善意の第三者
2日の休みが明け、学校へ行けば 学校は文化祭ムード。
バンドの音楽に合わせて 踊るらしい。
「蛟くんはどうする!?」
「裏方で。文化祭の間は大人しくしてるように言われてるから」
「そっかそっか。仕方ないね!」
裏方組に合流すれば、もう平気か?と焦凍が首を傾げる。
「まぁ、少しは」
「少し顔色が良くなったな」
「そう見えるなら よかった」
先生からも 顔色が少し良くなったなと言われたし。
文化祭が終わればまた、訓練を再開していいと許可が出た。
もちろん、無理はしてはいけないのだけど。
休日も一日中 文化祭の練習に。
爆豪も何だかんだ楽しそうにドラムを叩いてた。
意外と似合うね、と伝えたら 爆破されたのは 照れ隠しだと思っている。
▽
そして、迎えた文化祭当日。
外部からの来場者は限定されているそうで、敵連合との接触に 気を張る必要もなく。
練習してた舞台も上手くいった。
保護された例の少女も 来ているそうで 緑谷は片付けのあと通形先輩と共にいるその子の元へと向かった。
皆、それぞれ 屋台や出し物に向かう中 俺は一人 屋上へ。
普段学校では聞くことのない楽しそうな声を聞きながら 下を見下ろす。
楽しそうだ。
笑ってる生徒たちを見ながら自分の口角に指をあて、上に持ち上げる。
笑顔。
それは、人でいる為に貼り付けた仮面だった。
感情を奪われた、温痛覚を奪われた。
空っぽになった俺が 人になる為に貼り付けたもの。
今となっては、上手になった。
訓練のおかげで、ボーダーラインもわかってきたし。
「ここにきてよかったなぁ」
無理矢理受けさせられたものだったけど。
ヒーローなんて目指してなかったけど。
空っぽの俺にも、やるべきことが見つかった。
ステインのように。
彼が、信じるヒーローの本来の姿を。
それを俺が 実現する。
そして、死柄木弔を。
「兄さん」
俺はそっちにはいかないよ。
俺には俺の、やるべきことがある。
けどいつかまた、AFOには会わねばならない。
あの人の知ることを、聞かなくちゃいけない。
あの場所の、全てを。
「こんなとこでなにしてんだ、」
屋上のドアが開く。
振り向けば 人使が立ってた。
「人使こそ。どーしたの?」
「休憩。1人になれるとこ探してた」
「俺いない方がいい?」
いいよ、いてよと彼は言って立っている俺の隣に座った。
「どっか見て回らないのか」
「外から眺めてるので十分かなぁ」
「…そっか」
食べるか、とこちらに向けられたのはタコ焼き。
少しそれを見つめてから ありがとう。と一口。
「美味しい」
「一口は馬鹿だろ。熱くないのか?」
「だいじょうぶ」
唇の端に付いたソースを舐めとれば、彼が俺の制服の裾を引っ張る。
「どうした?」
彼を見下ろせば、伸ばされた手。
なんだろう?とかがめば 指が俺の唇をなぞる。
「ん、」
「まだ付いてた」
「誘われてんのかと思った。びっくり」
彼は何も答えず 俺を見上げたまま。
「、なんか喋って」
「誘ってたら、どーすんの」
「答えられないけど、受け入れる」
ずるいな、と彼が笑った。
人使のことは 特別に思ってる。
俺のない心を初めて動かした人だから。
けど、恋愛とか そういうものは俺には難しすぎて わからない。
「いーよ、それで」
人使はそう言って俺の頭の後ろに手を添えた。
「俺はね、たぶん。出会った時から 血郷が好きだよ」
「入試の時?」
「そう。カッコよかった。そのあと、話して もっと 好きになった」
照れ臭そうに彼は微笑む。
「怪我してばっかだし。無理してばっかだし。ヒーロー科にいない俺じゃ なんもしてあげられないのがいつももどかしくて」
