感情を持った人間の特権


『わずか5分足らず…!!思わぬチームワークでA組4-0の勝利だ!』

勝った爆豪は当然だ、と言うように視線をそっぽに向けた。

「必要以上の損壊も出さず捕捉から確保も迅速。機動力・戦闘力に優れた爆豪を軸に3人ともよく合わせた」

褒めながら見せた相澤先生のグッドポーズは驚くほど似合わない。

「かっちゃん おめーやりゃできるのなぁァ!耳郎かんぜんヒロインだったわ」
「ウチ ヒーローだし」
「不良が子猫拾った感じだよなー」

瀬呂と上鳴の言葉を無視した彼はオールマイトからの「震えたよ」という言葉に頭を掻き「風邪でもひいてんじゃねーの」と背を向けた。
若干照れてるのかな、とも思うけど どうなんだろ。

「かっちゃん!」
「どけカス!」
「進行方向上にいないけど…!!」

それに、緑谷と爆豪が話しているのも珍しい。
会話の詳細は聞こえないけど、変わったんだろうな あの2人の関係も。

「おい、見たか 血郷。これが完膚なきまでの勝利だ」
「見てたよ」
「お前のじゃ、まだ緩ぃ」

次は負けないかは大丈夫と答えれば、彼は馬鹿にするように鼻で笑った。

「血の鎧。お前にゃ、いいんじゃねぇか。…ガスマスクも、アームカバーも全部…肌を隠すためか」
「正解。まぁ、こうでもしなきゃ 俺、死んじゃうから」
「…よくわかってんじゃねぇか」

最近仲良しじゃん、と上鳴が俺の肩に手を回す。

「さっきの爆豪にも見せてやりたかったぜ」
「あ゛?!さっきのって何だよ」
「物間がお前と蛟のこと馬鹿にしたんだよ。そしたら、俺のことは構わないけど 爆豪を悪く言うのは許さねぇって。あんな怒ってる蛟見たことないぜ 俺」

な?と上鳴が俺の顔を覗き込む。
そうかな?と返せば、それはなんだと 爆豪は言った。

「なんで、そうした?」
「何が」
「俺が悪く言われた怒ったのか?不快だったのか?なんで、俺を庇おうと思ったんだ?」

上鳴が なんで庇われて怒ってんの、と慌てる中 俺は 首を傾げた。

「感情じゃないと思う。ただ、爆豪が 馬鹿にされるべきことではないと 判断した」
「ちょっとこっち来い」

上鳴を引き剥がして、爆豪が俺を クラスの皆の所から遠ざけた。

「もう一度聞く。なんでそうした」
「爆豪は好きで攫われたわけじゃない。あの時の俺とは違って不可抗力だろ。それを、爆豪が未熟だから 招いたトラブルだというのは 違うと思った」
「それはわかった。なんでそれをわざわざ相手に伝えた?言わずに無視することもできただろ」

爆豪が悪く言われているのを無視するの?と首を傾げればそうだよと彼は言う。

「それは、ないかな。黙らせたいと思ったんだよね。君らの言葉で言うなら、ムカついたんだ」
「…そうか、」

爆豪が少しだけ 嬉しそうに笑った。

「最近、少しずつ。戻ってきてんな、お前の感情」
「え?」
「前よりも、事象も感情の結びつきが出来てきてる」

彼の言葉に俺はそれはないと思う、と言い返しそうになって口を閉ざす。
戻るはずがない、奪われたものなのだから。
けど、そうやって見えているのなら 俺の演技が上手くなったんだろうな。
焦凍にも 最近は怒られていなかったし。

「そうだといいな」

俺はそう言って 笑った。





最終セットはA組の勝利で終わった。
緑谷のよくわからない新技に翻弄される場面もあったが、最後は作戦勝ちというところだろう。

「えー、とりあえず緑谷。なんなんだお前」

緑谷に向けられた相澤先生の質問は至極真っ当なものだった。
新技というには 今までとかけ離れすぎていたし。

「僕にもまだハッキリわからないです。力が溢れて抑えられなかった。今まで信じてたものが突然牙を剥いたみたいで 僕自身すごく恐かった」

今まで信じてたものが突然牙を剥く。
その表現に思い浮かぶのはあの日のことだった。
いや、それだけじゃない。
その前だってそうだ。
信じていたものというのは、突然牙を剥く。
信じれば信じた分その牙は鋭く強力になる。

助けてくれてありがとう、と緑谷が麗日と人使に言った。

「俺は別に緑谷の為だけじゃないです。麗日に指示されて動いただけで。ていうか…柳さんたちも黒いのに襲われているのが見えた。あれが収まんなかったらどのみちこっちの負けは濃厚だった。俺は緑谷と戦って勝ちたかったから止めました。偶々そうなっただけで、俺の心は自分のことで精一杯でした」

俯きながら話す人使に歩み寄った先生が捕縛帯を引っ張り首を絞めた。

「誰もお前にそこまで求めてないよ。ここにいる皆誰かを救えるヒーローになる為の訓練を日々積んでるんだ。いきなりそこまで到達したらそれこそオールマイト級の天才だ。人の為に、その思いばかり先行しても人は救えない。自分一人でどうにかする力が無ければ他人なんて守れない。その点で言えばお前の動きは充分妥協点だった」

