未熟者
『第3セット 4-0でA組の勝利!!』
「時間ギリギリか。助けに行くの遅くなってごめんな、尾白 障子」
「いや!2vs1なのに止めきれなくてごめん」
「骨抜もいたし、2vs2でしょ。ほとんど」
血繭に包んだ焦凍を両腕に抱き抱え、まだ意識の戻らない彼にお疲れと呟く。
「飯田もお疲れ。結構疲労した後なのに 無理させた」
「そんなことはないぞ!助けてもらっているしな」
「あの状況では 焦凍を託すべきではなかったね。折角の飯田のスピードが無駄になった」
離れてた2人とも意思疎通出来たら良かったんだけど、通信手段がないのは痛かった。
「とりあえず全員保健室な。反省会は後に回す」
「わかりました」
保健室のベッドに焦凍を寝かせ、無傷の俺は治療を眺めていた。
回原はすぐに戻り、角取も最後に血縛しただけだったから、すぐに戻ったが 他のメンバーはまだ 目を覚ましていない。
「今回は怪我はないのかい」
リカバリーガールの言葉にはい、と答えれば成長したねと 手のひらにお菓子を乗せた。
お食べ、とお菓子を指差した彼女にありがとうございますと小さく会釈をして 袋を開ける。
「顔色は、相変わらずだね。眠れているかい」
「いえ、そこは…変わらず」
「行き過ぎちゃいけないよ。アンタは、戻れなくなるタイプだ」
リカバリーガールの手が俺の頭を撫でた。
「分かってます」
「あ゛!!!?試合の結果は!!!?」
保健室に似合わぬ大声。
隣のベッドで起き上がった鉄哲がこちらに視線を向けた。
「4-0でA組の勝ち」
「…クッソー!悔しい!!」
「いい試合だったぞ」
飯田の言葉にそれでも負けは負けだと 彼は言う。
「ねぇ、ひとつだけいい?」
「なんだ?」
「何で、最初に無闇矢鱈と建物を壊した?」
彼はピタリ、と動きを止めた。
「敵に勝てばいい?人を救えばいい?確かに、そうかもしれない。けど、その建物1つ1つにも 誰かの思い出がある。大切な、場所かもしれない。今回は工場地帯だったけど、そこが壊されれば誰かの生活が脅かされるかもしれない。…そういうことは、考えないの?」
「そ、れは…」
「自分の土俵に持ち込むのは構わない。それが、勝つためにベストだ。けど、その為に破壊行為を行うなら それはヒーローと言える?」
俺の考え方が正しいのかはわからない、と空になった袋を握りしめて 立ち上がる。
「建物を壊さなくちゃ捕まえられないなら、俺だってきっと 壊すんだろうけど。今回のは、それとは違うって思った。君らがどう考えてやっていたかも、わかんないけど」
自分に向けられる視線に 俺は笑った。
「…自分の大切な場所が、更地になっているのは…案外堪えるものだよ。俺も、最近知ったことだけどね」
風の吹き抜ける丘。
唯一存在する 名前の刻まれない墓標。
記憶の中では、子供達の声が聞こえていた。
笑うことも泣くこともしない 子供いうには人形じみたもの。
けれど、確かにそこに子供達が生きていた。
俺たちの家は、確かにそこにあった。
「ごめんね。ただの八つ当たりかもしれない」
▽
『さて第4セット!A組が2勝1敗とリードしているが その1勝はほぼ心操のおかげ!もう一つも蛟の独壇場!はたしてこれは互角と呼べるのか!?』
「「酷い言い方だぜ、ブラド先生!」」
「お前ら、やめろ」
イレイザーヘッドの制止に、これは正当なデモだと訴える。
「現場で失敗しても同じ事をするのか?B組の方がより深く対策を講じてる。これが事実だ。俺よりブラドの方が上手だったようだ」
「所詮トラブルメーカー!知ってた!?トラブルってのは未熟者が引き起こすんだよ!だからこその、爆豪くんの誘拐と、蛟くんの怪我だろう!?」
物間のその一言に A組のメンバーの空気が変わった。
イレイザーヘッドも、含めて。
「おい!それは違ぇだろ!?」
「言っていい事と悪いことがあんぞ!!」
「俺のことは気にしなくていいよ。事実だから」
いつの間に戻ってきていたのか、血郷がにこりと笑う。
