俺が見とくんで

俺は当分の間 放課後の訓練を禁止された。
筋トレもやりすぎないように、と。
そして大事をとって、二日間 学校を休むことになった。
心も体も休ませる必要があると 言われた。

「と、言われてもねぇ…」

何もない。
誰もいない部屋で一人呟きソファにもたれかかる。

「やることない…」

勿論。
眠れるはずもなく。

カチカチと意味もなくパソコンをいじっていた。
この間見てた敵連合のやつはもう消されてしまい また別のところに転載されていた。

荼毘の炎がゆらゆらと燃える。
何の気なしに新しい注射器に手を伸ばした時、コンコンとノックの音。
パソコンの画面を閉じて返事をすれば入ってきたのは爆豪だった。

「どうした?」
「飯」

購買で買ってきてくれたのだろう。
トマトジュースとサンドイッチ、唐揚げが袋の中に入っていた。

「昼休みか、いま」
「おう」

制服姿の彼は 向かい側の床に座る。
注射器を床におき、まくった袖を下ろした。

「つーか、何もねぇな」
「物欲とかないし。興味あるものも、ないしね」

唐揚げを口に運んで、彼の視線の先を見る。
そこには使い終えた注射器と薬のゴミが捨てられていた。

「…どーよ、具合は」
「元気なんだけどね」
「まぁ、その顔で言われても説得力ねぇわな」

敵連合のことそんなに気になるか、と彼は言った。

「気にはなるよね。復活の狼煙を上げた割に 大人しくしてるから。なおさら不気味」
「……まァ気持ちはわかるわ」

みんな心配してんぞ、と彼は言う。
迷惑かけて申し訳ないね、と俺は笑った。

「気持ちは、わかんぞ。何もできねぇ焦りも周り巻きこまねぇようにどうにかしてぇって気持ちも」
「うん」
「けど、向こうが動かねェんじゃどうにもなんねぇだろ。今は、いつその瞬間が来てもいいように準備するしか」

今のお前じゃ、勝てるもんも勝てねぇぞと彼は馬鹿にするように笑う。

「頭じゃわかってはいるんだけどねぇ…体は言うこと聞いちゃくれない」
「…ま、そんな簡単にどーにかなるとは思ってねぇよ」

爆豪はそう言って立ち上がる。

「寝れなくても横になって目ェ閉じてるだけでも、いい。ゆっくり休めよ」
「優しいね、今日の爆豪」
「お前がらしくねぇからな」

ありがとうと言えば彼は背を向けたまま手をひらひらと振って、部屋から出ていった。
彼がくれたご飯を食べながら、パソコンをもう一度開く。

「そりゃ、そうだな」

今の状況じゃ、勝てるもんにも勝てやしない。


放課後。
言われた通り目を閉じて横になっていれば爆豪が俺の部屋に来いと一言。
よくわからずについていけば 彼のベッドに押し倒された。

「…えっと?」
「あんな場所で寝てんのも問題だろ」
「そう言うもん?」

貸してやるから 寝てろと彼は勉強机に向かった。

「なんか、」
「なんだよ」
「爆豪の匂いがする」

燃やすぞテメェとキレる彼にごめんごめんと呟いて 目を閉じた。





「ちゃんと寝れんじゃねぇかよ」

10分か15分か。
居心地悪そうにゴロゴロしていた彼は猫みたいに丸くなって 寝息をたてていた。

目の下のクマは 火傷と相まって なおさら痛々しく見える。
彼の不調の理由はなんとなく わかる。

俺に殺せと言うほどだ。
敵連合との接触で 彼を追い詰める 彼だけが知る何かがあったんだろう。
無理をしているのも それを抗う為に必死だからだ。
柔らかい髪を何の気なしに撫でていれば、少し気になったピアス。
確かインターンに行ったあたりで つけ始めた気がする。
似合ってるからいいけど、そう言う新しい行動も 敵連合絡みなんじゃねぇかな。とは思ってしまう。

今日はみんな文化祭のことを決めているし ここは当分は静かだろう。
ほんの僅かでも、眠っていられるなら それでいい。
こいつには心休まる瞬間がなさすぎるんだ。
神野の一件を終え、すぐに復帰し 仮免試験。
それが終わって先日の事件。
俺はデクと喧嘩して オールマイトの件のもやもやも晴らしたし 謹慎があったおかげで 心も体も 休めたと思ってる。
神野の件からこいつは休まず突っ走り、どんどんスピードを上げている。
そりゃいつかは限界がくる。
休むことも、大事なことだ。


それから1時間くらいが経ち、部屋にノックの音。
切島とかだろうとドアを開ければ先生が立っていた。

「悪いな。蛟を知らないか?」
「寝てます、ここで」

部屋の奥を指差せば 先生は少し驚いていた。

「どれくらい寝てる?」
「まぁ、1時間くらいっすかね」
「そうか」

先生は安心したように 顔を緩めた。
少し前から思ってたが、先生も蛟には妙に甘い。

「起こすか?」
「いや、寝かせておいてくれ。…最近、よく一緒に行動してるよな?変わったとこはあったか」
「あー…戦う決意は固くなったんじゃないっすかね?」

前みたいに飄々とやり過ごすことはもうしていない。
本気になったからこそ、焦っている。

「今は 多分 無茶しすぎただけで。休めば大丈夫だと」
「…そうか、」
「俺が見とくんで」

大丈夫です、と伝えれば彼は 少し顔をしかめたが頼むと言って帰っていく。

「頼むっつー割に、頼む顔してねぇじゃん」

まぁ、先生だけではないか。
切島も轟も、心操も。
そして、俺も。
こいつに 何かしら特別な感情があるんだ。

「…放っておけねぇんだよなぁ…」

最初はただ腹立つだけだったのに。
気付けばこんな風になっていた。

「…早く、元に戻れよ」

彼の頭を撫でて 少しだけ 笑った。





甘い匂いがする。
目を閉じたまま 匂いの方へ擦り寄る。
なんだろう、これ…

目を開ければ目の前から 黒色。
そして、見上げれば顔。

「…こんなん、前にもあったな…」

爆豪の部屋でゴロゴロしてて、寝たらしい。
そして、悪夢を見ずに目を覚ました。

「…少し、体が軽い」

ちゃんと 眠れたからだろうな。

「ん…」

体を起こした俺に気づいたのか 爆豪が俺の名前を呼んだ。
小さな声で何か言う彼に 顔を近づければ 両腕で 引き寄せられる。

「寝とけ…」
「もう目さめたよ」
「いーから」

俺が寝るまで離す気はないようでもう一度横になれば 彼は満足そうに笑った。

「……さっさと、寝ろ。ボケカス」
「はいはい。おやすみ」

俺が目を閉じれば彼はおやすみ、と呟き 寝息をたて始める。

人がいるからか。
彼の匂いのせいか。
今日はもう少し 眠れそうだ。


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