インターン
次の日 インターンが受け入れの実績の多い事務所に限り実施を許可する、と報告があった。
まぁ、全寮制にまでしてるんだし 仕方ないだろう。
昼休み、3年の教室へ 俺は向かった。
「おや!蛟くん!」
「あ、通形先輩」
「どしたんだい?」
天喰先輩に用があって、と言えば彼は ちょっと待っててねと 先輩を呼んでくれた。
「…急になに…恐ろしい…」
「1-Aの蛟 血郷です。ファットガムさんのとこでインターンをさせて欲しくて」
「うちで…?」
いいじゃないか!と通形先輩が笑う。
「職場体験ではどこに?」
「エンデヴァーさんのとこです。今は受け入れをしていないみたいで、ファットガムさんのとこを勧めてもらいました。無理なら良いんですけど、お話を通して頂くことってできますか」
「………わかった」
彼は少し目を逸らす。
「…確認してあげるから、」
「ありがとうございます!」
「あんまり、グイグイ来ない人でよかった…」
天喰先輩はそう言って 携帯を取り出す。
「体育祭…スカウトは来てるんだよね?」
「はい」
「…うん」
彼は多分 連絡をしてくれたようで 携帯をポケットにしまった。
「返事来たら、また伝えるから」
「はい。お待ちしてます」
「期待は…しないでね」
先輩はそう言って 教室の中へ戻っていく。
「いい奴だから!仲良くしてあげてね」
「あ、はい」
「んー!」
通形先輩はじっと俺を見つめて サーが好きそうなのに残念だ!と笑った。
「どうして、ファットガムに?」
「小さないざこざでもいいので、戦闘経験が沢山ほしくて」
「フム。貪欲なのはいいことだね!」
君ならきっと大丈夫さ!と俺の両肩を叩き 彼は教室に入っていく。
やっぱり 不思議な先輩だ。
▽
そして週末。
必要な荷物をまとめて、寮を出ようとすれば同じように荷物を持った鋭児郎。
「あれ、おはよ」
「はよ。血郷もインターン?」
「そう。鋭児郎も?」
そう、と彼は頷いて 一緒に駅まで行こうと笑った。
「やっぱり血郷は行くと思ってたわ」
「相澤先生にはくれぐれも気をつけろって釘刺されたけどね」
あの後、天喰先輩から許可が出たと連絡があり 今日が初日。
朝早く緑谷も飛び出して行ったし、彼もインターンなのだろう。
「どっち方面?」
「関西」
「あ。じゃあ一緒だな」
乗り換えを確認しながら電車に乗り込む。
「エンデヴァーさんのとこ?」
「いや、断られた。神野の一件以降忙しいみたいで」
「あー、そりゃそうか。じゃあ、どこの事務所行くの?」
ファットガムだよ、と言えば 鋭児郎が固まった。
「どうした?」
「いや、まじか」
「鋭児郎?」
俺もファットガムなんだけど、と彼が一言。
「天喰先輩に頼んだ?」
「そう!頼み込んだ」
「俺も一緒」
まじかーと彼は少し複雑そうな顔をした。
「…俺と一緒は、嫌だった?」
「え、違う!違うけど、強くなって 血郷を驚かしたかった…」
「鋭児郎は強いと思うけど?」
強くねぇよ、と彼は俯く。
彼は自分の手を握りしめる。
「守れる、強さが欲しい。もう 後悔したくないんだ」
「…その優しさは、間違いなく強さだと俺は思うけどね」
俯く彼の髪をかき混ぜて 笑う。
「なんだよ」
「ヒーローが下向くなよ」
口角に指を当てて、上に持ち上げる。
「それから、笑顔!俺は笑ってる鋭児郎が好きだよ」
「なんか腹立つ」
「ひどくね?」
▽
関西地方 江洲羽市
「最近 チンピラやらチーマーやらのイザコザが多くてなぁ!腹が減ってしゃアないわ!」
大量のたこ焼きを食べながら歩く巨体。
BMIヒーロー ファットガム だ。
「せやからここらのヒーロー事務所も武闘派ほしがっとんねん。ヘッドライオット君適材やで」
「よろしくお願いします!」
「ブラッディも 武闘派で行けそうやと思ってん。こういう繁華街での戦闘も向いてそうやしな。だから、スカウトしたんやけどな!こーやって、来てくれて嬉しいわ」
体育祭の時は たしかに武闘派って感じではなかったな。
まずもって、接近戦をしていなかったし。
「ミリオの都合がついていれば…君グイグイ来て恐ろしかった。ブラッディは…落ち着いてたけど」
「グイグイいったの?」
「…いったかも」
環はそのヘボメンタルどうにかなれば逸材やのにな、とファットガムが笑う。
天喰先輩は 「そのプレッシャーが俺を更なる低みに導く」と俯いた。
「いつもこうなんだ!この人は俺をいたぶる為にスカウトしたんだ!パワハラさ!帰りたい!」
「激励くれてるんじゃないっスかね!俺はそう聞こえる」
天喰先輩と鋭児郎が話す中ファットガムが俺の顔を見た。
「えらくボロボロやないかい」
「林間合宿で 敵に燃やされて」
「なんやそれ」
事情を説明しようとした時に聞こえたケンカだぁ!という声。
一瞬で空気が変わった。