「人使のおかげの勝利だというのなら、初めて組んで人使が活躍できる舞台を作ったチームメイトが凄いと思うし、ぶっつけ本番で力を発揮できた人使が評価されるべきだ。それに、俺の独壇場っていうのは、正しい見方だとは思わない。焦凍が鉄哲を削ってくれていた、飯田と尾白が回原を捕まえておいてくれた、障子が角取を引きつけておいてくれた。そういう1つ1つがあったから勝てただけだ。1vs4じゃなく、5vs4で戦った結果だ」
俺はそうやって判断して欲しい、と言ってから 物間に視線を向けた。
顔の火傷に触れて、彼は微笑む。
「この傷は、確かに俺が未熟だったから負った傷だ。馬鹿にされても、構わない。この傷はその戒めとして、この顔に遺り続ける。けど、爆豪は違う。あの時、お前だって誘拐される可能性はあった。それを、回避できたと言いたいのか?」
ゆっくり、血郷が物間に歩み寄っていく。
その一歩一歩に、空気が凍りついていく気がした。
「死柄木弔は…敵連合は、こちらが未熟だろうが関係なく、攫いに来るよ。あの日みたいに。ねぇ、それは…俺たちが未熟だからと 責められる行為なのか?」
物間の首に 血郷が触れる。
「爆豪の誘拐は、爆豪が引き起こしたトラブルか?USJの襲撃は、俺たちが引き起こしたトラブルか?なぁ、答えろよ。だったら、お前らがその中心にいた時。自分達が未熟だから起きたトラブルだと…言えるのか?」
見たことない、横顔だった。
無表情に、冷酷な瞳。
「俺たちが、悪いのか?殺されても、襲われても、未熟者だからと 責められろと 言うのか?」
「やめろ、蛟」
冷酷な瞳をイレイザーヘッドの手が覆い隠す。
「何のトラブルもなく、お前らが過ごせているのは。トラブルに巻き込まれている 俺たちがいるからじゃないのか?自分の生の裏側には確実に誰かの死がある。お前らの平穏無事は、俺たちの多事多難によってもたらされているんじゃないのか?」
「やめろと言っているのが聞こえないのか。物間、お前も言っていい事と悪い事がある事くらいわかるだろ?」
「USJの目的はオールマイトだった。偶然居合わせたのがA組だっただけ。君らのクラスが当事者だったなら、誘拐のターゲットも…君らだったかもね?その時、君は今と同じ事を言えるかな」
目を隠されたまま、血郷は笑う。
目が隠されているからなのか、尚更不気味な笑みに見えた。
普段の優しい彼じゃない。
「蛟、お前も。言って良い事と悪い事がある。仲間が傷付けられて怒るのは構わないが、言葉を選べ。お前が思っているより、今お前が吐き出した言葉は鋭いぞ。人を傷付ける」
目を隠していた手を離し、血郷と目を合わせて言ったイレイザーヘッドに彼は首を傾げた。
「ちょっと よくわかんないです」
「は?」
「言葉が人を傷つけるんですか?なら、言葉で人を殺せ「血郷」あ、焦凍?もう平気?」
それは普通じゃない、という轟の言葉に彼は目を瞬かせてから 笑った。
「久々だね、それ」
「血郷が久々にそうなっただけだろ。ここのところ 普通だった」
「上手くなったでしょ」
そうだな、と轟は頷き イレイザーヘッドに すいませんと頭を下げ 血郷の手を引いた。
「物間も、悪ぃ。血郷にはそういう絡み方しないでくれるか?殺されたくはないだろ」
「俺がまるで人を殺すみたいじゃん。やらないよ、そんなこと」
「人ならな」
誰も、何も言えなくなった。
だってそうだろ?
血郷のあんな姿を俺は見たことない。
周りの奴らだって、きっとそうなんだ。
「足手まといになって悪かった。また、助けられた」
「ん?いや、焦凍が削ってくれてたから 硬化が解けて落とせたんだよ。ありがとう」
何事もなかったかのように、彼らは笑う。
それが妙にこの場の空気に似つかわしくない。
咳払いをして、再開するぞとブラド先生が声をかけた。
何でだろう。
どうしようもなく、血郷が遠い存在のように見えてきた。
彼の隣に並びたい、彼を守りたい。
その感情すらも烏滸がましいのではないかと。
追いつける気がしない、焦りを 感じた。
←|→
戻る