ピアス

初めてのインターンを終えて、事務所を出てすぐ。
忘れ物をしたと 戻った鋭児郎を俺は待っていた。
そんな時暗い路地に入っていく男の横顔に 俺は思わず後を追った。

「おい、」

行き止まりのそこで足を止めた彼。

「久しぶりだな、血郷」

振り返ったのは やはり 見知った顔。

「荼毘…」
「よかったよ、元気そうで」

暗い路地に入ったとは言え一歩出れば人通りの多い繁華街。
周りには沢山の、人。

「あーぁ、可哀想に。こんなに傷だらけになって」

彼の手が俺の火傷した頬に触れた。

「…こんなところで、何してる」
「今日は本当に偶然だよ。けど、会いたかった」

愛おしそうに、彼は目を細めた。

「捕まえようなんて、思うなよ?関係ない人たちを巻き添いにはしたくないだろ?今日は、お互い 仲良くおしゃべりでもしよう」
「仲良く?俺のこと燃やした張本人と?」
「あれは、血郷が闇雲に突っ込んで来たからだろ?」

俺は無傷で捕まえるつもりだったのに、と彼は笑った。
まぁ、それはたしかに一理あるかもしれない…。

「けど、いいね。俺のつけた傷が血郷の体にあるなんて。俺のものみたいだ」
「寝言は寝て言え」

彼の手を払えば彼は何が楽しいのかクスクスと笑う。

「そーいや、渡したいものがあんだよ」

彼はそう言って ポケットに手を入れ何か小さな箱を取り出した。

「武器じゃない」

さらに俺との距離を詰めた荼毘は俺の耳に手を伸ばし、かちゃんという音耳の近くで鳴った。
彼は満足そうに笑った。

自分の血の匂いがして、耳朶に触れれば指先に当たる硬い物。

「病室で眠ってるお前を見て、似合うと思ったんだよ」
「病室で…?まさか、」

花を持って来てたのは 荼毘か?
ワープで、わざわざ来てたのか?
それなら、たしかに看護師が気づかないのも納得する。

「やっぱり、よく似合う」
「こんなもの、俺がつけておくと思うのか?」
「別に、外してもいいよ。次 俺が会った時 つけてなかった何をするかはわからないけどね」

大事なクラスメイトがみんな燃えちゃうかもね、と彼は笑うのだ。
嘘はついていない。
本当に、やる気なんだろう。

「悪趣味だな…」
「血郷のネックレスの方が、悪趣味だろ?」
「は?」

ステインの巻物の切れ端。
入ってるよな?と彼は笑う。
病室で見られたのか…。
なんで、ステインってわかったんだ…?

「…スピナーに対しても、当たりがきつかったのは ステインを語ったから。そうだろ?」
「……なんのことだか」
「俺もさ。俺もステインの意志を継ぎたい。だから、敵連合に入った」

彼はこちらに手を伸ばした。

「お前はそっち側じゃ、ないだろ?ステインの意志を継ぐなら こっちだ。壊さなきゃなんねぇんだよ 今の理を」
「お生憎様。その手を取る気はないよ」

血郷ー!?と聞こえてくる鋭児郎の声。

「残念、もう 時間切れか」

彼は寂しそうに笑った。

「また、迎えに来るよ。いい返事を待ってる」

愛おしそうに俺の頬に手を添え、ピアスに口付けをする。
そして彼は 俺の横を通り過ぎて人混みに紛れていった。
耳に残るピアスに触れて溜息をつく。

「外しちゃダメなのかよ…」
「あ、いた!こんなとこで何してんだよ」
「ごめん。ちょっとね」

血を止めて 彼の元へ駆け寄る。

「忘れ物は?」
「もう大丈夫」

とりあえず一旦外して、GPSとかが入ってないかだけは確認しとこう。
彼の炎と同じ青色の石が嵌め込まれたピアスを手のひらで転がし、ポケットに押し込んだ。

学校へ戻り、真っ直ぐ向かった先は工房。
事情を説明して、パワーローダー先生に調べて貰えばただのピアスだと教えてくれた。

次いつ会うかなんてわからないし。
外しておくのは危険か?
いや、けどこれ付けてんのも胸糞悪い。





次の日。
学校では鋭児郎のことが記事になったと話題になっていた。
そして、別の事務所にインターンに行った梅雨ちゃんと麗日も。

「素晴らしい活躍だ…!だが学業は学生の本分!居眠りはダメだよ!」
「おうよ飯田!覚悟の上さ!」

それを聴きながら 左耳を撫でる。
そこには 例のピアスが。
結局 外すに外せず 付けたまま。
とりあえず相澤先生には伝えた方がいいだろうか。
けど、荼毘に会ったとか言ったら インターン辞めさせられそう。

「あ、そうだ…」

いいこと考えた。

授業中はバレないように髪の毛で隠して 放課後にまたパワーローダー先生の元へ向かった。

「どうした?」
「このピアスによく似せて、血が入れられるピアス作って貰えませんか?」
「おやおや!私の出番ではないですか!?」

そう言って また近づいてきた発目。

「と、いうと…?」
「私が作ります!」
「あ、ありがとう。何個か欲しいんだけど」

任せてくださいと彼女は作業に取り掛かる。

「いいのか?外さなくて」
「まぁ…敵を挑発するのもどうかと思うので。とりあえず他の先生方には内密に…」
「仕方ない」

1時間もすれば 数個のピアスが出来上がった。
中には血が入れられるように空洞になっているらしい。

「ありがとう発目。助かるよ」
「また来てくださいね!」

それを受け取り、部屋に戻った俺は 腕から少しだけ血を抜いた。
ピアスに入れられるのはほんの少量の血だけ。
それなら、劇薬と混ぜておくのも悪くないだろう。
こういう調合は 久しぶりだな。





「おい、蛟…」

俺の両耳に2個ずつつけたピアスを見て目を見開いた先生に苦笑を零す。

「これ、血が入ってるんです。緊急用に。血が足りない状況に陥った時に役に立つかなぁと」
「……はぁ、お前は本当に…」

そんな状況に陥る前提で考えるな、と彼は一言。
だが、許してはくれたようだ。

「インターンはどうだった」
「鋭児郎が大活躍でしたね。俺は 民間人を守ったりする方で 目立ってはないです」
「そうか」

繁華街だと防壁も出しにくいので難しいですね、と言えば学べるところがあったなら良かったと彼は少しだけ笑った。

「くれぐれも「もう聞き飽きましたよ、先生」…本当にわかってんのか、お前」
「わかってますよ。先生最近、過保護ですね?」
「…お前の目の下のクマが目立ってきたからな。マイクからも授業中眠そうだって聞いてる」

なるほど。
そっちもか。

「…まだ、魘されてんだろ」
「時々ですけどね」
「病院で薬処方してもらえ。インターンも始まって これ以上は無理させたくない」

嫌だと言える雰囲気でもなく、俺は頷いた。

「次の通院の時に、お願いしてみます」
「…そうしてくれ」




戻る

TOP