救われる側
昨日の放課後の反省会のおかげでクラスメイトの名前はあらかた覚えた。
名前順に変わった座席だったが、後ろの人が見えないからという理由で21番目の飛び出た席を再度 獲得した。
「なにこれ」
校門の前の人だかり。
テレビやマイクを持っているところを見るとマスコミだ。
「あ、オールマイトの授業はどんな感じですか!?」
後ろで立ち止まっていた俺に気付いた数人にマイクを向けられる。
「そこ、入口なので。退いてもらっていいですか?」
「一言だけでもいいので!」
掴まれた腕。
振り払おうにも、自分を囲む人が多すぎる。
個性で、、はダメか。
「離してもらえますか?」
なんて、言葉は彼らには届かない。
マスコミは一般人?
いや、暴力はダメか。
あ、けど腕掴んでるし 正当防衛になる?
「うちの生徒離してもらえますか」
「あ、」
相澤先生が俺の腕を掴むマスコミの人に声をかけ、向けられたマイクに「彼は今日は非番です。授業の妨げになるんでお引き取りください」と伝えた。
「行くぞ」
「あ、はい」
言われるがままに彼の後を追いかければ、彼は眉をひそめて ため息をついた。
「ありがとうございます」
「本当に、マスコミは嫌いだ」
後ろの門が大きな音を立ててしまり、本当に厄介だなと 彼が呟く。
「そういや、昨日の訓練の映像見させてもらった」
「あ、はい」
「あの状況でも諦めずに向かって行ったことは評価するが、自分の体を犠牲にするのは どうなんだ?あの時は敵役だったが、ヒーローだとしてもお前は同じことをしただろ?」
彼の言葉に 俺は首を傾げる。
「なんだ」
「ヒーローは自分を使って 人を助ける仕事ですよね?あれは 間違いなんでしょうか。怪我はしたけど、俺は動けていましたし」
「…ヒーローに正解があるとすれば 自分も怪我せず全員を救うこと。これが100点満点」
お前の言葉を借りれば たしかにヒーローは自分を使って人を助けるが、自分を犠牲にするのはそれとは違う と彼は言った。
自分を使うことは自分を犠牲にすることとはイコールではないのか。
あの時は怪我をせずに抜け出す術を考えるべきだった、と彼は言った。
そんなものあったのか?
それを探している暇も あっただろうか?
あの短時間では、あれが最善だと俺は判断した。
訓練だからと、あそこで諦めるのは違うと思ったし。
「あの時 あの短時間ではあれ以外の選択肢は見つけられなかったです」
「じゃあ次 同じような場面に出くわした時どう回避するか 考えとけ。あーやって、自分を犠牲にすることを最初から当たり前にしてほしくない」
「…なるほど」
可能な限り 正解を目指せということか。
言いたいことはわかる。
先生という立場上、世間の目もあるし生徒にボロボロになられるのは困るのだろう。
だが、現実は どうだろうか。
ヒーローはボロボロになっても人を救う。
自己犠牲は美談だ。
だがさっきの先生の言葉に従えば、それは良しとされない。
「じゃあ、先生。質問です。ヒーロー自身がボロボロなら 人を救わなくて良いんですか?」
「え?」
「自分の命と救助を待つ人の命なら どちらを 救うべきですか?」
それは、と先生が言葉を詰まらせた。
「…そういう場合は、自己犠牲を求められる。それが ヒーローですよね?」
「…そうだな」
先生が俯いたのを見て、また下手なことを言ったのだと気づく。
「すいません、変なこと言いましたよね」
「いや、、」
「すぐひねくれた考え方しちゃうんです。すいません。昨日の訓練についての指摘 参考にさせていただきます」
それでは、と俺は逃げるように教室へ向かった、
世の中の規則や暗黙の了解は 本当によくわからない。
自分を大切に、と教わって。
他人も大切に、と教わって。
けど、ヒーローは自己犠牲なしには語れない。
そして、人はヒーローの命をどこか軽んじている。
気がする。
自分を救ってください。貴方の命に代えてでも。
なんて、救われる側は傲慢すぎないか?
「なーんて。こんなこと言うとまた変な顔されるかね」
学ばねば。
変ではない "人"で いなければ。
▽
教壇に立つ相澤先生。
さっきのことはもう気にしてはいないように見えた。
何人かに戦闘訓練のフィードバックをしてから、ここからが本題だと前置きをした。
「急で悪いが今日は君らに 学級委員長を決めてもらう」
「「学校っぽいの来たー!!!」」
やりたい!と手を上げるクラスメイトを他所に 俺は窓の外に視線を移す。
ワイワイと盛り上がって、結局 投票制になった。
回された紙に誰かの名前を書くように言われて ペンをくるりと回す。
正直、誰でも良いんだよな、、
クラスメイトの名前は覚えたけど、だからといって人となりがわかるわけでもないし。
少し考えてから 誰でも良い と書いて紙を箱に入れた。
結局 委員長は緑谷 副委員長は八百万で落ちついた。
こんなことでもここまで盛り上がれるのは ヒーロー科ならではって感じだな。
HRを終えて、昼休み。
「蛟!学食行くけど、一緒に行かねー?」
そう声をかけてきたのは鋭児郎だった。
「あー、ご飯持ってきてるから 今日はやめとく」
「おっけ。じゃあ、今度行こう!」
「ありがとう」
何人かと学食に向かう彼らを見送り、俺も教室から出た。
「隣、良い?」
ベンチに座っていた俺にかけられた声。
顔を上げれば 見たことのない人が立っていた。
「…良いけど」
「ありがとう」
他にも空いてるベンチは沢山あるのに、何故わざわざここに?