「噂をすれば!」
民間人の多い細い路地から飛び出してくるスーツの男たち。
「っちくしょうついてねぇ!!」
「折角これから一旗あげようって時に!」
「一旦バラけるぞ!」
建物や人を巻き込まないように 大きな血防壁で周りを囲む。
そして、逃げようとした人たちがファットガムの体に沈んだ。
「ファットや!あかん沈む!!」
「沈ませ屋さんのファットさんや」
だが、その1人が個性ですり抜けていく。
それを天喰さんの蛸の足が捕まえた。
「なんじゃこのタコぉ!」
「酷い言い方…」
「違うよセンパイ見た目の話!悪口じゃないっス!」
そして、浮かせられた体に叩き込まれたパンチ。
…あさりかな。
足と背中は おそらく鳥。
「上手く…できていただろうか…」
「技量ならとうにプロ以上やでウチのサンイーターは!メンタルは育たんけど!ブラッディ 周り守ってくれて おおきに」
防壁をしまって 歓声を浴びる先輩が顔を青くさせる。
本当にメンタルだけ弱いんだな。
「あかん 伏せ!」
フィットガムの焦った声と天喰先輩に当たった銃弾。
「アニキ逃げろォ!」
そして、もう一発。
彼の周りの人たちを守るように壁を作り、飛んできた銃弾を血で受け止める。
「サンイーター!」
倒れた先輩はすぐに起き上がる。
「思ったより痛くない」
なんやこのポンコツは!と打った本人が叫ぶ。
普通の銃じゃない。
「血の匂いが…2つ」
「タコで捕まえる…!」
そう言って先輩が個性を発動させようとしたが、指からは何も出ない。
「来な ボケェ!!」
逃げる敵を鋭児郎が追いかけ、それの後を追う。
「待て 早まんな!下手に追うと噛まれるぞ!サンイーターは無事ならここ任すぞ!すぐ他のヒーローが来る!協力しろ!」
「無事だけど 発動しない!」
ファットガムが足を止めた。
「俺が残ります!レッドライオットのフォローお願いします!」
「堪忍!頼む!」
ファットガムから引き継いだ犯人たちを拘束して、警察に引き渡し、民間人に怪我人がいないかの確認を済ます。
それを終えて、先輩に歩み寄った。
「痛みはありますか?」
彼は首を横に振った。
「傷口、見せてもらってもいいですか?」
「いいけど…」
採血の針が刺さったような痕。
そして、やはり2人分の血の匂い。
「個性は…」
「まだ、出ない」
お陰様で助かりました!と警察官が俺たちに声をかけてきた。
「こいつらは違法薬物や裏アイテムの売人チームで我々も機会をうかがってたんです」
「…俺の個性が発動できないのは…じゃあ…商品の1つか…?」
「…死ね ボケカス」
捕まった人の言葉で 後ろを向いてしまった先輩に気にしなくて大丈夫ですよ、と声をかける。
あの目、動揺していたし おそらく図星なんだろう。
「まぁ後は我々に任しといて下さい」
血を回収した時 コロンと落ちてきた 小さな弾。
そういえば さっき鋭児郎たちを血で守ったんだった。
先端はやはり針になっていて、中には液体。
「…やっぱり、」
同じ血の匂いだ。
警察は行ってしまったし、ファットガムに渡すか。
少しして、2人が戻ってきた。
鋭児郎は一人で敵を倒したらしく、少し怪我をしていた。
鋭児郎が戦った相手は個性がパワーアップする薬を使っていたらしい。
「個性がパワーアップしたクスリか…」
「日本じゃ禁止されとるやつやな。効果の短さから見てアジア系の粗悪品や」
「詳しいっすね」
警察がファットガムの元へ駆け寄ってくる。
「奴が発砲した拳銃やけど!個性で粉々に砕いとった!弾はない」
「あ、待って下さい。弾、あります」
「ほんまか?!」
血で防いだ時に回収できました、と警察に渡す。
「ただこれ、血液です」
「血液?」
「色々混ざってる可能性ありますけど。血の匂いがします」
どういうことや、とファットガムがこちらを見た。
「先輩が打たれた瞬間 2人分の血の匂いがしました。そのうちの1つがこれと、同じ匂いです。おそらく、同じ血から作ってます」
「…わかった。詳しい検査結果出たら報告するわ!」
警察がその銃弾を持って、パトカーに乗っていく。
「先輩は大丈夫なんすか?」
「……辛い」
「個性が出ねぇなんて ヒーローにひでぇ仕打ちだ」
フードで顔を隠して 先輩はそう言った。
「それより、君達は俺を庇ってくれた…ミリオと同じ 太陽のように輝かしい人間だ…」
「んなこと言ったら ここ紹介してくれた先輩も太陽っすよ!」
とりあえず病院へ行こう、ということになったが。
「ブラッディ」
「はい?」
「血液って 人なんか?」
その問いに俺は頷いた。
「そこは間違いないです。人の血の匂いは独特のなので」
「嫌ーな 感じやな」
「…はい」
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