たすけてあげたかった

気付けば知らない床に転がっていた。

「おい、起きろ。」

聞こえる声。
声の方に視線を向ける。

「ばく、ごう…」
「ようやくお目覚めか」

体を起こそうとするが、皮膚が引っ張られるような感覚に邪魔をされる。

「さっさと、起きろ。スカし野郎」

ここ、どこだ。
無理矢理体を起こされ、見えた景色に 頭が追いつかなかった。
焼け焦げたシャツと火傷だらけの体。
皮膚が引っ張られる感覚は、おそらくこの火傷のせいだ。

「覚えてるか?蛟。俺と戦っていたこと」

俺の触れたツギハギな手。

「…負けたのか」
「そういうことだ」

ニィ、と彼が笑う。
確か 荼毘と 呼ばれていたはずだ。

「まぁ、健闘したほうだぜ?3対1まで もつれ込んだんだから」

そうだ。
こいつと戦っていて、急に意識がなくなったんだ。
3対1ということは 後から来た1人に やられたのだろう。
索敵を怠った、自分のミスだ。

バーのような薄汚れた場所で、テレビに流れるのは相澤先生や校長の姿だった。

「不思議なもんだよなぁ…何故、ヒーローが責められてる!?奴らは少ーし対応がズレてただけだ!守るのが仕事だがら?誰にだってミスの一つや二つある!」

彼はあの時みたいに、演説するように両手を広げた。

「お前らは完璧でいろって!?現代ヒーローってのは堅っ苦しいなァ爆豪くんよ」
「守るという行為に対価が発生した時点で ヒーローはヒーローでなくなった。これがステインのご教示!!」

体が 咄嗟に動いた。
スピナーの首を絞めた両腕。

「同じことを、言わせるな」
「っは、まだ動けんのかよ。その体で」

荼毘が俺の体をスピナーから、引き剥がして 抑え込んだ。
落ち着け、と彼が耳元で囁く。

「人の命を金や自己顕示に変換する異様。それをルールでギチギチと守る社会。敗北者を励ますどころか責めたてる国民。俺たちの戦いは問い。ヒーローとは正義とは何か。この社会が本当に正しいのか一人一人に考えてもらう。俺たちは勝つつもりだ」

弔の言葉なんかどうでもいい。
頭の中に、一文字も入って来やしない。

「君も勝つのは好きだろ。荼毘、蛟を離せ。先生の客人だ。それから、爆豪の拘束も外せ」
「暴れるぞこいつら」
「いいんだよ対等に扱わなきゃな。スカウトだもの。それに、この状況で暴れて勝てるかどうかわからないような男じゃないだろ?雄英生」

いやに大人しくしている爆豪の拘束が外される。
俺と爆豪は 攫われた理由が違うのか?

「強引な手段だったのは謝るよ…けどな、我々は悪事と呼ばれる行為にいそしむただの暴徒じゃねぇのをわかってくれ。君を攫ったのは偶々じゃねぇ」
「ここにいる者は事情は違えど、人に ルールに ヒーローに縛られ…苦しんだ。君たちならそれを…」

歩み寄っていく弔を爆豪は 爆破させた。

「黙って聞いてりゃダラッダラよォ…馬鹿は要約出来ねーから話が長ぇ。要は嫌がらせしてぇから仲間になって下さい だろ!?無駄だよ。俺はオールマイトが勝つ姿に憧れた。誰が何を言ってこようが そこァもう曲がらねぇ」

その衝撃で 吹き飛ばされた弔の顔を隠す手。
頭をぶん殴られたような 気分だった。
冗談だろ。

「っは、はははっ」
「蛟?」
「そういうことか。そーいうことかよ」

笑いが止まらない。
だってそうだろ。
知らないはずがないんだ、目の前にいるこの男を。

「やっと、見つけた…」
「荼毘が燃やし過ぎたせいで、頭イっちゃってない?この子」
「俺のせいかよ」

おい、大丈夫かと 俺に触れた荼毘の手。
その手を払って、胸のペンダントを握った。

「おい、頭冷やせ。血郷」

容赦なく叩かれた頭。
痛いなぁ、と呟きながら 爆豪を見る。
心配そうな目をしている。

「ま、そういこったクソカス連合!」
「その気がねぇなら懐柔されたフリでもしときゃいいものを…やっちまったな」
「したくねーモンは嘘でもしねぇんだよ俺ァ。こんな辛気くせーとこ長居する気もねぇ」