「そんなこと、思ってたの?」
「そうだよ。だから、今必死に這い上がってる」
俺を引き寄せた彼に逆らわず 目を閉じた彼と唇を重ねる寸前。
彼は目を開いて、ごめんと呟いた。
吐息が混ざる距離で彼は俺の名前を呼ぶ。
「いつか、隣に立って。血郷に背中を預けてもらえるくらい強くなったら、もう一度伝える」
「…うん」
「だから、それまでは ちゃんと帰ってこい。嫌だけど怪我しても死にかけてもいいから。ちゃんと、俺に会いに来て」
当然だろって 笑えば彼も満足そうに笑った。
「キス すんのかと思った」
「してやろうと思ったけど。やっぱ、ちゃんと俺のこと好きになってほしいから」
「好きだよ?」
俺とは意味が違うから、と人使は眉を下げて、笑う。
「いつか、ちゃんと好きだって思わせる」
「うん」
「それまでは、このままで我慢する」
人使はそう言って、俺を抱きしめて ゆっくりと離れた。
ほんとなら暖かいはずなのに、その温もりさえも俺には伝わらない。
「人使、」
「ん?」
「ごめんね」
謝るなよ、と彼は言う。
けど、俺には謝ることしかできなかった。
だって、訪れるはずがないんだ。
俺が 恋心を抱く日なんて。
もう一度ごめんねと呟いて、彼の頭を撫でた。
「撫でんな」
「かわいいから」
「かわいくないし」
恨めしそうに俺を見て、彼はそっぽを向いた。
「この後予定は」
「ないけど」
「じゃあ行くぞ」
彼は俺の手を掴み 立ち上がる。
「どこに?」
「文化祭以外何があんだよ。せっかくやってんだから」
「………人使と一緒なら、いいかな」
なんだそれ、って彼は照れ臭そうに笑った。
「とりあえずお腹すいた」
「たこ焼き食べたじゃん」
「全然足りなかった」
▽
舞台が終わってすぐに消えた 血郷。
一緒に回ろうと思っていたのに。
アスレチックをやってご飯食べて 次どこ行く?と話していた時 心操と笑い合う血郷を見つけた。
「相変わらず仲良いなー」
瀬呂はそう言って彼らを見る。
「クソ髪」
「それ呼ばれんの久々だな!?」
爆豪は俺の肩を少し引き、耳元で囁く。
「嫉妬してんの バレバレだぞ」
「なっ!?」
ニヤリと爆豪が笑う。
これあれだ、いじめっ子の顔。
「今日くらい、許してやれよ」
「は?」
「俺らといない方が 嫌なこと忘れられる」
爆豪はそう言って 歩き出す。
最近妙に仲良いんだよな、爆豪と血郷。
「なぁ、なんか知ってんのか?血郷が最近調子悪い理由」
彼の隣に並びそう尋ねれば 彼はこちらを一瞥してから、前を向いた。
「知ってても、どーにもできねぇよ」
「…でも、知らないよりはいいだろ」
「救えないなら 善意の第三者でいろ。そうあるべきだ。みんな」
俺も そうあるべきだった、と彼は言う。
善意の第三者ってなんだ。
「どう言う意味?」
「知らないってことは 罪じゃねぇんだよ」
たとえ救えなくてもな、と彼は言った。
じゃあ知ってるお前は救えなければ罪になるのか?
彼、1人が?
クラスメイトなのに、それってちょっと 寂しすぎる。
「救けられる側も 辛いんだ。自分を犠牲にしてんなら、なおさらな」
「っ!」
「神野の件で 学べ。救われた側も 背負うもんがある」
行くぞ、と爆豪は言った。
それにおう、と答えて 2人の方を振り返る。
あの2人だけの空気感。
それは、もしかしたら 安心なのかもしれないと思った。
巻き込んでしまわない そうわかっているから。
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