奪われた過去

演習試験を終えて、クリアできなかった4人は死んだような顔をしていた。

「どうやって勝ったんだ、血郷」
「ん?」

焦凍の問いかけに 内緒 と笑う。

肉弾戦の感覚も取り戻せたし いい機会だった。
それに、あの事件の情報。
ヒーロー内ではどれくらい知られているかわからなかったが、やはりほぼ噂話程度のようだった。
人体実験…
エンデヴァーも、そう思っていたし…

「予鈴が鳴ったら席につけ」

凄い勢いで開いたドア。

「おはよう。今回の期末テストだが…残念ながら赤点が出た。したがって…林間合宿は全員でいきます」
「「「「どんでんがえしだぁ!!!」」」」

喜ぶと4人に クラスメイトは 笑う。

「筆記の方はゼロ。実技で切島、上鳴、芦戸、佐藤、あと瀬呂が赤点だ」
「行っていいんスか 俺らぁ!」

一応俺は赤点ではないようだな。
順位の発表は後日行われるらしい。

「今回の試験 我々敵側は生徒に勝ち筋を残しつつどう課題と向き合うか見るように動いた。でなければ課題云々の前に詰む奴ばかりだったろうからな」
「本気で潰すと仰っていたのは…」
「追い込む為さ。そもそも林間合宿は強化合宿だ。赤点を取った奴こそここで力をつけてもらわなきゃならん。合理的虚偽ってやつさ」

やはり課題設定があったんだな。
だとすれば、俺の課題はなんだったのだろうか…

「ただ、赤点は赤点だ。お前らには別途に補習時間を設けてる。ぶっちゃけ学校に残っての補習よりキツイからな。じゃあ合宿のしおり配るから後ろに回してけ」

配られたしおりをめくり首を傾げる。
持ち物が多いな…
休みに買いに行かないと、足りないものばかりだ。

「それから蛟」
「あ、はい」
「お前は今日、居残りだ」

教室がざわついた。
なんかしたのか、という言葉に首を傾げつつ笑う。
思い当たる節といえば、孤児院の件くらいか。

放課後、指定された先は仮眠室。
ソファに座っていた先生は前に座れと促した。

「来てもらって、悪いな」
「いえ、別に」

真正面に座る彼と視線が合うと、彼はふいと顔を背けた。

「今回の試験、お前は取り組んでほしかった課題には向き合っていない」
「…俺の課題ってなんだったんですか」
「自分を大切にすること。自分の命を、優先することだ」

なるほどね。
だから、個性を消して 戦えない状況を作り出したのか。
俺が 逃げるように。

「だが、そんな俺の願いも虚しくお前は 生身で突っ込んで来た。肉弾戦が得意だっていう情報を見抜けなかったこっちのミスだから 赤点は回避させた」
「それで…?」
「言葉で 何度言っても 誰に言われても お前が変わらないのは なんとなくもう気づいている」

結局 ご飯は昼の学食以外は 変わっていないし。
採血だって変わらずしている。
そのせいで、俺は今も長袖のシャツを着ている。

「…ただ、お前が 話も通じないほど馬鹿じゃないってことも わかってる」
「はぁ…?」
「だから、ここで俺と一つ約束をしよう」

彼がこちらを向いて、視線を合わせた。
真剣な眼差し。

「怪我をするなとは言わん。だれかを庇うなとも言わん。ただ一つ、生きろ。必ず 生き残れ。無理をしても無茶をしても 必ず 生きて帰ってこい」
「…生きて…」
「これを守れないなら、」

俺はお前を退学処分にする、と彼は言った。

「死んだら退学処分も何もなくないですか?」
「たしかにそうだな。じゃあ、変えよう。俺の命を 賭けよう」
「は?」

命をかける?

「お前が生きて帰ってこなかった日には 俺も「待ってください。何言ってるんですか。先生が命をかける必要なんてどこにも…」俺の身を案じるなら 生きてくれ」

なんでここまでする必要がある。
いや、そこまでしなくちゃいけないと 判断されたのか。
俺が、"人"に なりきれていないから。

「…わかりました」
「言ったな」

じゃあこの話はこれで終わりで、もう一つ別の話をすると彼は言う。

「今回の期末テストで改めて お前の底がわからなくなった。個性を使った戦闘でも 全てを出し切ってるところは見たことがない」
「たしかにそうかもしれないですね」
「まず、個性のキャパはあるのか?」

体内の血を使えば 勿論限界はきますね、と答えて首を傾げる。

「操作に関してのキャパは 個性のキャパというより 頭のキャパですね。単体にしろ 索敵用に広範囲に広げるにしろ 操作は俺の頭の中で行ってるので」
「頭のキャパは どれくらいでくる?」
「どうでしょう、やったことがないのでなんとも」