俯いていた弔がこちらを睨み、地面に落ちた手を拾った。

「手を出すなよ…お前ら。爆豪は大切なコマだ。出来れば少し耳を傾けてほしかったな…君とはわかりあえると思ってた…」
「ねぇわ」
「仕方がない。ヒーロー達も調査を進めていると言っていた…悠長に説得してられない。先生、力を貸せ」

バーカウンターの奥の画面から 声が聞こえた。

「良い判断だよ。死柄木弔。それから、やっと会えたね。蛟 血郷くん」

誰だ。
やっと会えた?

「てめぇがボスじゃねぇのかよ…!白けんな」
「黒霧 コンプレス。また眠らせてしまっておけ。ここまで人の話聞かねーとは 逆に感心するぜ。蛟は、先生のとこへ連れて行く」
「聞いて欲しけりゃ 土下座して死ね!」

そんな時ノックの音。

「どーもォピザーラ神野店ですー」

そんなの空気を壊す声の直後破壊された壁。

「黒霧!ゲート!」
「先制必縛」
「木!?んなもん…」

目の前になだれ込んでくるヒーロー達。

「もう逃げられんぞ敵連合。何故って!?我々が来た!」

オールマイト…
救助ってことか…
外にはエンデヴァーもいるとオールマイトが言う。

「怖かっただろうに…よく耐えた!ごめんなもう大丈夫だ 少年!」
「こっ怖くねぇよ ヨユーだ!クソッ!」

オールマイトが俺を見て 辛かったねと 言った。

「せっかく色々こねくり回してたなに何そっちから来てくれてんだよ ラスボス。仕方がない」

持ってこれるだけ持ってこいと言う弔の指示に返事はない。

「すみません。所定の位置にあるはずの脳無が…ない」
「やはり君らはまだまだ青二才だ。敵連合よ、君らは舐めすぎた。少年の魂を 警察のたゆまぬ捜査を 我々の怒りを!!おいたが過ぎたな ここで終わりだ 死柄木弔!!」

脳無の保管場所が 潰されたのだろう。
ここからでも感じる 弔の苛立ち。

「終わりだと…ふざけるな…始まったばかりだ。正義だの平和だのあやふやなもんでフタされたこの掃き溜めをぶっ壊す。その為にオールマイトを取り除く。仲間も集まり始めた。ふざけるな…ここからなんだよ…」

黒霧と呼ぶが彼は呻き声をあげて 項垂れる。

「大人しくしといたほうが身のためだぞ」

グラントリノが敵連合の奴らの名前を読んでいく。

「少ない情報と時間の中おまわりさんが夜なべして素性をつきとめたそうだ。わかるかね?もう逃げ場ァねぇってことよ。なぁ死柄木。聞きてえんだが、お前さんのボスはどこにいる?」
「ふざけるな。こんな…こんなァ…こんなあっけなく。ふざけるな 失せろ 消えろ…」
「奴はいまどこにいる 死柄木!!!」

お前が嫌いだ、と弔が叫ぶ。
そして、急に湧き出て来た脳無。

「お゛!!?」
「っなん、飲まれ!?」

何かに飲み込まれた体。
そして、気づいたら違う土地にいた。

「なんだ、これ」

ばたばたと 落ちてくる敵連合のメンバーと爆豪。

「また失敗したね 弔。でも決してめげてはいけないよ。また、やり直せばいい。こうして仲間も取り返した。この子もね…君が大切なコマだと考え判断したからだ。いくらでとやり直せ。その為に 先生がいるんだよ。全ては 君のためにある」

あれが、先生…?
顔を隠した それは ゆっくりと俺に近づいてきて 俺の前に膝をついた。

「やっと会えたね」

彼の手が頬に触れる。

「こんなに、傷だらけになってしまって。こんなに、壊れてしまって…もっと早く、見つけてあげれたらよかったね」
「なにを、言って…」
「そうすれば 奪われることもなかった。君の感情も君の感覚も。君の大切な 過去も」

そして、抱きしめられた。
体が全く 動かない。
なんで知ってるんだ。
なんで。

「君もたすけて あげたかったんだ。志村転馬くん」


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