待ちくたびれたよ

眠れぬ夜に体も慣れてきた。
繰り返される夢にも、飽きてきた。
夢の中で繰り返されるのはアテネで過ごした日々のこと。
初めは厄介なものだと思っていた。
だが、繰り返し 飽きるほど繰り返していくほどそれは 過去の記憶の整理をしているように思えた。
そして、アテネから離れたことで忘れていたことを 思い出させてくれるいい機会でもあった。

「おいおい、今日も顔色最悪だな!?」

おはようよりも前に俺に詰め寄った鋭児郎にそう?と首を傾げる。

「いつもよりは寝れたし、最高に調子良いよ」

珍しいな、と彼は笑う。
一度染み付いた守られる立場というのは 抜け出しにくい。
心配されることがうざいわけじゃないけど、そんな気にしないでいいのにとは思わないでもない。

「血郷」

爆豪がくい、と顎で俺を呼ぶ。
相変わらずの態度だと思いながら 彼に駆け寄れば 座れ、とソファに俺を座らせた。
そして、無理矢理上を向かせた彼は 俺の目の上に何かを置いた。

「何?」
「…蒸しタオル。クマ消しに良いんだとよ」
「へぇ」

時間まで乗せとけや、と彼は言って 足音が離れていく。
爆豪の過保護も相変わらずだ。

「仲良しじゃん、最近。爆豪と蛟」
「上鳴?」
「瀬呂くんもいまーす」

ソファの左右が沈み込む。

「元々の性格が、結構世話焼きじゃない?」
「それはあるな。文句言いながらも宿題教えてくれるしな」
「それの延長だろ」

タオルに指先を触れる。
これが温かい、か。
指に伝わるのはただそこにある、ということだけ。
温かいも冷たいも どんな風に指に伝わるんだろう。
昔は知っていたはずなのに それすらも忘れてしまったな。

「てかさー最近、蛟キレッキレじゃん?なんか秘訣あんの?」

瀬呂が俺の脇を突っつきながら そう問いかける。
それは俺も聞かせて欲しい、と新たに聞こえてきたのは鋭児郎の声だろう。

「昔以上に復習に時間かけてるよ。指の先まで感覚を思い出すイメージで。結局 反復だから」

不眠の原因でもあるけれど。
それのお陰で確かに最近は動きやすくなってきていた。
血の一滴一滴に神経が行き渡るような。
重たい頭が 酷くクリアな矛盾。
だが、気にしていなかった。

「お、そろそろ行かなきゃか。着替えてくるわ」
「おー」

一足先に制服に着替えていた俺は離れていく足音を聞いていた。
ここにはもう誰もいない、耳だけで判断すれば。
だが、血が教えてくれる。

「どうかした、焦凍」
「どうしてわかった」

焦凍の問いかけに 彼にわかるように血のミストを一纏めにして彼の眼前に漂わす。

「…こんなとこでもやってるのか」
「練習するに越したことはない。バレたら怒られるだろうけどね。どうかした?俺に何か話?」
「…親父からの、伝言だ。伝え忘れていたと」

伝言?とタオルが落ちないよう 少しだけ首を傾げる。

「ホークスというヒーローを知ってるか」
「この間、エンデヴァーと一緒に戦ってた?」
「…あのヒーローが、血郷に会いたがっていた」

俺に?
何故?

