次は、俺たちだ

とりあえずあの針に触れてはいけない。
そして、彼を停止させてはいけない。
頭の中に叩き込んだ敵の情報を思い出しながら、ふぅと小さく息を吐く。
彼に押さえつけられたイレイザーからは大量の血の匂い。
おそらく、先程の攻撃のせいだ。

「…素直に、付いて来るなら。イレイザーに怪我はさせません。個性を消すソレは彼にとって魅力的な力なんですよ」

どうしますか、と彼は首を傾げた。

「どうするもなにも。イレイザーに怪我をされるのは困る」

そう言って両手を挙げる。

「素直ないい生徒を持ちましたね」

なんて、素直に応じるわけがない。
イレイザーを無事にこちらに渡すとは言われていないし、俺も連合へ行くわけにはいかない。
彼の針が体に刺さる。
そして、マスクを外したクロノは満足そうに目を細めた。

「まだまだ、子供ですね。こんな嘘を、簡単に信じるなんて」

ガスマスクの下で俺は安堵の息を吐く。
よかった、上手くいって。
技を作ってから しっかりと実戦で使うのは初めてだったけど。
体はしっかりと動く。

素肌を全て隠すこのコスチュームにした、理由。
全身に纏わせた血を隠すためだった。
痛みに気づけない自分のセンサー代わりに、そして大きな怪我をしないための 血の鎧。
彼の針が刺したのは その鎧だけだった。

ドォンと大きな音。
向こうはどうなってる?
わからないけど、音に気を取られた今がチャンスだ。

ミスト状に広げていた血を一気に固め彼の全身を包み込む。

「血縛!」
「っな!?」

目と鼻だけを出した血の人形が そのまま地面に倒れた。

「イレイザー!」

彼の体を起こし、目を隠す布を取る。
そして、彼と目を合わさせれば 「すまない、」と彼が一言。

「無事で良かったです」

そのタイミングでドアが開いた。
血塗れな2人が俺を見て目を丸くする。

「警察だ!」
「天喰先輩!通形先輩!血が!!」
「血郷くん!それより!!」

梅雨ちゃんがイレイザーの力が必要だと 早口で伝えた。
そして、緑谷が危ない と。

「わかりました。全員いっぺんに上に運びます」

ありったけの血で 外へ通じる穴へ みんなを運ぶ。
そして、先生の背中を支えて 上半身を起こした。

「状況は?」
「ナイトアイは後方にいます。周辺住民には避難を呼びかけました。治崎はデクくんが!けど様子がおかしい!」

エリちゃんの個性が暴走してるんだ。

「蛟、」

彼の手が俺は手に僅かに触れ、彼をエリちゃんに向けさせる。
途端に彼女は 倒れこんだ。

先生の怪我を塞ぎ、天喰先輩、通形先輩の血も同じように止めて行く。
その間に沢山の救急車が集まり、怪我人を搬送し始めた。
それを見ていた俺の腕は急に引っ張られ、ガスマスクを無理矢理剥がされ 口を押さえられた。

油断した。
もう、ここを離れたと思っていたのに。

携帯を持った手でしーっと人差し指を立てたのは トガだった。
その隣に蹲る 男。
見たことはない顔だが、声からしてトゥワイスだ。

「むしろそちらの手を煩わせてしまってすいません。しばらく警察の動きを見てましたので、可能性は高いです。核の子は手に入れられませんでしたが完成品はまだそちらにあると考えるのです」

誰かに電話してるトガは警察の動きを見ながらそんなことを話す。
こいつらもしかして、護送車を狙って…?

「なかったとしても アイサツしておきたいでしょう?」

彼女が電話をスピーカーに変え、ニンマリと笑った。

「お客さんがいるから、聞かせてあげてくださいね」

電話は切れることなく 向こうの音をこちらに届ける。
轟々と風の音がした後、大きな衝撃音。
そして、聞こえた声。

『なァにが次の支配者になるだ』
『殺しに来たのか』
『いーや、お前が最も嫌がることを考えた』

弔の声だ。

『俺はお前が嫌いだ。偉そうだからな』

俺も、と別の声。

『コレさァ二箱あるけどどっちが完成品?まァ…いっか』
『返せ』
『あのな オーバーホール。個性消してやるって人間がさァ個性に頼ってちゃいけねェよな』

何してる。
あの弾が弔の元へ 行ったのか…?

