彼のこと
朝。
出勤する先生と共に、教員寮を出た。
心配そうな彼に大丈夫ですよと答え 寮の前まで送ってくれたことに礼を言う。
「寝れないのが続くようなら、相談しろよ」
「はい」
先生が歩いていくのを見送り、中へ入れば目を丸くさせて俺を見る爆豪と緑谷。
しかも、なぜか掃除をしている。
「おはよう」
「おはよう、蛟くん」
「…はよ」
二人の顔は傷だらけ。
喧嘩でもしたんだろうな。
だが、爆豪の表情はすっきりしているから いいか。
「こんな朝早くに どこ行ってたんだよ」
爆豪のその言葉に お散歩?と曖昧な返事をした。
「つーか、おまえ。部屋にいたか?」
「え、なんで?いたけど」
「いつも4時とか5時にベランダ出る音すんのに。しなかった」
そんなの気づいてたの?
いや、隣の部屋だから聞こえるのか?
「それはなんか、いつもごめん」
「うるせぇわけじゃねぇけど」
「今日は目が覚めなかったんだよ」
納得いかなそうな爆豪に笑いかけて 部屋に戻る。
てか、なんで掃除してたんだろ?喧嘩した罰とかかな?
制服に着替えて 準備を済ませて降りれば案の定2人はみんなにからかわれていた。
「喧嘩して謹慎って、ガキかよ」
鋭児郎が隣で笑う。
「確かに。けどさ、なんか 初めてじゃない?」
「なにが?」
「爆豪まで 怪我してんじゃん」
わからないって顔を彼はする。
「今までなら 喧嘩ふっかけても緑谷が 謝って終わりだったじゃん。今回は、向かっていったんだなって」
「あ、確かに」
「ちゃんと向き合えたんなら いい傾向じゃね?」
大人だな、お前。
なんて 彼の言葉に笑う。
「そんなことないよ」
夏休みが終わり、今日から学校が始まる。
今回はちゃんと始業式に出るようで 並んでグラウンドへ移動していた。
「聞いたよーA組ィィ!2名!そちら仮免落ちが2名も出たんだってぇぇ!?」
「B組の物間。相変わらず気が触れてやがる」
「さてはまたオメーだけ落ちたな」
そういえば散々絡む割に彼は 合宿での補講組だったらしい。
腹を抱えて笑って、彼はくるりと背を向ける。
「こちとら全員合格。水があいたねA組」
その言葉に悪ィ…みんな…と焦凍が俯く。
「物間くんだっけ?人と比べなきゃ自分保ってらんないの?」
「は?」
「可哀想な子だね」
にこりと笑ってやれば「最近そういうとこあるぞ!?」と鋭児郎に叩かれた。
「爆豪か!?爆豪の影響か!!」
「うるさい。思ったこと言っただけだよ」
そんな時後ろから聞こえた声。
「オーイ後ろ詰まってんだけど。かっこ悪ィとこ見せてくれるなよ」
「人使」
「おはよ、血郷」
彼に駆け寄って 抱きつけば 今はやめろと彼は恥ずかしそうに目を逸らした。
なんかゴツくなってね?と話すA組のメンバーに俺は笑う。
「だってよ、人使」
「なんで血郷が嬉しそうなんだよ」
「人使のことだもん」
もう行くぞ、と鋭児郎に引っ張られ 人使から離れる。
「あ、そーだ。昨日ごめん」
「別にへーきだ。また後でな」
「うん」
手を振り返せば 仲良いな と一言。
顔を覗き込めば なんだか複雑そうな顔をしていた。
「なぁに?拗ねてんの?」
「は!?」
「俺が人使と仲良いから嫉妬したの?」
違う!という割に彼の頬はわずかばかりか紅く染まる。
「可愛いねぇ、鋭児郎くん」
「違ぇって!」
朝礼の後。
教室に戻ってHRが行われた。
教壇に立つ先生と同じ部屋で寝ていたのかと考えると 少し不思議な気持ちになる。
HRの途中。
梅雨ちゃんがヒーローインターンについて 質問をしていた。
朝礼で 校長が話題に出したから 気になっていたのだろう。
「それについては後日やるつもりだったが…そうだな。先に言っておく方が合理的か。平たくいうと校外でのヒーロー活動。以前行ったプロヒーローの下での職場体験…その本格版だ。」
「え、じゃあ体育祭の頑張りはなんだったんですか!?」
確かに。
インターンがあるなら スカウトは必要ないしな。
「ヒーローインターンは体育祭で得た指名をコネクションとして使うんだ。これは授業の一環ではなく生徒の任意で行う活動だ。むしろ体育祭で指名を頂けなかった者は活動自体が難しいんだよ」
そうなると?
