのに気づいてたのに。何も、出来なくて。戦闘でも、俺のこと庇って怪我して。自分のこと、放ったらかしで みんなのこと助けて。限界近いのに、終いには緑谷を庇って…」
「あぁ…」
「そんなん、庇われた方の気持ち…考えろよ」

俺のせいでって、ずっと考えるんだぞ!?と彼は言って 俯いた。

「それがヒーローなんじゃないの?」
「っ!!」
「みんなは?助かったの?」

怪我はしたがみんな元気だ、と彼が答える。
飯田は後遺症が残るとも教えてくれた。

「…なら良かったじゃん。みんな、助かったなら」
「良くない」
「じゃあ、俺じゃない誰かが死ねば良かったの?違うでしょ。みんなで、助かったなら それが正解だ。あの状況、誰も傷つかずに100点満点は無理だった」

違う、そうじゃないと 彼は首を横に振った。

「言いたいことはわかる。全員助かったのは良かったよ。けど、そうじゃなくて。隠すなって言ってるんだ。体調不良も怪我も。辛いとか痛いとか。じゃないと、手遅れになるかもしれないだろ」
「…痛みはなかったよ。体調も、悪くはなかった」

朝から少し体が重い気がしてたけど、支障なく戦えたし。
まぁ、頭も個性も使いすぎては いたけれど。
怪我を治すのは やはり体力をとられる。
倒れた原因は そこだろう。

「…お前は、」
「そこまでにしておけ。焦凍」

病室に入ってきたエンデヴァーが 元気そうだな、と笑う。

「焦凍、少し出てろ」

彼の言葉に不服そうだが、焦凍が出て行く。

「調子は?」
「今すぐあなたに噛み付けるくらいには」
「そりゃあ、いい」

彼は笑ったが、すぐに笑顔を消した。

「まだ…わからんのだろう?お前は」
「何がですか」
「痛みだ」

俺は、自分に貼り付けた笑顔を 外した。

「温痛覚が、まだ。戻ってないんだろ、」
「…戻りませんよ、多分」

人の姿を模しているだけ。
俺は、あの頃と 何も変わらない。

「安心してください。上手くやります」
「そうか。だがな、実際に今回は、「大丈夫です。これ以上続けるなら、本当に噛み付きますよ」…いいか。くれぐれも、気をつけろ」

彼はそう言って、大きな手で俺の頬を撫でた。
そして、少しだけ 悲しそうな目をした。

「お前は、人より強く出来てるけどな。それがお前の脆さだ。行き過ぎれば、死ぬ。生きれるギリギリのラインを覚えろ」
「言われなくても」
「感覚を 取り戻す努力も、忘れるな」

彼はそう言って部屋を出て行く。
彼は知らないんだな。

「取り戻すことなんて、出来ないよ」

もう、自分の中には 残ってなどいないのだから。
封じ込められたんじゃない。
それらは…奪われたのだ。
そして、過去と共に燃え散ったのだ。


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