目の上のタオルを持って、差し込んできた光に慣れるよう数回瞬きを繰り返す。

「…何で 俺に会いたがってんの?」
「知らない。親父も、わからないらしい。けど、お前にそう 伝えてほしいって」
「伝えられた所で、会う方法はなくない?」

だから、と焦凍が差し出した小さな紙。
二つ折りにされたメモには携帯の番号が書いてあった。

「連絡するかしないかは 任せるそうだ」
「そう」

受け取ったそれを光にかざしてから、焦凍に差し出す。

「何だ?」
「燃やしていいよ」
「は?」

勝手に外してんじゃねぇぞ!と怒鳴り声と共に聞こえてくる足音。
ソファから立ち上がって 焦凍に笑いかける。

「いらないから、燃やしといて」
「…いいのか?」
「俺に話すことはないよ。ヒーローとは」

怒んなよ、と宥めながら爆豪の背を叩く。

「全然薄くなってねぇじゃねぇか!そのクソクマ!!」
「また放課後やるから許して。学校行こう」
「お前は治す努力が足りてねぇ」

ごめんごめん、と笑いながら 寮を出る。
別に、ヒーローが嫌いなわけではないけど。
今は関わりたいとは思わない。
転弧兄さんとのことを知られるのも困るし。





いつか、そんな日が来るとは思っていた。
彼はずっと、努力を積み重ねてきたのだから。

「今回、特別参加者がいます」
「しょうもない姿はあまり見せないでくれ」

ブラドキング先生の陰から現れたのは彼の姿。
待ちくたびれたよ、なんて 思いながら彼を見つめる。

「ヒーロー科編入を希望してる 普通科C組心操人使くんだ」
「「あーーーー!!!」」

一瞬交わった視線を彼はすぐに逸らした。

「一言挨拶を」
「何名かは既に体育祭で接したけれど拳を交えたら友達とか…そんなスポーツマンシップ掲げられるような気持ちの良い人間じゃありません。俺はもう何十歩も出遅れてる。悪いけど必死です。立派なヒーローになって俺の個性を人の為に使いたい。大切なものをこの手で守りたい。この場の皆が越えるべき壁です。馴れ合うつもりはありません」

拍手と共に ギラついてるとかそんなコメントが彼に向けられる。
まぁ、必死だからな。
僅かなチャンスをものにする為に彼は 今が試練なんだろう。

「じゃ 早速やりましょうかね」
「今回はA組とB組の対抗戦。双方4人組をつくり1チームずつ戦ってもらう!!」

人数の半端はどうするのでしょう、という質問に 今から説明する、と相澤先生が目で周りを黙らせた。

「まず心操は今回2戦参加させる。A組チーム・B組チームそれぞれ一回ずつ。そして、A組の余りの一名も どこかのチームに参加する」
「5対4だと4人が不利じゃん!!」
「心操の場合は経験のない心操を4人の中に組み込む方が不利だろ。5人チームは数的有利を得られるがハンデもある。A組の余りに関しては ただ有利になってしまうから、シチュエーションの条件をつける」

己の陣営の檻に4人を捕まえた方が勝利。
5人チームでも 4人が捕まれば負けってことか。

「お荷物抱えて戦えってか。クソだな」
「ひでー言い方やめなよ!」
「いいよ、事実だし」

まぁお荷物であることに 間違いはない。
4組のもう一つの5人組は どんなシチュエーション条件をつけられるんだろう。

「じゃ」
「クジな」

それぞれ番号のついたボールを引く中、俺のボールには何も書かれていない。
先生を見れば、当たりはお前かとニヤリと笑った。

「よかったよ、蛟が心操と同じグループにならなくて」
「俺とやったら お荷物になんかなりませんもんね。俺のチームはどうするんですか?」
「この後もう一度くじ引きだ」

俺と人使以外のチームが決まり、先に彼がボールを引く。
引いたボールにはA組は1番、B組は5番と書かれていた。
残す2〜4に俺が入るということか。
引いたボールは3番。
振り返れば焦凍が じっと俺を見つめていた。
焦凍、飯田、障子、尾白か。
比較的関わったことあるメンバーだし、陣形も組みやすいか。

「よろしく、」
「あぁ、ちょっと待て蛟。お前は話し合い不可だ」
「…と、いうと?」

どういうこと、と視線が集まる。

「本来であれば、制限時間20分で自陣からスタートになるが。お前だけ10分経過後から 駆けつけてもらう。わかるか?」

求められるのは、迅速な状況判断。
そして、情報が少ない中でのチームメイトとの連携と短い制限時間での作戦の組み立て。

「わかりました。俺が出る前に、試合が終わってた場合は?」
「その時はそれ以降のグループに繰り下げ。条件は変わらない。異論は?」
「ありません。10分で、終わらせます」

焦凍たちの方を見て、ヘラッと笑ってやる。

「俺にもいいとこ、残しといてよ」
「お前に出る幕などない」

最初のチームがそれぞれの陣営に移動する中、ハードル高ぇじゃねぇかと爆豪が笑う。

「そう?全然、足りないくらいだけどね」
「…お前、」
「あの時に比べりゃ、ぬるい」

そうだろ?と頬の火傷を指先でなぞり、笑ってやる。

「時間がないんだ」
「は?」
「アイツらは1秒だって、待っちゃくれない。そうだろ?」

ネックレスを握りしめて、笑う。
その笑顔を見た彼は舌打ちを零す。

「気持ち悪ぃ面見せんな」
「慣れてよ、いい加減」
「…お前1人で戦わせたりしねぇよ、俺がお前を守ってやる。だから、お前も 俺を守れよ」

当然だろ、と呟いて お互いの拳をぶつけた。

「そんじゃ、まぁ。完膚なきまでの勝利を」


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