強くなるよ

通院と事情聴取を終えて、寮へ戻った頃にはもう 夜になっていて。
そして、何故か 寮の前で 梅雨ちゃんが泣いていた。
それの周りに 何人か人がいる。

「どうして泣いてるの?」

梅雨ちゃんを慰める彼らに声をかければ、ピタリと彼らの動きが止まる。

「…血郷、」
「女の子泣かせちゃダメだよ。みんな」

大丈夫?と梅雨ちゃんの頭を撫でれば 何故か彼女の瞳が 止めどなく涙が溢れてくる。

「血郷、くん」
「なぁに?」
「蛟くん!!」

え、何。
振り返れば、緑谷も鋭児郎も飯田も麗日も八百万も目に涙を浮かべていて。
焦凍だけは、顔を背けてしまっていた。

「なんでみんな泣くのさ。せっかく帰ってきたんだから、笑ってくれればいいのに」
「血郷!!!」

俺に抱きついた鋭児郎が 良かった 本当に良かったと小さな声で 何度も何度も呟く。
そんな彼の頭を撫でながら、笑った。

「心配かけて、ごめんね。俺はもう平気だよ」
「血郷ー!!!!」
「あーもう、泣くなって 鋭児郎」

ただいま、と笑えば お帰りと 涙を浮かべがら 彼らは笑ってくれた。

「ほら、鋭児郎。おかえりって笑ってよ」
「っ、お、かえり」
「あーぁ、いつものかっこよさはどこに置いてきたのさ」

結局その後も 寮に入ればみんなに泣かれてしまったのだが。
それから、怪我の心配もされた。
まぁ、それも 大丈夫だよと 答えるしかなかったのだけど。

「もう、寮には入ってるのか?」

焦凍の言葉に俺は頷く。

「退院した日に、色々あって。部屋は4階の1番奥」
「…て、ことは。爆豪の隣か」
「あ、そなんだ」

やっと落ち着いてきたロビーでそんな話をしていれば、焦凍は少し気まずそうに視線を逸らした。
戻ってきて、会った時から思ってたけど。
なんか、変なんだよね。

「焦凍の部屋は?」
「5階だ」
「行っていい?」

数秒の間。
そして、彼は頷いた。

「疲れたから俺、先に寝るね」

そう声をかけて、エレベーターに向かえば一歩後ろを彼が追いかける。

何だろ?
火傷で嫌なこと思い出したかな。
それとも、

エレベーターに乗り込んで、彼を見れば顔を俯かせ肩が震えていた。

…なるほどね。

「焦凍、」
「っなんだ」
「もう少し我慢して」

彼の手を掴み、轟とネームプレートのかかる部屋のドアを開けた。

フローリングの部屋のはずが、何故か畳になっている。

この部屋だけ、リフォームしたの?
嘘でしょ。
まぁ、それは後でいいか。

ドアの前、俯いたままの彼をとりあえず抱き寄せる。

「泣くの我慢してたの」
「うるさい」
「だから、俺の顔見なかったんだ」

うるさい、と言う割に 彼の手は指が白くなるほどに俺のシャツを握りしめていた。

「いな、かった」
「なに?」
「誰も、お前が 生きてるのか 死んでるか 知ってる奴が…いなかった」

攫われた時のことだろう。
爆豪は焦凍たちの前で攫われたんだっけ?
だから、助けに来てた。らしい。
あんまり、あの時のことは覚えてないけど。
オール・フォー・ワンとの会話の後は、記憶がぼんやりしているし。

「手がかりも、なくて。もう、本当に会えないのかと…思ってた」
「ちゃんと帰って来たじゃん」
「こんな、傷だらけでな」

涙で濡れた目が俺の顔を映した。

頬に広がる火傷。
彼の目には、他の人たちよりも痛々しく映るのかもしれない。

「腕も、体も…消えない傷が残って…」
「みんな気にしすぎだって。これぐらいべつに」
「また。救えなかった。今度こそ、手遅れになるかもしれないって」

あの日と、重ねていたのかもしれない。
ヒーロー殺しの一件と。

「俺が、そばにいれば。お前を!」
「焦凍。意味のないたらればは やめよう。俺は生きてここにいるから。傷跡はまぁ、残るけど。命があっただけ 良かったんだよ」
「…次は、ないからな」

彼はそう言って俺を睨んだ。

「約束は、出来ないよ。俺は…ヒーローになるから」
「っ、わかった…だったら、俺が。お前を守る」

焦凍はそう言って、俺から離れた。

「親父は関係なく。俺が、そうしたいから。お前のそばにいる」
「…過保護だなぁ」
「あんな思いは、もうしたくないんだ」

決意は固そうだった。
真っ直ぐな彼の目に、俺は笑う。

「守られないくらいに、強くなるよ」

彼を怒らせずに 言える言葉はそれくらいしか浮かばなかった。

部屋に戻ってから、ふと思い出した。
病室に飾られていた花。
クラスの人たちも人使も持って来ていないと 教えてくれだ。
だけど、看護師さんが言うには いつも飾られていたらしい。
だが、持ってきている姿を見たことはないのだと。

「誰だったんだろう…あの花」

ここのメンバー以外、俺のお見舞いに来るような人は いないのに。





「あれ、なんだ」

いつもの病室はもぬけの殻。

「退院したのか?」

あれだけの火傷で、目を覚ましたのだろうか。
それとも、死んでしまったのか。

「…まぁ、生きてりゃ また会えんだろ」

手に持っていた花を 燃やして ふっと笑みを浮かべる。

「あーぁ、けど。渡しそびれたな」

ポケットの中の黒い小さな箱を開ける。
あいつに似合うと思ったのに、残念だ。
あの綺麗な顔に俺がつけた火傷の跡があるだけで、気分はいいけど。
どうせなら、目を覚ます前にこれをつけてやりたかった。

「また、会おうな。血郷」

その時は、これをあげよう。
後ろに黒霧のワープゲートが開いて、中に戻る。

「また、行ってたのかよ」

弔の言葉に 俺は笑った。

「気に入ったんだ。あいつが、欲しい」
「…先生との、約束だ。時期がくれば 迎えに行く。確かめなきゃなんないことも、あるしな」
「早く、会いたいなぁ」

目の下の 色の変わった皮膚を指で撫でる。
君に次会えるのは、いつだろうか。
俺が迎えに行くまでは、生きて待っていてろよ。


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