殺してくれ
「怪我なくてよかったわ」
ファットが俺の頭を撫でた。
痩せるとこんな見た目なんだな。
「今回、俺はほんとに 何もできてないです」
「そんなことないやろ。ロックロックの傷も環の傷も 治してくれたんやろ?」
「それしか、してないです」
それしかって言わんで、と彼は言った。
「たしかに戦闘はしてへんかもしれん。けどなぁ、戦うことだけがヒーローやない。守ることも救うことも ヒーローや」
「…はい」
敵連合と俺が接触したことは、彼は知らない。
そして、強奪された瞬間を 聞いていたことも。
もっと何かできたのではないか。
もし、もっと力があれば。
こんな 敵連合に好き勝手やられたり しなかったんじゃないか。
そんな気持ちが頭の中を駆け巡る。
「…背負わんでええ。ブラッディは与えられた任務を全うしとる。な?」
「はい」
「怪我はないんやろ?今日、もう帰るんか」
一人で帰るなと言われているので、と言えば彼は安心したように笑った。
「詳しくはわからんが、狙われとるんやろ?気ィつけや」
「ありがとうございます。お大事に、してください」
「おう。当分忙しくなるかもしらんけど、また連絡するわ」
彼の手はもう一度俺の頭を撫でた。
「切島くんに 会ったってな。心配しとったで」
「わかりました」
「大事にされとるんやね」
彼の言葉に 俺は笑う。
「申し訳ないです」
友人の仇を崇拝。
弔の言うことに 決して間違いはない。
この胸のペンダントを手放せない限り、俺はみんなを裏切り続けているんだろうか。
いや、まず弔の兄弟ってとこが裏切りか。
「鋭児郎」
「血郷!!怪我は!?」
「ミイラのお前に聞かれたくないよ。大丈夫か?」
大丈夫、と彼は答える。
「全身打撲と裂傷が酷いだけって」
「それならよかった。俺は今回は怪我なし」
「成長したな、、」
感動してる彼に なんか腹立つんだけど、と呟いた。
「まぁ、大事に至らなくてよかった」
「おう!」
先輩にも会いに行ったが、眠っていて 声をかけることなく 病室を出た。
▽
一夜明け。
怪我が完治したみんなと学校へ戻ったが、その後も色々と調査や手続きが立て続けにあり 寮へ戻れたのは夜だった。
もっとも 俺が調査で話をしたのは 敵連合のことだった。
八斎會にも 俺を見つけたら生きて捕まえろと言っていたようだし、完全に 狙われているのは間違いない。
「帰ってきたァァ!!奴らが帰ってきたァ!!」
寮に入ってすぐみんなに取り囲まれて、騒がれる。
「報道で見ただろう。あれだけの事があったんだ。級友であるなら彼らの心を労わり静かに休ませてあげるべきだ」
「飯田くん飯田くん。ありがとう。でも、大丈夫」
「じゃあいいかい。とっっっても心配だったんだぞ!もう!俺はもう!君たちがもう!!」
わいわいと盛り上がっている中、一応広間にいる爆豪に上鳴が絡みにいく。
が、彼は寝ると行って 広間から 離れていった。
「蛟も大丈夫か!?今回は怪我は「ごめん。俺も行くわ」え、ちょ!?どうした?」
俺はその爆豪を追いかけた。
「爆豪、」
「なんだよ」
「……話がある」
彼はじっと俺を見つめてから、部屋行くぞと エレベーターに乗り込む。
「今回は怪我してねぇんか」
「俺は無傷」
「成長したじゃねぇか」
新技のおかげだよ、と答えて4階に降りた。
「俺の部屋でいいんか」
「どっちでも」
彼は部屋のドアを開けて中に入り、適当に座れと促した。
その言葉に甘え、床に腰を下ろしベッドに寄りかかる。
「で?あの歓迎ムードを抜けてまで 俺に話してぇことってなんだ」
「…敵連合が動き出した」
爆豪が は?と固まる。