『切り離さないと塵になっちまう。よしっ!これでおまえは無力非力の無個性マン』

悲鳴にもならない呻き声とゴンっと重苦しい音が聞こえた。

切り離す?
無個性?
待て。
いや。そんなはず…

『お前が費やしてきた努力はさァ!俺のモンになっちゃった。これからは咥える指もなくただただ眺めて生きていけ!頑張ろうな!』

咥える指も、なく?
まさか、腕を?
早く乗れ!とスピナーの声がする。

『次は 俺たちだ』
「ふふふ聞いた?血郷くん」

トガはまたニンマリと笑う。

「こっちにおいで。みんな待ってるよ」
『お客さんって、血郷か』

弔が電話の向こうで笑う。
トガがスピーカーをオフにして携帯を差し出した。
それを、俺の震える手に握らせた。

『生きてたんだな、血郷』
「気安く名前で呼んでんじゃねぇよ」
『冷たいなァ』

電話の向こうで 彼が笑う。

『荼毘から聞いたよ。ヒーロー殺しを崇拝してるって』
「なんのことだか」
『そんなこと、お前の仲間が知ったら どう思うだろうな?兄弟の仇に 友人が憧れを抱いているなんてさ』

飯田のことか。

「お前の言葉なんて、信じない」
『だが、目の前で見ていたはずだろ?お前が、ヒーロー殺しに手を伸ばす姿を。その時掴んだもんが、大事そうにかけてるネックレスの中にあると知ったら?』
「…俺の関係から、壊していこうってことか」

あんまり素直になってくれないからな、と彼は言う。

『先生からも、任されているし。荼毘も お前を欲しがってる。もちろん、俺も』
「行かないって、言ってるだろ」
『今、攫ってやってもいいんだぞ?』

それは、困る。
目の前にはトガとトゥワイス。
頭抱えてるし トゥワイスはなんとかなるな。
トガは…

『冗談だよ。来るべき日に 迎えに行く。行ったろ?次は俺たちの番だって』
「何度も言うけど、」
『そォいや、血郷。どうして、他人の血を操らないんだ?』

ガツンと頭を殴られたような感覚。
弔が兄とわかったあの瞬間みたいに。

『自分の血液しか操れない、とか言ってんだっけ?今は。違うよな?お前は、自分の体内に入れた血液なら なんだって…操れるよな?』

待て。
待て待て待て。
それを知ってるのは、この世でただ一人。

『じゃあな、また会おう』
「、っ、うそだろ」

覚えてたのか、俺を。

「終わったの?」
「…ありがとう」

携帯を彼女に差し出せば、その手ごとトガが掴む。

「行きましょう?」
「…行かない。弔も、その気じゃなかった」
「えー残念。じゃあ、私たちは帰りましょ?」

トゥワイスの手を掴み、トガが歩き出す。

「またねェ 血郷くん」

ズルズルとその場にしゃがみこみ、頭を抱える。
厄介なことになった。

「血郷!こんなことでなにしてる!!?」

駆け寄ってきた 相澤先生に視線を向ける。

「おい、まさか…」
「……接触しました。トガとトゥワイスです」

怪我は!?と言う彼に首を横に振る。

「大丈夫です、すいません」
「俺は病院に移動する。お前は、」
「まだ動けるので こっちの手伝いをしときます。終わったら、病院に行くので」

弔は俺を覚えていたのか。
もう、誰にも 使いたくなかったのに。
他人の血を 摂取することで 相手の血液まで操れること。
隠してやってるけど 怪我を治してるのも、相手の血を舐めているから出来ること。
だが、それだけじゃない。
相手の血を操れば…殺すことだって容易いのだから。

「本当に大丈夫なんだな?」
「トガたちももう帰ったので。大丈夫です」

彼はわかったと 頷いた。

あいつらは動き出す。
なら、もっと…急がなければ。
一刻の猶予も 許されてはいない。





現場での仕事を終えて、病院に着いた時にはサー・ナイトアイは亡くなっていた。
そして、通形先輩の悲痛な泣き声は廊下まで響いていた。
他の人たちも 怪我はありつつも命に別状はなかった。
だが、通形先輩の個性は…失われたそうだ。

救い出せた。
それでも、代償は大きかった。

誰かの病室に、とも考えたが そんなときロビーのテレビが速報を報せる。
護送車を敵連合が襲ったこと。
そして、証拠品も紛失したこと。
繰り返されるその報道を俺はただただ 見つめていた。


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