会いに行こう
例のショッピングモールでのことがあり、場所が変わり 行き先を当日まで生徒に明かさないことになったらしい。
それから、今朝。
人使から メッセージが届いていた。
頑張るから 待っていて。
たったそれだけだったけど、それが全てだと思った。
会えないこの合宿の間、彼も成長してくる。
きっと、そういうことだ。
荷物をバスに積んで、事前に決めた通り席に座った。
隣に座るのはどこか不機嫌そうな爆豪。
「何にイライラしてるの」
「お前が隣だからだよ」
「他の人より 静かだと思うけどなぁ」
それは、間違いねぇなと騒がしいバスの中を見渡し 彼が舌打ちをした。
「相澤先生との1対1、どうやってクリアしたんだ」
「肉弾戦」
「お前が?」
まぁ、そういうイメージが俺にはないんだろう。
急に彼は俺の腕を掴む。
「…意外とあんのか」
「まぁ人並みに鍛えてるし」
「つーか、長袖。暑苦しい」
彼の言葉にそう?と首を傾げた。
「暑くねぇの?」
「んー、別に」
「…やっぱな」
お前 死ぬなよと 彼は言ってそっぽを向いた。
「心配してくれてんの」
「死ねスカし野郎」
「どっちだよ。しかもまたスカし野郎に戻った」
死なないよ。
相澤先生との約束もあるし。
それに、まだ やることがある。
ネックレスを握りしめて 窓の外に視線を向けた。
まだ何も、わかっていないから。
「………職場体験のあとから、着けてるよな。それ」
「よく見てるね」
「訓練の前とか、大事そうに握りしめてんの見るしな」
そんなに大事なもんか、という彼に俺は迷いなく頷いた。
「俺のヒーローなんだ」
「は?」
▽
ネックレスには結構前から気づいていた。
そーいうもんに興味があるやつだとも思わなかったし、意外だったから。
だが、それ以上に それを握りしめる彼が見たこともない顔をしていたからだ。
「おい、」
それ、何だ。
憧れ?崇拝?
デクがオールマイトに向けるようなものよりもっと、深い。
握りしめて微笑む。
普段人に向けられることのない その笑顔。
「なんつー名前のヒーローだよ」
「内緒」
「は?ナメてんのかコラ」
言わないよ、と彼は言った。
「俺にとって、ヒーローってだけだから。本当のヒーローじゃない」
「なんだそれ…」
よくわかんねぇな。
だが、それ以来彼は 真剣に訓練に取り組んでいる気がしたから まだ許す。
期末では相澤先生に勝ってるし、しかも肉弾戦だと?
細っこい体だと思えば、そーでもねぇようだし。
バスはどれくらい走っただろうか。
降ろされたのは何もない見晴らしのいい場所だった。
「なんの目的もなくでは意味が薄いからな」
「よーう、イレイザー!」
「ご無沙汰してます」
先生がぺこりと頭を下げる。
「煌く眼でロックオン」
「キュートにキャットにスティンガー」
「「ワイルド・ワイルド プッシーキャッツ!」」
ポーズを決めたヒーロー2人に スカし野郎が 小さく誰?と呟いた。
「今回お世話になるプロヒーロー プッシーキャッツの皆さんだ」
「ここら一帯は私らの所有地なんだけどね。あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」
指差した先は林のもっと向こう。
「今はA.M9:30。早ければ12時前後かしらん?」
なるほどな。
バスへ逃げ出そうとする奴がいるなら、蛟は前に踏み出した。
「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」
地面が音を立て 盛り上がる。
蛟は それを避けて、飛び降りた。
「私有地につき個性の使用は自由だよ。今から3時間!自分の足で施設までおいでませ!」
「この魔獣の森を抜けて!」
鬱蒼と生い茂る草木。
すごいねぇとどこか楽しそうに隣のやつは笑った。
「ヘラヘラしてんじゃねぇよ」
「これ、通常装備。てか、魔獣ってなに?なんか出んのかな?」
峰田が、走って行った先。
現れた バケモノ。
「なるほど、魔獣か」
体は自然に動いた。
粉々になって砕けた魔獣と呼ばれた それ。
攻撃したのは 俺と蛟、轟、飯田、そしてデク。
相変わらず カンに触る奴らばっかりだ。
「楽しくなりそーだね」
蛟はそう言って、笑った。
▽
P.M 5:20
「やーっと 来たにゃん」
