ずっと、縛られている
いつの間か9月も終わり 10月を迎えた。
インターン組はナイトアイの葬式に参列し、当分の間インターンは中止することに。
通形先輩は 休学しているそうだ。
あの日救い出されたエリちゃんはまだ精神的に不安定でいつ暴走してしまうかわからないらしい。
「アマリ美シイ問イデハナイガ…コノ定積分ヲ計算セヨ。正解ノワカル者ハ挙手ヲ」
いち早く手を挙げたのは緑谷。
あの日から やる気に満ち溢れている。
「107/14です」
「不正解!蛟!」
「107/28」
正解、という言葉。
そして 教科書のページをめくる。
そして、あの日から俺は。
眠れない日々が 続いている。
色んな悪夢に魘されて、いつも目を覚まし。
そのまま眠れなくなる。
ふぁ、と欠伸を噛み殺して窓の外を見た。
穏やかだ。
だが、それが 嵐の前の静けさみたいで 嫌な気分だった。
「血郷、」
「おー」
そして俺は、爆豪と行動することが増えた。
きっかけは、先日のことだろう、
「あ、ちょっと待て!置いてくな!」
いつもの3人も後を追いかけて来て、学食へ。
「冷やしトマトとほうれん草のソテー。あと米とミネストローネ」
「カレー。つーか、お前肉食え肉。毎回言わせんな」
「えー、じゃあ 唐揚げ」
隣に爆豪が座り、向かい側に3人。
これももう、いつもの並び。
「血郷」
「人使!」
「横で叫ぶな。うるせェ」
手を振りながら彼を呼べば爆豪に叩かれた。
普通科の友達とトレーを持って歩く彼がこちらを見て笑う。
「明日の放課後、場所借りといた」
「ありがとう!」
「じゃ」
彼との訓練も続けている。
相澤先生がいるときだけは個性ありでもやらせてくれるようになったし。
何も変わらない毎日。
だが、鏡を見れば ピアスが見えるし。
眠れば 悪夢を見る。
平穏な日々でも、ずっと 縛られているのだ。
▽
「蛟、」
インターン組の補講を終えて、俺だけ教室に残した先生。
なんとなく何を言われるかは わかってた。
「お前、寝てないだろ」
目の下のクマを彼が指でなぞり、酷くなってるぞと一言。
「ナイトアイやエリちゃんのことか」
「そっちは、別にそこまで。前線にいなかったし、気づいたら終わっていたし」
「…敵連合か」
治崎は、と俺が口を開けば彼は首を横に振った。
腕を失った彼のことを、俺は未だに教えてもらえていない。
先生は知っていて隠しているのか、本当に知らないのかは わからないけど。
「薬は?処方してもらったよな?」
「効かないんです、いくら飲んでも」
「何がそんなに、お前を追い詰めてる」
何って1つのものはない。
全て折り重なって、今がある。
「…もう一回病院に行こう」
「はい」
「きついときはすぐに休め。無理だと判断すれば、こっちが止める」
わかりました、と頷いて、お前はエリちゃんには会うか?と問いかけ。
それに俺は首を横に振った。
「俺は大丈夫です」
「そうか」
教室を出れば 緑谷が待っていた。
「大丈夫?」
「平気平気」
「最近 顔色悪いよね」
そうだなぁ、と笑いながら自分の顔を触る。
「なんかあったら頼ってね。力になれるかは、わからないけど」
「ありがとう」
皆にこれ以上心配されるのも申し訳ないし。
ちゃんと寝なくちゃな…
テーブルの上 散らばる薬を拾い 手のひらに出していく。
とりあえず熟睡がしたい。
夢も見ずに…朝を迎えたい。
腕に刺した針が 赤い液体を吸い上げていく。
最近は、この瞬間だけ 凄く心が穏やかになれる気がしていた。
▽
始業ギリギリ。
緑谷が教室に飛び込むのが見えた。
あいつが遅刻するのは珍しいな、と思いながら教室に入れば 誰もいない席が1つ。
「蛟はどうした」
「…来てないですわ」
まさか、あいつ。
とりあえず俺が見にいくと伝えて 一限の先生と入れ替わり 学生寮に向かった。
4階の1番奥。
彼の部屋をノックするも返事はなく、ドアノブを回せば ドアが開いた。
「蛟?」
部屋の奥。
テーブルに突っ伏している彼に駆け寄る。
「おい!」
散乱する薬のゴミ。
前に処方された分が全て空になっていた。
恐らく、用量を無視して多く飲んでるな。
そして、血の入った注射器が数本転がっているとこを見るとまた馬鹿みたいに血を抜いたんだろう。
顔をあげさせるが起きることはなく。
呼吸はあるが、顔色は最悪。
「とりあえずリカバリーガールのとこだな…」
彼を抱えて立ち上がる。
そんなとき、開きっぱなしだったノートパソコンのマウスに触れたらしく 画面がついた。
映されたのは動画共有サイト。
そして、再生が終わっているそれは 敵連合が護送車を襲った時のものだった。
そして彼の傍に 開いたままの分厚いファイルが。
「…これ、」
中にあるのは 色んな雑誌や新聞の切り抜き。
そして内容は 全て ヒーロー殺し。
「……まさか、」
合宿の時 ヒーロー殺しについて 聞かれた。
会えるのか、と。
どうしてそんなことを聞くのかわからなかったが、恐らく。
執着してるヒーロー殺しに。
そして、敵連合に。
あの時暴走した飯田のように。
彼を保健室に連れて行けば、ただ眠っているだけだね と彼女は言った。
「ただ、酷いわね」
顔色の悪い彼の頬を リカバリーガールが撫でる。
「ここでも治療の訓練しているけど、他にも無理してるんじゃないかい?」
「…たしかに、そういう節はありますね」
「焦ってるのね、きっと」
保健室での止血の訓練。
心操との訓練。
そして、インターン生の補講。
それらが終わっても 夜走り込みや筋トレをしているのを見かける。
「…無理矢理にでも止めなきゃ、壊れちまうよ」
▽
「やっと起きたかい」
リカバリーガールが俺の顔を覗き込む。
「丸一日寝るなんてね。それだけ、体が追い込まれてる証拠さ」
丸一日?
体を起こして 外を見れば たしかに夕方だった。
「眠れないのは昔からかい?」
「そうですね。元々、眠りは浅くて。夢見も悪いし…特に最近はひどくて」
「薬も効かない?」
それに頷く。
「頑張りすぎてんのさ、アンタは。当分、ここでの訓練はやめにしよう」
「けど…」
「文化祭が始まる。嫌なことも悩んでることも 一旦全部忘れて 楽しむといいよ」
顔色が良くなったらまた、訓練を再開しようと リカバリーガールは笑った。
「おら、お食べ」
手のひらに落とされたお菓子を口の中に運ぶ。
「甘い…」
「疲れた時は甘いもんとるのもいいよ」
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