「俺のこと 覚えてない?」
急な彼の問いかけに俺は彼の顔を見て 首を傾げる。
「どこかで会ったことある?」
「まぁ、覚えてないか」
「ごめん」
自販機で買ったトマトジュースを飲みながら 記憶の中を遡る。
中学にはこんな子いなかったよな?
それ以前、、はない。
「入試の時に、助けられたんだよね。君に」
「入試、、」
確かに入試では手当たりしだいに人を助けていたし、その中に彼がいたのかもしれない。
けど、そんなこと一々覚えてないな。
「いいよ。覚えてなくても。ただ、俺が勝手に覚えてただけだし」
「そう、なんだ。あの時はごめんね」
「え?なんで?」
謝られる意味がわからない、と彼が言った。
そういうもんなの?
「いや、俺が君を助けたから 君が個性を使うチャンスを奪っちゃったでしょ?」
あの時 俺は勝手に弱者という分類を作った。
それを救うという名目で 個性を使った。
ヒーローを目指すくらいだし、あの場に 弱者はいなかったはずなのに。
「………変わってるね」
「そうなの?」
わかんないや、と呟いて ポケットの中のタブレットを口の中に何個か放り込む。
「君は、ヒーロー科に 入れた?」
「うん。一応 A組」
「そっか」
彼が何か言おうと口を開いた時 けたたましい音を立てて 警報が鳴った。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難してください』
初めて聞く校内放送に顔を見合わせる。
「セキュリティ3ってなに?」
「さぁ、、?けど、屋外に避難ってことは ここにいる分には良いのかな」
「どうなんだろ」
ちょっと、行ってみる?と彼に尋ねれば 少し間を空けてから 彼が頷く。
「そういえば、さっき何を言いかけたの?」
「あ、名前。聞いていいかなって。俺は心操人使」
「蛟 血郷。好きに呼んでくれていいよ」
校舎の方に歩いて行けば見えたのは 校内に入ってきているマスコミ。
あれ、入り口はセンサーで閉まる奴じゃなかったっけ?
どうやって入って来たんだろう。
「マスコミが入って来ちゃったみたいだね」
「ちょっと、見に行っていい?」
「なにを?」
校門、と答えれば彼も俺の考えに気づいたみたいだった。
パトカーのサイレンも聞こえ始める中、校門にたどり着いた俺たちが見たのは 粉々になった壁だった。
「壊されたっていうには なんか、、」
粉々にされた破片を一つ拾い上げる。
なんていうか、断片が綺麗すぎる。
「なんか、変じゃない?」
心操も同じように思ったようだ。
マスコミがここまで やるとは思えないし。
「変だよね」
「危ないから教室戻れよ〜」
聞こえてきた声に 聞き覚えがある。
確か、職員室で話した人だ。
「あ、なんだ。猫ボーイじゃねぇか」
「…蛟です」
「知ってる知ってる。危ないから、教室戻っとけ」
わかりました、と答えて 隣にいる彼の顔を見る。
「俺も戻るよ。てか、なんで猫ボーイ?」
「初日に、子猫 拾ってきたから。多分」
「本当に優しいんだね」
そんなことないよ、と笑って校舎に入れば 中はまだいつもより騒がしかった。
「じゃあ、また…声かけてもいい?」
心操の言葉に首を傾げる。
「なんでわざわざそんなこと聞くの?」
「いや、俺 普通科だし」
「…学科って そんなに大事なのこと?同じ 学校に通ってるんだし気にしなくていいと 思うんだけど」
目を丸くさせる彼に俺は言葉を続けた。
「それに、ヒーロー科の試験受けてたならヒーロー目指してるんだよね?いつか、同じクラスになるかもしれないじゃん」
「え?」
「あれ……なんか、変なこと言った?」
相澤先生の時といい、今日は上手く会話が出来ていないようだ。
「えっと…ごめん。俺よく 変なこと言うから。そういうの気づいたら 教えて」
「…変ってわけじゃないんだけど。いや、やっぱり変なのかな?」
「え、なにそれ。どっち」
変だけど、俺は嬉しかったから いいよと彼は少しだけ笑った。
「じゃあ、またね。蛟」
「あ、うん。また」
教室に戻ってから、HRの続きが行われた。
委員長が変わったりしてたけど、まぁ俺にとっては どうでもいいことだった。
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