人にはなれない
背服に着替え また別の会場へ移動する。
その間、焦凍は一言も発することはなかった。
『皆さま長いことお疲れ様でした。これより発表を行います。とりあえず合格点の方は五十音順で名前が載っています』
採点方式は 二重の減点方式…
画面に表示された名前。
合格した人、90人近いな…
自分の名前を見つけ、周りでA組のメンバーが喜ぶのが見える。
俺の隣に立つ焦凍の名前は…ない。
そして、爆豪のも。
「轟!」
近づいたきた 夜嵐。
彼の名前もまた、合格者の中にはなかった。
「ごめん!あんたが合格を逃したのは俺のせいだ!俺の心の狭さの!ごめん!」
額を打ち受けて、頭を下げた彼。
焦凍は静かに 口を開いた。
「元々俺がまいた種だし…よせよ。お前が直球でぶつけてきて 気づけた事もあるから」
焦凍と爆豪が落ち、クラスのメンバーがざわつく。
空気を読まず、からかう峰田を飯田が 止めた。
『続きましてプリントをお配りします。採点内容が詳しく記載されてますので、しっかり目を通しておいてください。ボーダーラインは50点です』
蛟くん、と渡された紙。
得点は97点。
減点された項目を確認しながら 首を傾げる。
減点方式。
ボーダーは50点。
なのにどうして、それを切った段階で 退場させないんだ?
緑谷も同じことを考えているのか 目が合い 何かおかしくないか と言葉を交わす。
『合格した皆さんはこれから緊急時に限りヒーローと同等の権利を行使できる立場となります。すなわち敵との戦闘 事件は事故からの救助など ヒーローの指示がなくとも君たちの判断で動けるようになります。しかしそれは君たちの行動1つ1つにより大きな社会的責任が生じるということでもあります』
長ったらしい説明を聞きながら、プリントを折りたたむ。
オールマイトがいなくなり、世間は荒れる。
そして、先の事件で 欠けることなく逃げた敵連合。
ここからが、大変になるんだろう。
『そして…えー不合格となってしまった方々は三ヶ月の特別講習を受講の後個別テストで結果を出せば仮免許を発行するつもりです』
なるほどね。
選別して残した100名は 大事に育てたいのか。
合格者を少なくした分 一人一人のレベルが高くなる…と。
当然 お願いします!と答えた彼ら。
焦凍はこちらを見て ごめんと一言呟いた。
「何に対して?」
「今はまだ お前を守れない。だから、すぐに。追いつく」
「守らなくていいってば」
発行された仮免許を財布にしまい、待っている相澤先生の元へ行く。
その隣には あの女の先生。
「せっかくの機会だし 今後合同の練習でもやれないか」
「ああ…それいいかもな」
なんだかんだ 仲良いのか。
「蛟」
「真堂さん」
笑顔で差し出された手。
「あれ、もう作り笑いじゃないんですね?」
笑いながら その手を握り返す。
「受かればいいんだよ。連絡先交換しないか」
「え、なんでですか?」
「興味があるから。色々、話しさせてほしいし」
最初は 俺たちを潰す気満々だった目が 今はもう違う。
断る理由もなくて 連絡先を交換すればじゃあ またな!と手を振って 彼は帰っていく。
そして、騒がしく 駆け寄ってきた夜嵐。
「轟!また講習で会うな!けどな!正直まだ好かん!先に謝っとく!ごめん!」
「こっちも善処する」
「…変なやつ」
だが、焦凍の表情はどこか 穏やかな気がした。
エンデヴァーの息子。
ただ 拾われた俺とは違う 重荷があるんだろう。
俺のように いらないからと 捨てられない。
それが 血の繋がりだ。
「家族の尻拭いは 家族がしなくちゃいけないもんね」
「なにか言ったか?」
相澤先生が女の人との話を終えていたようで、こちらを見た。
「いいえ、なんでもないですよ」
「…そうか。怪我は?」
「1つもないです」
ならいい、と彼は笑った。
うん。
最近 特に過保護になってきているな。
▽
その日の夜。
人使と 電話をしていた。
「とりあえず、一歩前進かな」
『よかった。怪我はない?』
「そこは問題なく。みんなそればっかり」
そりゃそうだろ、と電話の向こうの彼が笑う。
『あんな姿 もう誰も見たくないだろ』
「そういうもんかね。それよりさ、明日から学校じゃん」
『そうだな』
またご飯一緒に食べようよ、と言えば 血郷が一人ならなと 彼は言った。
「……あれ?」
『どうかしたのか』
隣の部屋のドアが開く音。
爆豪、こんな時間になにを…?
