またね、

「なんで…その、名前…」
「君は…転弧を、覚えててくれたんだね」

そう。
覚えていたさ。
素顔を見て、すぐに思い出した。
俺の失われた過去。
あの日、炎に燃やされた大切なもの。

「やっぱり、弔は…」
「君の考えてる通りさ。弔は志村転弧だ」

あぁ、やっぱり。
そりゃ血の味を覚えているさ。
忘れるはずがないんだ。
ずっと、ずっと…会いたくて。
仕方がなかった人なんだから。

抱き締められた肩越しに 弔と目が合う。
忘れられていたって、構わない。

「転弧…兄、さん」

失ったはずなのに、頬を伝った涙。
悲しいのか嬉しいのか。
たった一粒。
それでも、間違いなく俺の感情だった。

「泣かないでおくれ。ゆっくり話せるのはここまでだ」

先生が、俺の体を離して 距離を置いた。

「やはり来てるな」
「全て返してもらうぞ オール・フォー・ワン!!」
「また僕を殺すか。オールマイト」

先生と俺の間に立ったオールマイト。

「遅かったじゃないか。衰えたね オールマイト」
「貴様こそ。なんだその工業地帯のようなマスクは!?だいぶ無理してるんじゃあないか!?」

ダメだ、何も頭になんか入ってこない。
だって、そうだろ?
もう呼ばれないと思っていた名前を 呼んでくれたんだ。
炎に燃えた俺の過去を、彼が。

2人の戦闘が始まる。
聞きたいことは、まだあるのに。
どうして、俺らは捨てられたの?
どうして、俺だけ アテネに入れられたの?

「ここは逃げろ 弔。その子たちを連れて。黒霧みんなを逃すんだ」

気絶している黒霧の個性が強制的に発動させられる。

「さあ 行け」
「先生は…」
「常に考えろ 弔。君はまだまだ成長できる」

弔が膝をついて、先生を見つめる。

「行こう死柄木!あのパイプ仮面がオールマイトをくい止めてくれている間に!コマと客人を連れて」
「めんっどくせー」

爆豪が地面に座り込んだままの俺の腕を引く。

「立て!何言われたかしらねぇが、逃げるぞ」





バーで目を覚ました時からそうだ。
様子がおかしい。
それに痛々しいまでの火傷。
放っておいたら手遅れになるレベルだ。
それなのに彼は 何食わぬ顔。
だから言ったんだ、死ぬなよって。
薄々感じていた、こいつには痛覚がない。
バスで彼の腕を掴んだ時も訓練の後の顔の傷にも 何も感じていなかった。
風呂でも、背中の傷だけ 治されてなかった。
もっと、気にかけていればよかった。
こんなことになる前に、もっと。

「血郷!!」

名前を呼んでも、反応はない。

「いい加減!!目ぇ覚ませ!!!」

力一杯叫んだ声。
彼が少しだけ、肩を揺らし こちらを見た。
無理だな。
動ける状態じゃない。
俺らがここにいちゃ、オールマイトは満足に戦えないし。
だが、敵連合も緊急事態。
さっきまでと違って強引にでも連れて行く気だ。
6対1。
しかも、こいつを守りながら。

どうする。どうする。
頭をフル回転させても、なんも浮かびはしない。
そんな時 視界の端に映ったもの。
なんで、こんなところに。

「来い!」

伸ばされた切島の手。
そして、背後から迫る 弔の手。
選択肢はない。

「受け止めろ!」

血郷を空に放り投げ デクが抱え込むのを確認し、自分も 爆風で浮かび上がり切島の手を掴んだ。

「バカかよ」

一瞬、力なく項垂れる血郷がなにかを言った気がした。

「爆豪くん俺の合図に合わせ爆風で…」
「てめぇが俺に合わせろや」
「張り合うな!こんな時にぃ!!」





ねぇ、届いたかな。
逃げる瞬間、爆風にかき消されたかもしれないけど叫んだ名前。
またね、転弧兄さん。
今度は俺を、思い出してね。

「血郷!?お前、大丈夫か?」
「…なに、が?」

鋭児郎の言葉に首を傾げる。
爆豪がお前は何も言うなと俺を制した。

「座っとけ…すぐ、救急車呼ぶから」
「救急車…?」

なんで、と思いながらも言われるがままにそこに座り込む。
座ったのか、崩れ落ちたのか わからないけど。
見上げて見えたのはオールマイトと先生の 戦い。
目が霞む。
それでも、画面の中の彼の姿は何故だかよく見えた。

忘れていた。
オールマイトは終焉に近づいていたこと。
あのヨボヨボな姿が 画面に映されていた。

「そんな…ひみ…つ…」

緑谷も、知っていたのか。
あの、姿を…

ぼろぼろな彼に 画面を見つめる一般人たちが言う。
負けるな、と頑張れ、と。

「「勝てや!!オールマイトォ!!!」」

そして、緑谷と爆豪も叫んだ。
オールマイトは、彼らにとってヒーローなのだ。
俺にとってのステインのように、何物にも代え難いヒーロー。

あぁ、やばい。
画面が見えなくなってきた。
瞼が落ち、体の力が抜ける。

「次は 君だ」

そんな言葉が 聞こえたような気がした。





呼んだはずの救急車は到着しない。
これだけの混乱の中じゃ仕方がないのかもしれないが。
意識を失った血郷は、多分一刻の猶予もない。
近くで誘導をしていた警察に自分たちが逃げてきたことと、血郷の怪我のことを伝え俺と血郷は救急車で病院に運ばれた。
血郷はすぐに手術室に運ばれ 比較的軽傷だった俺は 事情聴取を受けた。
それが終わった頃父親と母親が俺のことを迎えにきて、何馬鹿なことしてんのと 容赦なく頭を叩かれた。

「帰るわよ」
「…血郷んとこ、行っていいか」

事情聴取が終わった頃、刑事が血郷の手術が終わったことを教えてくれた。
病室のベッドで 眠る彼。
頬は 痛々しい火傷の跡が残っている。

「この子が血郷くん?」
「あぁ…」
「親御さんは、きてないの?」

わからないんです、と教えてくれたのは 事情聴取をしてくれた刑事だった。

「一応、学校の先生が来ることになっています。爆豪君。君はまず、安全に家に帰って ゆっくり休むんだ」
「…はい」

管に繋がれたら彼の手に触れる。

「ごめんな、また会いに来る」





言葉なんか出てこなかった。
ベッドの上 眠る彼。

広範囲の火傷だが殆どが比較的軽度の火傷。
だが、部分的に重傷化した火傷もあり皮膚の移植を行った部分もあること。
そして、ケロイドやひきつれが生じるであろう部分もあると医師は教えてくれた。


「リカバリーガールでも、」
「厳しいと思います。治癒ができるようになるまでいつ体力が戻るか…。まず、意識が戻るかどうかも…」

もっと、強く言っておけばよかった。
お前は聞かないからと、諦めるべきじゃなかった。

あの日。
緑谷を追ったと飯田に聞いたが、緑谷は蛟と合流はしておらず。
遠く離れた場所で 彼の血の瓶だけが見つかった。
爆豪が警察に話した 話では荼毘と呼ばれたメンバーと戦闘後 3対1まで もつれ込み。
爆豪と同じように攫われた。
荼毘。
俺が相手をした 偽物。
それの、本体と戦っていたんだ。

「蛟、、」

痛々しい 頬の火傷。

「すまない」

後悔と罪悪感しか なかった。
握りしめた彼の手が、俺を握り返すことはない。

「……死ぬな、戻ってこい」


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