「同じく誘拐されたお前だから、話す。敵連合が昨日、復活の狼煙を上げた。俺は退院後二度目の接触だったけど、どっちも お前を迎え入れる準備ができてるだとか俺たちと来いだとか言われてる」
「…知ってんのか、警察とか」
「知らない。知ってるのは、相澤先生くらいだな」
沈黙。
そして、溜息をつきながら額に手を当てる。
「爆豪も、接触する可能性がある。今後、必ず」
「だとしても、ついてなんか行かねぇだろ」
「…周囲の人を犠牲にしてもか?」
来なきゃ ここ一体燃やすと言われても。
お前は行かないか?と問えば 爆豪は口を閉ざした。
「ヒーローに、なる。だがらこそ、俺たちは自分の命と他の命も天秤にかけたら他の命を優先する」
「…そうだな」
「街中で戦闘をするわけにもいかないしな」
このピアスのように。
俯いて、頼みがある と呟く。
「もし、もしもだ。俺が 何も言わずに消えたら」
「やめろ。もしもの話は聞きたくねぇ」
「お前にしか、頼めない。もし、俺が何も言わずに消えたら。自分を犠牲にして、他の命を優先したって 思ってくれ」
その時はきっと。
彼らの元にいる。
ベッドに腰掛けている彼の方を振り返り、彼の顔を見上げる。
交わった視線。
彼は逸らさず俺を見つめた。
「助けに来ようなんで、絶対にするな。させるな。それじゃ、意味がない。俺が犠牲になった意味が」
「…本気で言ってんのか、お前…」
「本気だよ。それでもし、俺が。向こう側になってたら、躊躇わずに…殺してくれ」
この個性を使われる前に。
この個性で、みんなを殺して しまう前に。
「…なんのかよ、向こう側に」
「なる気はないよ。けど、洗脳系の個性のやつを仲間に入れないとも限らない」
「…まァ確かに…」
俺を脅すには十分すぎるネタを向こうは持っているし。
何より、まず。
弔と兄弟だとバレればこの学校に残ることすら危うい。
「だから、頼む。爆豪なら、わかるだろ?仲間が傷ついてまで 助けられても 残るのは罪悪感と後悔と屈辱だけだって」
自分を守る為に誰かが死んだら?
オールマイトのようにヒーローを引退することになってしまったら?
「爆豪、」
「……言いてェことは、わかった。腹立つけど、その通りだ」
彼は乱暴に俺の髪をかき混ぜて、容赦なく 叩いた。
「いいか、そうはなるなよ!?絶対に!!」
「…絶対なんて、ないだろ」
「抗え。可能限り。それでも、どうしても…ダメだったな…」
俺がお前を止めてやる。
彼は言葉を濁したが、そう言ってくれた。
「…ありがとう」
「ほんと、めんどくせぇなお前」
彼はそう言ってベッドに横になる。
「…とりあえず、」
「何?」
「今回は 生きて帰って来て。よかったよ」
そうだな、と呟いて俯く。
治崎の声にならない悲鳴が まだ耳に残ってる。
通形先輩の悲痛な叫びがまだ耳に残ってる。
そして、俺を語る 彼の声も。
▽
血郷が変だ。
昨日病室に来た時も思ったけど。
爆豪と2人 エレベーターに乗り込む姿に どした?と瀬呂たちも首を傾げる。
「なんか、変だよな」
「…おう」
ファットにも 気にかけておけと言われてはいたけど。
なんだろう。
「ここに来るまでも全然喋らんかったよね」
「…確かにそうね」
麗日と梅雨ちゃんもそう言って頷く。
「しかもわざわざ爆豪についてくのが…なぞ」
「それな。まぁ仲は良いけど。あんなのなかったし」
顔を見合わせて 首を傾げた。
この時まだ誰も気づいてはいなかった。
いや、もっと前から 気づいてはいなかったんだ。
アイツの中の 何かが 変わり始めていることを。
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