名前を呼んでくれない

俺の知らない間に 肝試しをすることになっていたらしく。
補習組が抜けたあとに、割り振りのくじを引かされた。

「緑谷とか」
「よ、よろしく」
「よろしく」

彼と2人になるのは初めてだな、そういえば。
5組目の麗日、梅雨ちゃんがスタートしたとき 俺は首を傾げた。
また、知らない気配。
昨日相澤先生と話してるときにも見つけたものだ。
しかも…10人に増えてる。

「蛟くん、どうしたの?」
「いや、なんか…人が…」

違う、人だけじゃない。

「林が燃えてる!」

誰かが指差した方、空に上がる黒煙。

「何で…万全を期したハズじゃ…なんで!!」
「何で敵がいるんだよォ!!」

叫び声。
そして、現れた敵。
まさか、昨日の7人も…敵だったのか…?

「ピクシーボブ!」

やばい。
だめだ。
燃え盛る炎と立ち込める黒煙。
体の中の血がふつふつと湧き上がる。

「ご機嫌よろしゅう雄英高校!我ら敵連合開闢行動隊!」
「この子の頭潰しちゃおうかしら。どうかしら?ねぇ、どう思う?」

地面に倒れたピクシーボブに敵が武器を突きつける。

「待て待て早まるなマグ姉。生殺与奪は全てステインの仰る主張に沿うか否か」
「ステイン…!あてられた連中か!」
「そして、アァそう!俺はそうお前 君だよメガネ君。保須市にてステインの終焉を招いた人物。申し遅れた 俺はスピナー。彼の夢を紡ぐ者だ」

ステインの夢を紡ぐ…
ナイフを何個も固めて刀を作った彼が笑う。
何を馬鹿な。
炎のせいか、彼の名前を聞いたせいか。
自分の中で、何かがぷつりと切れた。

「お前が、語るな」

ずっと張り巡らせていた血を集め、スピナーと名乗った敵の首を締め付ける。
胸のペンダントを握りしめて、首の拘束を取ろうとする敵に蹴りを叩き込んだ。

「蛟くん!?」
「何をしているの!」

戦闘の許可は出ていないんだっけ。
いや、まぁいいや。
血液が沸騰しているみたいに 体内で泡立って 言うことをきかない。

「お前っ、ステインに、、助けられた…っ」
「あの人は、俺のヒーローだ。お前なんかが…汚していい…相手じゃない」

彼の首の締め付けを強くしようとした時、横からの衝撃。
もう1人の奴に 吹き飛ばされたようだった。

「委員長 引率!決して戦闘はしないこと!蛟くん!あなたもよ」

ここは私たちが押さえるから、と2人の声。

「何をしてるんだ、蛟くん。行こう」

飯田の声がどこか遠く聞こえる。

ニュースを見て知っていた。
彼の名を使い 悪さをする敵が増えていることを。
それのせいだ。
そんなニュースを日々見るようになったから、俺の思いが強くなっていくんだ。
だってそんなこと、許されていいはずがない。
誰にも汚させやしない。
彼の名を騙る者達も 排除すればいいんだ。

「…飯田くん。みんな、先に行ってて」
「緑谷くん!?何を言ってる!?」
「マンダレイ!僕 知ってます!!」

何を知ってるのかは わからなかったが 緑谷は真っ直ぐどこかへ走り出す。

気持ちがこんなにも落ち着かないなんて。
ペンダントを握りしめ、深呼吸を一つ。
だが、速くなった鼓動は変わらず 頭の中をチラつくのはあの日の炎。

「飯田。みんなを任せた」
「何言ってるんだ!」
「緑谷を1人では行かせられない。追いかける」

勝手な行動はするな!という声は聞こえないふりをした。

炎が奪っていった。
全て。
俺を俺たらしめたものを 全て。

走り出して、緑谷を追いかけるが 森の中 足を止めた。
みんなそれぞれ会敵してしまったようだが 数名 位置も変えずにいる奴らがいる。

彼らの目的はなんだ?
殺すこと?
オールマイトが狙いじゃなかったのか?
狙いを俺たちの中の誰かに変えた?
この火事は 故意か?
故意なら、個性で?

あぁ、ダメだ。
昼の特訓のせいか、この火事のせいか今日は頭が回らない。

「あー考えるのはやめよう。もういいじゃん」

とりあえず、炎の方へ行こう。
これ以上は、燃やされたくない。
炎のある方にいる動かない2人。
それがきっと、炎の原因だ。





「あーダメだ!荼毘!!お前!やられた!弱!!ザコかよ!!」
「もうか…弱ぇな 俺」
「ハァン?!バカ言え!結論を急ぐな。お前は強いさ!この場合はプロがさすがに強かったと考えるべきだ」

感情が、忙しい奴だ。

「もう一回俺を増やせトゥワイス。プロの足止めは必要だ」
「ザコが何度やっても同じだっての!!任せろ!!」

なるほど、そういうことか。
聞こえてきた声。
そして、目の前に現れた 少年。

「…人数が変わるのは、そういう手口か」

トゥワイスの分裂を見ながら 彼は笑った。

「1人で飛び出してきたのか!バカめ!殺してやる!カッコイイじゃねぇか!」
「まぁ、待てよ。欲しいやつが自分から来てくれたんだ」

欲しいやつ?と彼が呟く。

「蛟 血郷。で、間違いないか?」
「…だったら?」

今回の狙いのうち、片方が自ら単身登場してくれるとは ありがたい。

「一緒に来い。怪我したくなけりゃ 素直に応じろ」
「誰が行くかよ」
「そうだよな」

じゃあ仕方ないと彼に向けた炎。
だが、それは血で防がれた。

「炎だ」

彼が笑う。
クスクスと口を押さえて、何が面白いのか。
何笑ってんだ、とトゥワイスがいうとそっちの人はうるさいよ、とどこからともなく湧いた血がトゥワイスを拘束する。
そして、俺を見て笑った。

「炎は好き?」
「は?」
「お兄さんは 炎は好き?」

急に距離を詰めて来た彼にもう一度攻撃をする。
また、血で防がれると思ったのに彼は迷わず突っ込んで来た。

「俺はね」

首を掠めた血のナイフ。
完全に殺しにきてるな。

「俺は、大嫌い」

クスクスと彼が笑う。
雄英の体育祭で見た彼とは 何かが違う。

「だからね、止めなくちゃ。燃えちゃうから 全部」
「止められると思ってるのか?」
「止めるよ。だって、また。奪われるのは嫌だから」

また?

「もう一度 作り直すのは面倒だし。やっと上手く出来てきたのに」

何の話をしているんだ、こいつは。

「誰にも知られず、消えていくのは悲しいんだよ。知ってる?」
「何の、話を!?」

攻撃の手を緩めない彼。
だが、話してる内容は 意味がわからない。

「誰も俺を知らないんだよ。全部燃えたから」
「は?」
「誰ももう、俺の名前を呼んではくれない」

急に無表情になった彼。
何だこいつ。
なんで、こんなのを欲しがってるんだ。
わからないけど、とりあえず。
戦うしか方法はない。

「殺していいよね?俺に攻撃してきたんだもん。殺して、あげなきゃ。ねぇ?」




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