戦闘は色々なものを組み合わせて行ってる。
それぞれ一つ一つの限界値がわかったところで それらの掛け合わせで大きく変わることになるだろう。

環境、敵、味方…
一定値の割り出しは 不可能に近い。

「ただ一つ。確実に言えることは、傷を塞ぐことは 何より 頭の容量をくいます」
「なるほどな…」
「これに関して言えば、血液の中の赤血球やらを動かすことになるので 普通より緻密なので…」

今のところ どれくらいまでできる?と彼は首を傾げる。

「どうでしょう。ただ、ヒーロー殺しのときは 戦闘と並行してやってたので 限界に近かったですね」
「…お前の個性は 扱いずらいな。教師という立場からは…」
「すいません」

わかった、と先生は頷き立ち上がる。

「わざわざ時間をとらせて悪かったな。もう、話は終わりだ」
「あ、はい」
「くれぐれも忘れるなよ。俺の命はお前にかかってることを」

教室に戻れば 生徒はまだ何人か残っていた。

「大丈夫だったか?」

鋭児郎のその問いかけに、大丈夫だよと笑う。

「今さ、明日みんなで合宿に必要なもの買いに行こうって話してて。血郷も来ないか?」
「あー…」
「あ、無理ならいいんだけど」

一瞬、鋭児郎の表情が曇った気がした。
そういえば最近、そういうことが 多かった気がする。

「いや、無理ではないんだけど。買うもの多分みんなより多くて…付き合わせるのは申し訳ないっていうか」
「いーよ!そんなん俺、手伝ってやるし」
「そう?じゃあ、行こうかな」





次の日。
A組の何人かを除いて、木椰区のショッピングモールに来ていた。

「こんなとこあったんだ」
「嘘だろ、知らなかったのか?」

それぞれ買うものが違うということで、別行動をすることになり 俺は鋭児郎と回ることになった。

「よし、じゃあ 何から買う?」
「とりあえず 鞄と…服もか。あとは、小物…」
「ほぼ全部じゃん。お前、どーやって生活してたの」

とりあえず服買うか、と近くのお店に入り選んでいれば店内に流れた避難のアナウンスと麗日から届いた弔が現れたというメール。

「弔…」
「緑谷のとこ行くぞ。蛟」

俺の手を掴んだ鋭児郎に、ごめんと 呟く。

「ちょっと行くとこできた」
「は?」
「みんなのこと 頼む」

彼の腕を解いて、走り出す。
怪我でもしててくれれば血の匂いで終えるのに。
きっともう、施設は出ているはずだ。

ワープは使ってもういなくなったか?
いや、けど ここに現れたのが偶然なら 使ってない…

ショッピングモールのゲートから、飛び出す。
何人かの人を追い抜きながら、周りを見渡す。
顔ははっきり覚えてないけど。
なんとなく、俺なら わかる気がした。

前を歩く 黒いパーカーの人影。
多分、あれだ。

「見つけた、」

咄嗟に掴んだ彼の腕。
振り向いた 彼が目を見開いたのが 顔を隠す手の隙間から見えた。

「お前…雄英の…」
「弔。死柄木、弔…」
「死ににきたのか、一人で。俺を追って」

彼の目を見て思った。
やはり、そうだ。
知ってるんだ なぜか。

「俺、お前と 会ったことあるんだ」
「はぁ?」
「雄英を襲うより前。思い出せないけど、俺はお前を知ってる」

お前の血の味を、知っている。

彼が笑った。

「おいおい。なに訳のわかんないこと言ってんだよ、蛟 血郷。お前のことなんて、俺は 知らない」
「違う。蛟血郷は…10年くらい前に もらった名前だ」
「は?」

エンデヴァーすら、知らない。
あの孤児院に入る前に俺に与えられていた名前。
あの炎に奪われた 名前。

「俺の名前は、」

俺の言葉を遮ったのは、俺の携帯の着信音だった。

「電話…」
「…今日は、戦う気はない。帰れ、蛟血郷」
「待って、」

黒もやに消えていく彼の姿。
携帯を握りしめて、舌打ちをした。

「…もしもし、ごめん。大丈夫だよ、鋭児郎」

電話の向こうの 焦る彼の声にそう答えて小さく息を吐き出した。

「…今日は先に帰る。今度また、買い物 付き合って」

ネックレスを握りしめて、彼が消えた先を見つめる。

俺にはどうしても思い出せないんだ。
だから恐らく。
あの頃出会った人だ。
あの孤児院に入る前に、本当の名前で 生きていたあの頃に。


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