俺はエンデヴァーのところにいくか、スカウトくれた人たちのところへ いける可能性があるってことか。
「敵の活性化も相まってお前らの参加は慎重に考えてるのが現状だ」
インターン。
行けるなら行っておきたいな。
何の気なしに先生の方を見れば、目が合い数秒。
彼は気まずそうに目を逸らした。
「…なんだ?」
マイク先生と入れ替わる先生を見ながら 首を傾げた。
▽
「ありがと、付き合ってくれて」
汗を拭い 床に倒れこむ彼にそう声をかける。
「俺も体鍛えたいから、いいけど…強ぇ…」
「人使も 強くなったじゃん」
座学のみで終わった今日。
体を動かしたくて、人使を呼び 個性なしでの手合わせをしていた。
「一度も負けてねぇくせによく言うよ」
「まぁ、負けるわけにはいかないでしょ。飲む?」
自分が飲んでいた水を彼の方へ見せれば、倒れたまま手をこちらに伸ばした。
「自分で起きろよ」
その手を掴んで 体を起こしてやり 水を渡す。
「もう一歩も動きたくねぇ」
「おんぶしてあげようか?」
「やめろ」
着ていたシャツを脱ぎ、汗を拭いていれば下から感じる視線。
「なぁに?」
「別にー」
「なんだよ」
彼は少し考えてから、来い来いと手招きをした。
それに応じて 彼の前に座れば 彼の手が俺の体に触れる。
「バキバキだ…」
「入院してたせいで、これでも落ちたほうだぞ」
「服着てるとわかんないよね、血郷って」
確かに着痩せするほうではあるかも。
爆豪にも 驚かれたし。
「汗かいてんだから 汚いぞ」
「気にしねぇ」
「いや、気にして」
ペタペタと筋肉を触り、満足したのか彼は笑う。
「帰るかー」
「そうだね」
人使を立たせて、差し出されたペットボトルを受け取る。
「今度さ、個性ありで相手して」
「俺はいいけど。許可出るかな?」
「相澤先生に聞いてみる」
人使は最近 相澤先生と個性やら戦闘やらの訓練を受けている。
それは、俺が林間合宿を終えてから知ったことだった。
それだけ、彼の個性が認められているということだろう。
「お?猫ボーイじゃん。まだいたのかよ」
練習場から出たら、偶然 マイク先生がいた。
おそらく、見回りだろう。
「もう時間ギリギリだせ?」
「あ、すいません。人使、急ご。あ、おんぶする?」
「普通に歩ける」
▽
「意外」
その一言に尽きる。
猫ボーイの印象はあの体育祭の日のことで 変わってしまっていたから。
あんな普通に友達といるのが、意外だった。
まぁ、仲良いやつがいることは 悪いことじゃないし。
「イレイザー」
職員室に戻り、隣の席の彼に猫ボーイと心操が共にいたことを伝えれば 仲良いからなと一言。
「入院してる間もよく見舞いにきてたし。退院後 蛟が1番に会いに行ったのも心操だしな」
「へー」
蛟が少し前まで入院していたことは 教員は皆知っている。
あの時のイレイザーは正直見ていられなかった。
あまり人に執着しないタイプなのに、蛟に関してはすごく気にかけている。
「で、その後どーよ。猫ボーイは」
「特に。俺が孤児院のこと知ってるってのは バレたけど。特に変わった様子はない」
それなら、まぁいいか。
やりにくさとか 感じていないようだし。
「ただなぁ…」
「どうかしたのか?」
「眠れてない、らしい。最近」
眠れてない。
まぁ確かに、今日も授業中欠伸してたな。
そんなでも、当てればすぐ答えるから 頭良いなって思うけど。
「…酷いようなら、薬とか…」
「ま、そうなるよな」
「イレイザーに生活の心配されるのって あいつくらいだよな…」
俺はお前の生活も随分と心配だったが。
猫ボーイはそれを超えてくるから 凄い。
「まぁ、授業中も気にかけておくわ」
「ありがとう」
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