ヒーローとの邂逅

結局 退院を許されたのは 職場体験の最終日だった。
復帰させないとは言われてはいたが、まさかここまで退院させてもらえないとは思わなかった。
後から聞いた話、処分云々のせいで あの日のことは公にはならなかったらしい。
まぁ、ヒーローになってない俺らに戦闘の許可は出ていないわけだし仕方ないだろう。
入院中 お見舞いに来てくれた 緑谷と飯田は怪我はあるものの元気そうで。
飯田の顔からは良くないそれらが消えていた。

「やっと解放される…」

退院の準備を終えて、忘れ物がないかと病室を見渡す。
化粧台の上の 布切れに気づいて手を伸ばし、握りしめる。
病院に運ばれて来た時、俺はこれを握って離さなかったらしい。
何故これを掴んだのか、わからない。
けどきっと、方法は間違えたが 真っ直ぐで 俺を救ったヒーローであることに間違いないから だろう。
彼は俺を 初めて 救ってくれたヒーローだったんだ。
それをポケットにしまい、もう一度病室を見渡してから 部屋を出る。

戦闘で倒れたせいで回収しきれなかった血液があり、随分と溜め込んだ血のストックが少しばかし減ったのが痛いな。
採血したいけど、病院では先生がうるさくて出来なかったし。
家に帰ったらとりあえず…

「血郷、」
「焦凍?え、わざわざ来たのか?」
「クソ親父が、一緒に行けって」

なるほど。
もう平気か、と問いかける彼に 笑いながらそれ何度目だよと答える。

「痛みは…」
「平気」
「傷は?」

塞がってる。と答えれば 彼はやっと黙った。

「今更だけど、」
「なぁに?」
「助けてくれて、ありがとう」

急な言葉だった。
感謝されるような場面があっただろうか。
あぁ、けど 何が?とか言ったら 怒られるのか。

「…おう」

困った結果返せたのはそれだけ。
だが、彼は満足そうに笑った。

「他人の治癒までできたんだな」
「出血してて、その傷口に触ってられる時だけな」

バレないように血を舐めるのが 難しいし。
今回連続でやってみて、時間もかかるし、体力持っていかれることがわかった。
あれは今のままでは 多用したくない。

「…お前には、驚かされる」
「何が?」
「昔から、そうだったけどな」

彼を驚かせるようなことを、しただろうか。

「とりあえず、もう無茶はするなよ、採血も、怒られただろ」
「わかったわかった。流石に、耳にタコだよ」





次の日の学校は 職場体験はどうだったという話で盛り上がっていた。

「エンデヴァーが救けてくれたんだってな!さすがNo.2だぜ!」
「…そうだな、救けられた」

表向きは、そういう扱いなのだ。
仕方ないだろう。

「血郷はぶっ倒れたんだろ?」
「まぁ…」
「もう平気なのかよ」

見ての通り元気、と笑ってやれば 安心したように彼らも笑った。

「俺ニュースとか見たけどさ。ヒーロー殺し、敵連合とも繋がってたんだろ?もしあんな恐ろしいやつがUSJに来てたらと思うとゾッとするよ」
「でもさぁ。確かに怖ぇけどさ 動画見た?あれ見ると一本気っつーか執念っつーかかっこよくね?とかおもっちゃわね?」
「上鳴くん…!」

言いたいことは、わかる。
何より彼に助けられた俺は、その執念を 目の当たりにした。

「確かに信念の男ではあった。クールだと思う人がいるのもわかる。ただ奴は信念の果てに粛清という手段を選んだ。どんな考えを持とうともそこだけは間違いなんだ」

一度はヒーローを目指し、失望。
街頭演説など 行うも諦め。
俺らの知る、姿へ。
ヒーローとは見返りを求めてはならない。
自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない。
彼のその主張が、今はメディアで持ちきりで。
俺も 気づけばそれを 見てしまうような日が続いていた。

「俺のような者をこれ以上出さぬ為にも!改めてヒーローへの道を僕は歩む!!」
「飯田くん!」
「さぁそろそろ始業だ。席に着きたまえ!」

首にぶら下げたカプセルネックレスを握りしめて、窓の外に視線を向けた。

なぁ、ヒーロー殺し。
あんたの目は真っ直ぐだったよ。
間違いなく敵だったはずなのに、俺を助けたあの瞬間は ヒーローに見えた。

カプセルの中には、例の布切れが入っている。
捨てられなかったのだ、どうしても。
彼は俺たちとの戦いで重症。
警備の厳しい刑務所に入る予定だと、刑事さんから聞いている。
あの時せめて、ありがとうと 伝えられれば よかったのに。





救助訓練を終えて、帰ろうとする俺を引き止めた相澤先生。
連れられた先は保健室だった。

「先生?」
「ベッド借ります」

リカバリーガールにそう声をかけた先生はベッドに俺を座らせて、カーテンを閉めた。

「あの…?」
「腕。出せ」

沈黙。
そして、早くしろという目に渋々 袖をまくった。
数日の入院も虚しく、腕は相変わらず青紫色。

「…なるほどな」

先生はそう呟いて、溜息をついた。

「医者から連絡が来てる。脇腹については順調に回復しているが…腕に関してとお前の生活習慣に関しては時間をかけて改善しろと」
「はぁ…」
「お前、病院でもそんな態度だったんだろ」

まぁ強ち間違いではない。
腕が変色していようが、血管が見つからなかろうが 中の血を操って 表面に浮かび上がらせれば問題はなかったし。
血管は自分で修復しているし。

「今朝は、何を食べた」
「え?」
「朝ご飯」

睨む彼にゼリー飲料を、と答えれば、ため息をつかれた。

「昼は」
「鉄分のタブレット…」
「夜は何を食べる予定だ」

夜。
夜は…

「ゼリー飲料、ですかね…?」
「まず一食でいいから。まともな飯を食え。学食もあるんだし」
「あー…はい」

仲が良いやつは誰だ?
そいつに見張らせる、と先生が言う。

「仲が良い人…別に…?」
「おい…」
「…あ、けど。人使は…仲良いと思います」

人使?と彼が首を傾げ、心操のことか?と少し驚いた様子だった。

「はい」
「仲いいのか?」
「多分。俺は好きですよ」

A組ではいないのか、と改めて聞き直され 特に思い浮かぶ名前がなかった。
みんな当たり障りなく関わってはいるけど、仲が良いとかそういうことではなかったし。

「…仕方ないからヒーロー殺しの件で、関わった3人に頼んでおく」
「わかりました」
「あと、血を抜くのは。回数減らせ」

個性のためとはいえ、それでふらふらになるんじゃ元も子もないぞと 彼は言った。

「…わかりました」
「本当にわかってんのか」

また、溜息をつかれた。

「…なぁ、蛟」
「何ですか?」
「あまり、周りに心配をかけさせるな」

お前にとってどうでもいいことでも、周りはそうじゃない時もある。
わかってくれ、と彼は言った。

「大丈夫です。もう、失敗しないです。上手くやります」
「とりあえず。時々、確認するから。覚悟しとけよ」
「過保護ですね」

お前のせいだろと彼は、軽く俺の頭を叩いた。
そしてそのまま俺の髪をぐしゃぐしゃと、かき回す。

「職場体験で、何か 見つかったか?」
「初めて…ヒーローに、出会いました」

ネックレスを握りしめて笑った。

彼のように、なりたいのか。
彼の目指したヒーローのように、なればいいのか。
まだわからないけれど。
それでも、俺は初めて ヒーローと出会った。


戻る

TOP