焦燥
時は流れ 6月最終週。
期末テストまで残すところ1週間を切っていた。
制服も夏服に変わり、みんなが暑いと文句を言っている日も増えてきた。
俺は腕を隠す為、今も長袖のシャツを着てはいるが。
専ら、最近の話題は期末テストのことだった。
夏休みに行われる林間合宿が 赤点の人は行けないという決まりのようで。
みんな 直前になり焦っていた。
「蛟も中間1位だったよな?」
「は?」
鋭児郎の言葉に爆豪がこちらを睨む。
積極的に関わることはないが、彼と話すことも体育祭以降増えていた。
俺が怪我をして倒れたことについては、やっぱりなと言われ舌打ちをされた。
「お前、勉強出来たんだな…」
意外そうな彼の目に俺は笑う。
「まぁ、そういう風に育てられたし」
「だからその腹立つ笑顔やめやがれ!」
まぁ、笑うとキレられるのはもういつものこと。
たまに 感情について 教えてくれることもあるし なんとなく上手くやれてはいるんだろう。
「とりあえず飯いこーぜ」
「おー」
昼のご飯は学食で。
それは相澤先生との約束で。
焦凍たち以外にもその話が知られ、昼は誰かしらに食堂へ連れていかれるようになった。
「今日は何食う?」
「んー…ご飯お味噌汁…ほうれん草のソテー山盛り」
「肉食え!肉!」
勝手に生姜焼きまで頼んだ爆豪がそっぽを向く。
何だかんだ、彼が1番世話を焼いているのは間違いないな。
言ったらキレられるから言わないけど。
最近はやたらキャンキャン吠えることもなくなり、静かに闘志を燃やしてる って印象に変わった。
まぁ、先日の救助訓練からどこか 焦っているようには見えるけど。
「演習試験の方はなにやんだろーな」
鋭児郎の言葉に首を傾げる。
「まぁ、何が来ても同じじゃない?」
「だな」
「それはお前らだけだわ」
授業の訓練では、比較的上位にいる俺と爆豪からしてみれば 期末は別に大きなハードルではない。
恐らく爆豪にとってもそうだっだのだろう。
「とりあえず、成績でお前には負けない」
「急に何」
「別に」
彼が頼んだ生姜焼きを口に運びながら、首を傾げる。
「爆豪ってさ、なんでヒーローになろうって思ったの?」
「は?そんなん、かっけぇからだろ」
「かっこよさの基準ってなに?」
勝つこと、と即答した彼になるほどな、と頷く。
「…じゃあ、負けたら かっこよくないの?」
「そりゃそうだろ。ヒーローは勝たなきゃ意味ねぇし」
爆豪がなにかを言おうとした時後ろから呼ばれた名前。
声だけで、誰かわかった。
「人使!」
体育祭以来も時々2人で帰ったりしている彼は相変わらず俺にとっては特別な存在だった。
「人使…?」
「どした?爆豪」
後ろでの会話も無視して、席を立つ。
「テスト前で忙しいから、会えないと思ってた」
「それは、俺も」
「血郷にさ、ちょっとお願いあるんだけど」
何?と首を傾げれば、申し訳なさそうに今日の帰り勉強を教えて欲しくて と彼は言った。
「全然いいよ。帰り、迎えに行く」
「いいの?範囲も少し違うだろうし…」
「大丈夫だよ。俺も勉強しようと思ってたから」
ありがとう、と彼は笑って また帰りにと普通科の友達たちと歩いていく。
「あれが 人使ってやつか」
席に座り直せば爆豪が小さな声でそう言った。
そうだけど、と答えれば彼は何も言わずにそっぽを向いた。
「なぁに?なんか言いたげなんだけど」
「別に。さっさと飯食え」
「…はいはい」
▽
HRが終われば、血郷はすぐに教室を出て行った。
昼に会っていた彼に 会いに行ったのだろう。
比較的仲良くしている方だと俺自身勝手に思っていたが、あーいう姿を見たのは初めてで 何故か複雑な気持ちだった。
「んだよ ロボならラクチンだぜ」
ぼーっとしている間に何か話が盛り上がっていたようで首を傾げれば 常闇が期末の演習がロボとの対戦だと教えてくれた。
「これで林間合宿はバッチリだ!」