先生はそう言って、ちらっとこちらに視線を投げた。
何か言いたげな、でも何も伝える気もないようなそんな視線。

「これから改めて審査に入るが恐らく…いや、十中八九!心操は2年からヒーロー科に入ってくる。お前ら中途に張り合われてんじゃないぞ」

どっちのクラスに!?と盛り上がる中、先生は首を傾げた。

「…喜んでやらないのか」

小さな声で彼はそう言った。

「当然のことを、どうして喜ぶんですか?」
「…なるほど、そうきたか」
「俺が一番見てきました。人使がどれだけ努力をしてきたか。どんな想いを持って、ヒーローを目指してきたか。…俺の、心を動かした男ですよ?来ないわけが、なんです」

嬉しくないわけじゃない。
嬉しいよ、努力が認められたのだから。
だけど、来年からは…彼も巻き込まれることになる。
敵連合との戦いに。
俺と、彼らの因縁に。

揉みくちゃにされる人使を一瞥して、ピアスを撫でた。

「ありがとうございます、相澤先生」
「は?」
「先生が育ててくれてから、格段と強くなったから」

はぁ、と大きく溜息をついて 先生が俺を人使の方に押した。

「俺じゃない」
「え?」
「どんだけ手をかけようが、ダメなやつはダメだ。だから、俺じゃねぇよ」

目の前で目を丸くする人使が、何の話?と首を傾げる。
頑張ったのは彼だ。
だから彼を褒めてやれ、とそういうことなんだろう。

「遅かったな。待ちくたびれたよ」
「…悪かったよ」
「冗談。おめでとう、人使」

同じクラスだといいね、と言えば そうだなと彼は表情を緩ませた。

「まだまだだけど、すぐに追いつく」
「そんな簡単に追いつかれたら困っちゃうんだよなぁ」





放課後。
いつもと同じように、訓練室を借りて彼を待つ。

「凄かったなぁ…」

彼が凄いことは知っていた。
入試の時、俺を助けたあの時から。
けど、そんなものじゃなかった。
彼は自分一人の力ではないと言っていたが、俺にはそうは見えなかった。
あの状況をひっくり返したのは間違いなく、彼だった。

「悪い、お待たせ」

HRが伸びた、と言った彼に俺もさっき来たから大丈夫だよと伝えて立ち上がる。
やっと俺は、スタートライン。
まだまだ、全然追いつけない。

「あ、人使」
「ん?うわ!?」

急に投げられた小さな箱。
キャッチしたそれはよく見るチョコレートだった。
真っ赤なパッケージには黒いペンでおめでとうと文字が並ぶ。

「ヒーロー科に転入、おめでとう。やっすいお祝いでごめんね」
「え?あ…」
「今度の休み、どっかでご飯奢るから。今日はそれで勘弁ね」

彼はそう言って笑って、今日の反省でもする?と制服を脱ぎながら背を向ける。

あの時も、嬉しかったけどここまでじゃなかった。
込み上げてくるものをぐっと抑え込んで、彼の文字の並ぶとチョコに額を寄せる。

「人使?」

振り返ったのだろう。
どうした!?と慌てた声と駆け寄ってくる足音。

あぁ、どうしよう。
なんで、血郷の言葉だとこんなにも響くんだ。

「え、何?どうした?頭痛い?大丈夫?」

顔を覗き込もうとする彼に飛びつけば、珍しくバランスを崩した彼は後ろに倒れこむ。
それでも俺の体を守ろうと、背中に手が回るところが流石だ。

「人使?」
「嬉しい」

呟いた言葉に彼は目を瞬かせた。

「嬉しくて、仕方ない。どうすればいいか、わかんないくらい」

見下ろした彼は、俺を見つめてからふっと表情を緩めた。

「なんだ、」
「なんだってなんだよ」
「そんなん、素直に喜べばいいんだよ。泣いたっていいし」

倒れたまんま、彼は手を伸ばして俺の頭を撫でた。

「喜ぶのも泣くのも…感情を持った人間の特権だ」
「え?」
「我慢する必要なんて ないよ。それに、ここには俺しかいないんだから」

両手を広げて、ほら?と促す彼ににやけそうになる口をなんとか抑えてその腕に飛び込んだ。

「まだ、スタートラインに立っただけだって、わかってるんだ」
「うん」
「けど、立てるなんて思ってなかったから」

俺なんか。
そうずっと思ってた。
俺なんかが。
俺の個性なんかが。
そんな感情を取っ払ってくれたのが、緑谷で、相澤先生でそしてなにより彼だった。

「ありがとう、血郷」
「お礼を言われるようなこと、なんもしてないよ。これは人使の努力の見返りだ」
「…それでも、きっかけをくれたのは間違いなく…血郷だ」

まだ、遠い存在だ。
それでも必ず、追いつく。
彼と一緒に、ヒーローになる為に。


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