そして、少しし外に出てきた爆豪とそれを追いかける緑谷。
なんか、嫌な予感がする。
緑谷に対して、変だったし。
試験にも落ちてしまった。
まず、最近の彼は いつもと違った。
「んー…ちょっと。」
『もう遅いし、電話切ってもいいよ』
「ごめんね。わざわざ電話くれたのに」
話したかったのは俺だから、と彼は 小さな声で言った。
「ありがとう。俺も、声聞きたかった」
『やめろ、すぐそういうこと言うの』
「本心だよ。それじゃあ、おやすみ」
電話を切って、部屋を出る。
下手に俺が首を突っ込んでいい話だとは思わないけど、なんか嫌な予感しかしない。
寮を出て、教員寮へ向かい 相澤先生の部屋のドアをノックした。
「こんな時間になんだ…」
出てきた髪を結わいた先生が目を丸くする。
「おい、なんでこんな時間に出歩いて…」
「爆豪と緑谷が 出てった」
「は?」
電話をしていて、偶然見たと伝えれば 先生は部屋に戻り おそらく監視ロボに声をかける。
「グラウンドβニテ1年A組ノ生徒2名時間外活動確認」
「まじかよ…一体なにを…」
先生は額に手を当て、ため息をついた。
「蛟。あとで部屋まで送るから俺の部屋で待ってろ」
「え、すぐそこだし別に」
「いいから。お前が一人でいるのがロボに見つかったまた面倒だろ」
先生の言うことは一理ある。
はい、と仕方なしに答えて 先生の部屋に入った。
先生のデスクのパソコンはまだついている。
こんな時間まで、仕事してたのか…
▽
爆豪と緑谷にそれぞれ謹慎を言い渡し、溜息をつく。
爆豪がオールマイトさんの引退に負い目を感じていたとしたら 蛟もそうであっても おかしくはない。
目を覚ましてからは 前以上に 真剣に打ち込んでくれてはいるが。
無理をしていたり、するのだろうか。
可能な限り 気にかけてはいるつもりだが 彼が胸中を明かすことはない。
自室のドアを開ければ床に倒れる蛟の姿。
まさか、と駆け寄れば ただ眠っているだけのようだった。
「なんでわざわざ床で寝る…」
まさか、普段もこうなのか?
思えば、彼の家には生活感が感じられなかった。
家から持ち込んだ荷物も必要最低限あるかないか。
ソファベットはあったが、こいつなら床で寝てるなんてこと やりかねないな。
頬には痛々しい火傷の跡。
そして、シャツから覗く腕には 移植の跡とケロイド。
「ヒーローは、諦めろ…」
そんな言葉を、俺はきっと言えないだろうな。
痛みがわからない部分を補うために 新しい技を考えている姿を見てきた。
それに、今日の試験。
彼は 最高得点だった。
ジョークも言っていた。
現場での判断だけじゃない。
周りへのフォローも一年生とは思えないと。
そして、なによりも 避難と戦闘、フォローそれをいっぺんに行う能力がすごいと。
彼の目に、現場はどう映っているんだろうと不思議そうにしていた。
ヒーローになるべき才能と能力。
だが、ヒーローには向いていない彼の体。
眠る彼の火傷を撫でて、溜息をついた。
「血郷…」
生徒を名前では呼ばない。
だが、自然とこぼれた彼の名前。
「…生きてくれ、」
それが何よりもの 願いだった。
起こすのも忍びなく、彼を自分のベッドに寝かせて やっていた作業に戻る。
明日の朝 寮へ戻ればいいだろう。
▽
ーーー燃えていた。
目が眩むほどの 炎。
「可哀想な私の可愛い子供達。可哀想なBloody」
Motherはそう言って笑って、私の頬を撫でた。
「あなたも、私と同じ道を歩むの。あなたは 人にはなれないわ」
炎の中 跳ねた 赤色。
そして、自分を遺して燃えていく。
真っ赤な炎に包まれていった。
「っ!!?」
また、この夢だ。
早くなった鼓動を落ち着かせるように 大きく息を吸って吐き出す。
「…大丈夫か?」
急に聞こえた声に、俺は固まった。
寝袋に包まれた先生が ベッドサイドに立ち、俺を見下ろしている。
なんで、先生がいるんだ…?
てか、ここ…
眠気でぼんやりする頭で周りを見渡して、ここが自室でないことに気づく。
「あ、あのまま寝たのか…俺」
「あぁ。起こすのもあれかと思って ほっといた」
「…そこは起こしてください…」
時計を見れば 先生の部屋に訪れてから 3時間くらい。
外は薄ぼんやりとしている。
「うなされてたけど、大丈夫か」
先生が俺の方に手を伸ばす。
それが、あの光景と重なって 咄嗟に避けたしまった。
目を丸くする先生に 大丈夫です。すいませんと言って じんわりの滲む額の汗を拭った。
「…よく、あるのか」
「ないとは、言わないです」
曖昧な返事。
だが、彼はそうかと頷いた。
夢見が悪いのも昔からだ。
ここのところ特に、あの日のことを夢に見て 目覚める。
だから眠るのは、あまり好きじゃなかった。
あの日も、目を覚ました時には 壊れてしまっていたから。
「…もう少し、眠れる時間あるけど。起きるか?寝れそうなら 寝たほうがいい」
「少ししたら、寝れると思います。先生は 寝てて大丈夫です。起こしてしまって、すいません」
「そうか。大丈夫だよ」
少しして、床に横になった彼の方からは寝息が聞こえてくる。
眠かっただろうに、起こしてしまって 申し訳ない。
俯きながら、腕の火傷を撫でる。
「マザー」
俺を育ててくれた女性。
優しくて いつもニコニコしてた。
そして、奪った張本人。
けど 彼女を恨んでたわけじゃない。
大切に育ててもらっていたし、この個性をちゃんと使いこなせる頭は あそこでの勉強で出来上がったもの。
戦闘訓練だって、今に生きている。
あの日を迎えるまでは、あそこは 俺の家だった。
「あなたは…俺を、恨んでいますか」
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