喜んでいるのは対人戦闘があまり得意ではない上鳴と芦戸。
対人だと個性のコントロールがあの2人は難しいからな…
「人でもロボでもぶっとばすのは同じだろ。何がラクチンだ。アホが」
辛辣な言葉を吐いたのは爆豪で、アホとはなんだと上鳴が突っかかる。
最近、爆豪がこーやって吠えてるとこあんまり見なかったのにな。
「うるせぇな!調整なんか勝手に出来るもんだろ。アホだろ!なぁ、デク!」
「え、」
「個性の使い方…ちょっとわかってきたかしらねぇけどよ。テメェはつくづく俺の神経逆撫でするな」
あぁ、たしかに。
例の救助訓練の緑谷の動きは爆豪に似ていた。
イライラしてると思ったら、そういうことか。
「体育祭みてぇなハンパな結果はいらねぇ。次の期末なら個人成績で否が応にも優劣はつく。完膚なきまでに差ァつけて テメェぶち殺してやる」
おー…久々に見た。
こーいう爆豪。
「轟ィ!テメェもなァ!!」
乱暴にドアを開けて出て行った彼に苦笑をこぼす。
「久々にガチなバクゴーだ」
「焦燥…?あるいは憎悪…」
ため息をついて、やれやれと首を振る。
「こーいう時に、血郷がいれば多少大人しくなるのに」
「蛟は爆豪の扱いをよくわかっているしな…」
最初こそ血郷に対しても あんな風に接していたが体育祭の後からは 一緒に過ごす姿を目にすることが増えた。
喧嘩を売るってこともなく、比較的 血郷といる時の爆豪は落ち着いている。
まぁ、血郷が笑うとなぜかキレるけど。
「蛟はどうしたんだ?今日はすぐに出て行ったが」
「普通科の友達と勉強」
「普通科の…」
俺も勉強しねぇとだし、帰るわと声をかけて 1人教室を出る。
独占欲とか、そういうわけではないけど。
最初に血郷と仲良くなろうとしたのは 間違いなく俺だったはず。
名前で呼ぶのもクラスじゃ俺と同じ学校出身も轟ぐらい。
けどアイツと放課後出かけたことなんかないし、声をかけただけで喜ばれたこともない。
いつも確実に引かれた一線を、心操は軽々と飛び越えてみせたのだ。
「…焦ってんのか、俺」
下駄箱のところで偶然、血郷と隣に歩く心操を見つけた。
彼らは肩を寄せて、話しながら 時折目を合わせて 笑う。
「……なんだかなぁ」
乱暴に靴を地面に放り投げ、視線を落とす。
俺も誘ったら放課後 一緒に出かけてくれたりすんのかな。
▽
緊急で行われた会議。
内容は期末試験についてだった。
「敵活性化のおそれ…か」
「もちろん。それを未然に防ぐことが最善ですが学校としては万全を期したい」
「これからの社会現状以上に対敵戦闘が激化するとすればロボとの戦闘訓練は実践的ではない」
まぁ、間違いないだろう。
うちのクラスだけで、二度の会敵。
「生徒の課題に合わせてペアで 先生と戦闘させよう」
ペア決めや課題設定が上手く進んでいく中、唯一残った蛟の名前。
「蛟についてですが…問題という問題が…」
彼が厄介な生徒であることは間違いはない。
だが、成績上の話をすれば 別だ。
「血を操る個性で、 広範囲の索敵。遠距離から近距離戦闘まで 満遍なく優秀です」
「たしかにねぇ」
校長が蛟の資料を見ながら、頷く。
「複数名での戦闘においても、援護であれ 前線であれ…これといった問題はないですね。隠密も 彼は得意としていますし…」
「典型的な優等生だね。クラスの中で不仲とか、そういうのもない?」
「ないですね。比較的誰とでも 話してます。まぁ、深く踏み込むことは、していない印象ですが…」
校長は「成績以外で気になることとかないの?」と首を傾げる。
「私生活の中とかでも」
「自分を大切にしない…」
「じゃあ、そこだね…課題は」
例の件。
知っている割には校長は 淡々としている。
本当は、知らないのか?
「じゃあ、今回の期末試験はこれで決まり。みんな、よろしくね」
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