合宿場に到着した奴は個性の限界を超えているようだった。
みんなぼろぼろだな…
「とりあえずお昼は抜くまでもなかったね」
生徒の顔を見渡して、気づく。
やっぱり キャパはねぇのか。
泥だらけだが、唯一元気そうな蛟。
「私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。いいよ、君ら特に」
彼女が指差したのは 緑谷 轟 爆豪 飯田 そして、蛟だった。
「躊躇のなさは経験値によるものかしらん?」
蛟は聞いているのかいないのか、そっぽを向いていた。
珍しいな、あんな態度は。
「ずっと気になってたんですが…その子どなたかのお子さんですか?」
「ああ、違う。私の従甥だよ。洸汰!ほら挨拶しな。1週間一緒に過ごすんだから」
「あ、えと。ぼく雄英高校ヒーロー科の緑谷。よろしくね」
そう言って、手を差し出した緑谷の股間を容赦なく殴って 彼は背を向ける。
「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねぇよ」
「つるむ!?いくつだ君!」
「マセガキ」
お前に似てねぇか、と轟が爆豪に言ったことで その場が騒がしくなってきた。
「…茶番はいい。バスから荷物おろせ。部屋に荷物運んだら食堂にて夕食。その後入浴で就寝だ。本格的なスタートは明日からだ。さぁ早くしろ」
ぎゃーぎゃーと騒ぎながら 食事をするなら 蛟が早々に箸を置いた。
わざわざよくいるメンバーと離れて 席に座った時から なんか変だとは思っていたが。
いや、バス降りた時から変だったか。
「おい、もう食べないのか」
「あ、」
空いている彼の前に座って、置いた箸を指差せば彼は笑った。
「どうした、なんかあったか」
「動いてないと、色々考えちゃって」
「…悩みか?」
どうでしょう、と彼は首を傾げた。
「お前がわからねぇんじゃ、俺もわからねぇよ」
「ですよね」
彼はそう言って、騒がしいクラスメイトたちの方を見た。
「ただ昔も、こんな風にご飯食べてたなぁって」
「…昔、か」
「最近よく思い出すんです。あの頃のこと。先生と戦ってから かなぁ」
嫌な思い出なのかそうじゃないのか。
彼の表情からは 読み取れない。
「…余計なこと考える暇ないくらいに、明日から忙しい。安心しろ」
「…そうですね」
▽
みんなが寝静まった夜中。
合宿場から出た俺は 何をするわけでもなく 草むらに座って 空を眺めていた。
最近ら昔のことを夢に見ることが増えた。
ある日は、奪われた日のこと。
またある日は、訓練を受けている日のこと。
またある日は、全てが燃えた日のこと。
ふわりと浮かび上がった血で人の顔を作り出す。
そして、また次の人を。
俺が共に育ってきた、彼らの顔だ。
「おい、蛟。こんなとこで寝る気か」
血で作り出した顔の横に並ぶ俺を見下ろす先生の顔。
「部屋で寝ろ。部屋で」
「眠くなくて」
「飯も食わず、寝ないってなったら お前倒れるぞ。また同じこと繰り返す気か」
言わんとすることはわかるけど。
「ねぇ、先生」
「なんだ」
「ヒーロー殺しって 意識も戻って 刑務所に入ったんですよね」
急にどうした、と彼が言う。
「会うことって、できたりするんですか」
「…プロヒーローなら、面会はできるかもしれねぇが。審査なり色々あるから、厳しいだろうな」
「そっか」
プロヒーローなら、会えるかもしれないのか。
「何で今更、ヒーロー殺しなんだ」
あんなに取り上げられた彼自身の話題も、今じゃすっかり見なくなった。
だが、俺の気持ちは日に日に強くなっていくのだ。
そして、迷いも強くなっていく。
自分がどうしたいのか、どうなりたいこか。
胸にあるこれが、一体何を意味してるのか自分でもわからないのだ。
「いや、思い出しただけです」
彼が刑務所から出てくることは、ないだろう。
「もう寝ろ。いいから」
「はーい」
血を瓶に戻して、合宿場の中へ入る。
やるべきことは、決まった。
会えないのなら 行けばいいんだ。
「俺のヒーローに、会いに行こう」
会ったらきっと、わからないこの何かがわかる気がした。
握りしめたネックレス。
自然と、顔は笑っていた。
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